第28話 頼れる?やつら
「そんな訳で先輩達にうちのクラスの混沌とした意見を見て意見が欲しいんです」
「寺川? どういうわけなんだい?」
週末明け、白守さんとクラスノートを広げ内容に頭を悩ませながら昼ご飯を食べていると押谷先輩と高荒先輩が来たので質問をすると押谷先輩が困り果てた顔をしてそう言った。
同じクラス委員なので『かくかくしかじか』で伝わると思ったのだが、流石にそうはいかないようだ。
「うちのクラスの出し物『小売』で決まったんですがみんなが出したコンセプトや売りたいものがバラバラでまとめるのが大変で……」
「なるほどね! 美雪を困らせるなんて困った奴らね」
おい、なんで俺は含まれてないんだ。とツッコんでも『なんか文句ある?』返されそうなので黙っておく。
説明するよりはクラスノートを見てもらった方が早いかもしれない。
「記録は取ってあるんで見てもらえば分かります」
「最初からそうしようよ、先輩達無駄に困らせただけじゃん」
白守さんのツッコミは無視して地面に置いたノートを拾い上げて前回のLHRのページを開けて渡す。
確か売り物に関しては『アクセサリー』『お菓子』『缶詰』にまとまったがコンセプトが多すぎる。
覚えている範囲で言うと『近未来』『SF』『平成レトロ』『江戸時代』『昭和レトロ』『中世ヨーロッパ』『幼稚園児のお店ごっこ風』『コスプレ』等々……。
感じ的に『映え』とやらや『好み』、『雰囲気』を大切にしたい生徒が大体同じくらいいるのだろう。
共通しているのはコンセプトのイメージがはっきりしているってところか。
「ふむふむ……これはまとめるよりは売りたいものにあったイメージを当てはめて提案するのはどうだろか?」
「と言いますと?」
「例えば売るものを『アクセサリー』にするなら……『中世ヨーロッパ』や『江戸時代』を当てはめればいいんじゃないかな?」
「中世ヨーロッパのアクセなんて無駄に派手だから高くなるよ」
「それなら『江戸時代』一択になるね」
邪魔にならないノートの端っこに押谷先輩がいつの間にか出していたシャーペンで『アクセサリー』と『江戸時代』を線で結んで書いた。
こういうのなら白守さんが得意そうだな。
「白守さんどう?」
「うん、それならかんざしとか
「ウデマモリ?」
「腕に付けるお守りです」
「なるほど~」
高荒先輩が明らかに想像できてない返事をする。まぁ俺もどんなものか想像できないのだが。
とりあえず先輩のおかげで1つ案が出来た。
「次は『お菓子』ね! 『お菓子』って言っても何のお菓子にするかよね」
「それなら『平成レトロ』はよく分からないけど『昭和レトロ』──つまり駄菓子屋さんにするのはどうかな?」
「なるほど……」
駄菓子屋か。幼稚園の頃に行ったきりか。いや、小学生の頃か。昔ながらの雰囲気のある駄菓子屋が小学校の近くにあったような気がする。今どうなっているだろうか。
「平成レトロは概念的なのだからちょっと難しいわ。それに売り物を確保するのが無理よ」
「タカーラ、ありがとう。じゃあ、『お菓子』は駄菓子にして『昭和レトロ』だね」
「駄菓子はみんなどういったのがいいか出やすそうだね」
「そうだな」
白守さんと一緒に盛り上がっているのをしり目に先程と同じように押谷先輩はノートの端に『お菓子』と『昭和レトロ』を並べた。
これで2つか。先輩のやっていることは分かった。なら──
「そうなると『缶詰』で関連付け出来そうなのは……『近未来』とか『SF』とかですかね? イメージしやすくするなら宇宙食とかになるんですかね? 缶詰ではないですけど」
「寺川ナイスだね!」
「宇宙食ってなにがあるんだろ?」
白守さんは携帯を操作して調べものを始める。開始数分で白守さんの顔が驚いた表情で固まる。
「白守さん?」
心配そうに声をかけると白守さんが携帯の画面を見せてくれた。
えっと──たっか! グミで1袋で1400円くらい、アイスに至っては2000円を優に超えている。
珍しさで見に来る人はいるかもしれないが買う人はなかなか出ないだろう。
「普通の缶詰なら色々あるよ。パンとか焼き鳥、も少し変わったもので行くならイナゴの甘露煮とかカレーとかもあるよ」
「イナゴは流石に売れないんじゃないかしら……」
「一般的なものであればシュールストレミングもあるよ」
ん? 今一般的なカテゴリーに何があっても属さないものの名称が聞こえたような気がするんだけど。き、聞き間違いだよな。
「でも売るものを缶詰にするとコンセプトをくっ付けづらいですね……」
「そうだね……。今出てる候補だけだと厳しいね」
携帯で缶詰の一覧を見ながら白守さんと頭を悩ませる。
よく考えると缶詰は重量あるし、運搬も一苦労しそうだ……。
「でもさ、アクセサリーも手作りするとなると同じものを夏休みや授業や部活の合間を縫って作らないといけないよね」
「そうなると既製品になるが、『普通の店でよくね?』みたいになりそうだな」
夏休みだと比較的生産効率がいいのかもしれないがそれは時間があるだけだ。
人には得手不得手がある。それを無視して一定のクオリティや生産数を押し付けるのはいかがだろうか。
そうなると既製品を売るしか手がない。
「おうおう、悩んでるね若いの」
高荒先輩がからかうように俺達の様子を見ながらそう言ってくる。いや、
「なら、少しクラスメイトのみんなには悪いけど、『アクセサリー』と『缶詰』に関しては適当な案を作って『お菓子』──『駄菓子』押すようにプレゼンするといいんじゃないかな?」
「それだと私達のやりたいことをクラスのみんなに押し付けることになりませんか?」
「いいのよ! 好き勝手に意見言って投げたんだから、美雪達がある程度決めても文句言えないわ」
何度か白守さんの肩を軽く叩きながら高荒先輩が言う。白守さんが少し複雑そうな表情をしていたが首を縦に振った。
2つ捨て案にするにしてもある程度決めておかないとこっちが意図的に誘導しようとしているのはバレてしまうだろう。
「ボクらの意見は絶対じゃないからね。あとは2人で決めるといい」
「そうね。また困ったら相談しなさい。ゆーが考えてくれるから」
「出来ればタカーラも手伝って欲しいんだけどね」
「考えておくわ」
先輩達のやり取りを見てるとついついにやけてしまう。幼馴染だからなのかお互いを信用している感じが心が温まると同時に少し不安になってしまう。
あまり開きたくない記憶の扉が開きかけていることに気付き、急いで閉める。
「こんなんで大丈夫か……」
「寺川君? どうしたの?」
「あ、すまんすまん。なんでもないよ」
無意識のうちに思っていることを口から漏らしてしまった。心配そうに白守さんが声をかけてくれる。努めて明るく返した。
***
「そんな訳でうちのクラスは『昭和レトロな駄菓子屋』で決まりね!」
先輩に文化祭の出し物について相談した週のLHR。白守さんの元気できれいな声に教室に拍手が鳴り響く。
あの後、白守さんと案を練ってみんなに提案すると思った通りに駄菓子屋に多数の表が入ってほぼ満場一致で駄菓子屋に決まった。
結局、先輩達の言う通りにしてみたがそれがよかったようだ。
やはり、多少の
準備の面倒くささや残った時のリスクもそこそこあったおかげもあったが。
「じゃあ、私達も色々調べて売るお菓子考えてみるけど、みんなも思い出のお菓子があったら教えてね」
白守さんの言葉にクラスメイト達は思い出の駄菓子について語り始める。
端っこでラーメン屋のように腕を組んでいる
「すんなり決まってよかったな」
「そうだね。文化祭、どうなるか楽しみだね!」
「そう、だな」
そうは言ったが想像できないのが本当のところ。
でも先輩達も考えてくれたんだ。いい出し物にできたらいいな、と胸を高鳴らせていた。
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