第26話 結果発表

 テストの後のテスト返却期間。一応、テスト最終日が金曜日に設定されているとはいえ、日程や時間割の関係で急いで採点を終わらせないといけない先生もいる。

 1年生179人のテストを急いで採点しないといけないとなるとかなりの重労働だろう。それで採点ミスなんてしたら生徒に怒られそうだ。成績は進学に直結するだろうし仕方ないだろうが。

 先生の事情に同情を感じた初夏。

 テストは全教科返却されたが学年順位は採点ミスなどの修正を加えてからの発表なのでテスト返却から少し遅れるそうだ。

 そして今日、待ちに待った結果が学年室前に貼りだされる。

 登校の際に見ようと思ったが他の生徒が群がっていたため、落ち着いたころに見よう。

 それに白守さんとみた方がいいだろうしな。


「寺川君おはよう」

「ああ、おはよう」


 いつもの時間に教室に入ってくる白守さんの挨拶にいつものように返す。その顔にテスト中、ホラー映画に出てくる子供のようなクマが出来ていたが今はその影はない。


「白守さんは結果見たか?」

「ううん。人は多くて」

「そうか。俺も人が多くて見れなかった」


 やはり、あの人混みじゃ見れるはずもないか。

 落ち着くころには朝のSHRが始まってしまうだろう。なので今すぐ見に行くわけにはいかないだろう。


「まぁ、昼休みくらいにはくだろうよ。昼休みいつものところ行くついでにでも見とこう」

「そうだね。今日は移動教室無い日だからね」

「マジか。寝放題じゃん」

「むぅ……。でもそれが最後の居眠りになるかもだよ?」


 俺のセリフに少し不満そうな表情かおをした白守さん。自信があるのかすぐに意地悪そうな笑顔を浮かべる。

 一応、テスト返却時にはお互いにテストの点数を見ないようにと決めていたので白守さんがどのくらい点を取ったのか分からないし白守さんも俺の点数を知らない。


「そうだといいな。俺も白守さんの弁当が懸かってるからな」

「別に言ってくれれば作ったのに……」


 白守さんは小さな声で何か言ってきた。あまりにも小さな声だったので簡単にクラスの喧騒にかき消されてしまう。


「なんだって?」

「なんでもないよ。吠え面かかせるんだから!」

「はいはい」


 本人からしたら睨みつけているつもりだろうが、俺からすると頑張って威嚇する小動物のように見えて可愛らしく見えた。

 そんなことを言ったら怒られそうなので顔に出ないように必死に抑える。


 ***


 そして昼休み、待ちに待った結果発表だ。

 いつものように総菜パンの詰まった袋を持ち出し、いつもの場所へと向かうべく教室を出る。

 まだ結果を見る生徒がいるが思った通り、その数は朝に比べると少なくなっていた。

 追いかけるように教室を出た白守さんが俺に追いつく。


「どう?」

「まだ俺の順位は見てない。とりあえず探すか」

「そうだね」


 そう言ってお互い、自分の名前を探す。

 今回は現代文、数学A、数学1、化学、世界史、英語の6教科、最大点数は600点となっている。

 期末テストはそれに加えて家庭科、保健体育、情報の3教科が加わる。

 さて、探すかと上位から下位へ向かって自分の名前を探した。

 俺の名前はすぐに見つかった。


「13か」

「え?」


 自分の順位を呟くと白守さんが驚きの声を上げる。白守さんも同じように自分の名前を探していたようだが、どうやら自分の名前を探すのに必死だったのか俺の順位には気付かなかったようだ。

 しかし、すぐに白守さんが自分の順位を見つけたようだ。


「18位……」


 普通に良い順だと思うのだが白守さんはがっくりと肩を落とす。

 まぁ、今回は勝負してるから仕方ないか。


「というわけで弁当お願いな」

「う、うん」


 そう言ってさりげなく慰めるように背中をさする。悔しさからか少し暗い顔になっていた白守さんの表情が少しだけ明るくなったような気がした。

 とりあえず今日はお互いの健闘をたたえようじゃないか。


「テスト終わりなんだし、なんか購買で買おうよ。俺が出すからさ」

「でも、私負けちゃったし」

「だとしてもご褒美くらいはあってもバチは当たらないだろ」

「う~ん……」

「白守さん頑張ったんだし、な?」


 そう言って肩を軽く叩くと少し納得のできていない様子ではあったが首を縦に振ってくれた。

 白守さんと部室棟へ向かっていた足を購買へと向ける。

 学年室前の階段をゆっくり降りて2階へ向かう。少しした人だかりを辿れば我が校の購買だ。

 ショーケースには見覚えのある菓子パンからどこから仕入れたのか分からない変わり種のパンや以前、白守さんと食べたマヨ唐等が置かれている。

 受付で欲しいものを申告して購買のおばさんに取ってもらう方式だ。現品限りなので早い者勝ちである。

 アニメや漫画の世界ほど混んでないので白守さんでも問題ない。


「さて、俺は決まったけど白守さんはどうする?」

「そうだなぁ……」


 そう言って白守さんは顎に指をあててショーケースの中を吟味する。

 少し待っていると白守さんの視線がショーケースの端で止まった。


「これ! これがいい!」

「ん~っとこれは月餅げっぺいか」


 白守さんが目を輝かせながら指をさす先には良くコンビニで見かける月餅だった。

 別に俺はいいのだがこんなのいつでも買えるんだけどな。


「本当にこれでいいのか? そこら辺のコンビニで買えるぞ?」

「いいの、誰に買ってもらったのか、が重要なんだから!」

「そ、そうか」


 ドキッとしてしまい、視線が泳いでしまう。それを誤魔化すように購買のおばちゃんに注文し、目的のものを取ってもらう。後がつかえないように急いで会計を済ませる。

 部室棟への連絡通路は購買の目の前にもあるので今回はそこから真っ直ぐいつもの場所へと向かった。


「ねぇねぇ、私が持つよ」

「別にそんな荷物にならないし」

「負けたんだから荷物持ちくらいさせて」

「ん~、そのくらいならいいか」


 持ってもらうほどではないのだが白守さんの気が済むならと購買で買ったものを白守さんに手渡す。すると白守さんはキラキラのカードを眺める少年のように月餅を嬉しそうに見つめていた。

 ──誰に買ってもらったか、か。

 白守さんの言葉に胸がじんわりと温かくなる。そして白守さんの嬉しそうな表情かおを見て白守さんと同じように笑顔を浮かべた。


 ***


 少し浮かれた空気の昼休みを満喫していると渋い声の通知音が鳴る。

 白守さんの携帯からも鳴った──つまりクラス委員会絡みの連絡か。

 空気を乱されたような気がして少し興がさめてしまった。小さく息を吐きながら白守さんに視線を送ると白守さんは首肯する。

 面倒くさいが連絡は見ておかないと『知りませんでした』で済まない事態になるかもしれない。最悪、由比先生に呼び出されてしまうかもしれない。

 通知欄からLANEを開いてメッセージが読み込まれるのを待つ。

 パッと出てきたメッセージに少し驚いてしまった。


『クラス委員会各位

 テストお疲れ様です。

 クラス委員会の8月の活動予定が決まりました。内容は以下の通りです。


 業務内容 『市民ナチュラルホーム』の親子イベントの運営手伝い

 日時 8月×日~8月〇日(2日間)

 集合場所 正門付近

 ※移動はマイクロバスの送迎が来ます。


 予定は確定し次第、連絡します。


 現時点で参加可能な方はリアクションお願いします。


 クラス委員会顧問 由比』


 2日間ってことは泊りでのボランティアってことか。確か『市民ナチュラルホーム』は柏藤市の北側にある宿泊施設だったような気がする。

 宿泊施設がある上にキャンプ場があったり、近くの川で川釣り体験とかできる施設だったっけか。

 小学生の頃、市について調べた時に少し見たような気がする。


「泊りだってよ。白守さんは行く?」

「私は行こうかなって思うけど、寺川君は?」

「ん~……、気乗りしないかな」


 場所的に蚊がいるだろうし、この時期はすごく暑くなったからな……。

 でも白守さんは行くのか。


「寺川君が嫌なら残念だけど私も行かないことにする」

「なんでさ?」

「寺川君と思い出作りたいな、と思ってさ。最初のクラス委員の活動もいい思い出になったから、ね」


 微笑む白守さんの言葉に嘘はない、ような気がする。

 面倒くさいと思う気持ち、蚊がどうのこうのという言い訳を一旦排除して考えてみた。


「そうだな、白守さんがそう言うなら俺も行こうかな」

「なんか言わせたみたいじゃん」

「実質そんな感じだろ」

「そんなことないもん! ちゃんと選択肢あげたじゃん」


 ケラケラと笑って白守さんをからかいながら俺は1つの決意を固めた。

 俺も勇気出さないと、な。

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