第17話 オリエンテーリング
釈然としなかった班決めから時は経ち、校外学習当日。
私服で校門をくぐるという普段ではできない体験に心臓が早鐘を打つ。これは緊張はたまた不安なのか。
校門の先は入学式とはある意味違う賑わいになっていた。
クラス関係なく話す生徒達や班でとりあえず集まっている生徒達。私服を褒め合ってたりする姿もちらほらある。
集合時間までまだ余裕がある。適当に突っ立っておくとしよう。
携帯の画面でも眺めて時間を潰そうとした。
「寺川君! おはよう!」
「あ、白守さんおはよ──」
いつもの元気な声の白守さんにどこか安堵の気持ちを覚えながら声のした方向をみると俺は固まった。
──白守さんだけ江戸時代に取り残されているようだった。
江戸時代の町娘が来ているような服装──確か小袖(こそで)という名前だったはず。薄い水色の小袖に白色の帯閉めた姿の白守さんがこちらに駆け寄ってくる。その手には大きめの巾着袋を下げていた。
あまりの光景に目を疑った。
周りも白守さんの格好に視線を向けている。
「どうしたの寺川君?」
「いや、大丈夫だ。いきなり目の前にツチノコが現れた人の気持ちが分かっただけだ」
「なにそれ? それよりもどうかな?」
白守さんは周りの視線を気にも留めず、俺に服装を見せるためにクルっと回ってくれた。
まぁ、服装自体が浮いている点を除いては白守さんによく似合っている。
「うん。白守さんっぽくていいと思うよ」
「えへへ、ありがと」
白守さんは照れくさそうに笑うとゆっくりとした足取りで俺の横に立った。
みんなには隣に立っているように見えるが実際は少しだけ白守さんが寄りかかっている。
いつものやつに比べれば屁でもないので気にせずに携帯をいじる。
白守さんへの視線が収まってきた頃、大型バスが学校の敷地内へ入ってきた。
台数は5台。もしかしなくても俺達が今回お世話になるバスだろう。
元々から端の方にいたがバスの大きさゆえの威圧感についさらに後ろに下がってしまう。
5台すべてが動きを止めた頃、各クラスの担任達が校庭へ向かうのが見えた。
『一年生はグラウンドに集まってくださーい』
メガホンを持った他クラスの担任がたむろしている生徒に呼びかける。他人事のように思ったが俺達もだわ。
「白守さん、行こうか」
「うん!
「ああ、そうだな」
思わず笑みを浮かべながら白守さんと並んで先生達の待つグラウンドへ向かう。
ちゃんと並んで待機している生徒、先生がいてもかまわず他クラスの場所にいってまで雑談を続ける生徒と様々だ。
『出席番号順に並べ』とのことなので今は白守さんとは離れ離れである。
しかし、生徒が集まれば白守さんの存在がさらに浮いてしまう。
遅れてきた生徒も白守さんの恰好を見るなり、2度見していた。
始業のチャイムが鳴ると先生達が出席簿を取り出す。
『各クラスで出席を取りますのでちゃんと並んでくださいね』
先生がメガホンでアナウンスすると急いで自分のクラスに戻る生徒が数名現れる。
その様子を見守ってから先生達は出席確認を始めた。
あくびを噛み殺しながら自分の番を待つ。
──なんでこんなに退屈なんだろ?
心の端でふとそう思った。
***
出席確認が終わった後、つまらなくて長い前置きを経てバスに乗車。
高速道路という何も景色も変わらない場所をサービスエリア休憩を含め1時間半ほどかけて移動し、目的地に到着する。
バスはそのままでいるわけにはいかないので生徒を下ろすとさっさと停車場へと向かって行ってしまう。
俺達生徒は海浜公園の広場に集められ、改めて点呼を取って待機していた。
学校での違うは先生達の横にスーツを着た知らない人が5人が並んでいることだ。この時期にそんなガッチガチのスーツで熱くないのだろうか?
少なくとも今回の校外学習に無関係の人間ではないことは確かだろう。
確認が終わるとまたつまらない話が──
「みんなもお気付きだと思いますが、今回の校外学習のオリエンテーリングを手伝ってくださる方々がこちらにいらしています」
先生の紹介にスーツの人達はお辞儀をする。
後の説明を要約するとこの人達は今回のチェックポイントでお題を出す担当で1度声をかけて出されたお題に挑戦していくという形式だそうだ。
お題に関してはこの
名所はテレビで飽きるほど紹介されているのでお題には困らなさそうだ。
「──これで説明はこれで終わります。くれぐれも羽目を外し過ぎて地元の方や観光客の方に迷惑かけないように」
まともに返事されることもなく、他の生徒達は各々行動を開始する。
「寺川君!」
「おう」
ほとんどの生徒が移動した辺りで白守さんが駆け寄ってきた。
みんなの動きに合わせて動いてしまうと白守さんが思わぬ事故に遭ってしまうかもしれないからだ。
白守さんは『そこまでしなくても大丈夫なのに』とは言っていたが念には念にをだな……。
しかし、他の班は見事に4人か5人となっている。2人なのはどうやら俺達だけのようだ。
「どこから行こっか?」
「そうだなぁ……」
顎に手を当てて考える。チェックポイントは5つ。目印はさっき先生が紹介したスーツの人達。
チェックポイントはしおりに書かれているので手探りで探す必要はない。
現在地がしおりでいうところの集合場所。チェックポイントは全て海浜公園の中だ。
こういうのは端から行った方がよさそうだが念のため、白守さんに聞いてみよう。
「白守さん、俺はここ──公園の端から行った方がいいかなと思うんだ。そうすれば終わる頃には白守さんの言ってた倉庫? に行けるぞ」
「いいね! 私は──うん、それでいいと思う!」
俺の提案に少し考えながらも白守さんは明るく答えてくれる。
まずはのんびりと公園の端を目指しながら散歩をするとしよう。
ふと気付くと出発前の退屈さは紛れていた。
***
適当な雑談をしつつも目的地まであと少し、といったところで目を輝かせた外国から来たと思しき観光客がこちらに向かっているような気がする──というか来てないか?
「ドーモ! ソコの子はヤマトナデシコ?」
観光客は拙いながらも手で白守さんを指しながらそう言う。
ん~っと白守さんは日本人か? と聞きたいのだろうか?
「日本人ではありますけど、どういったご用件で?」
「ゴヨウだなんてトンデモアリマセーン。ヤマトナデシコのシャシンをトラセテください」」
返事も聞く間もなく観光客は白守さんへと手を伸ばそうとする。
反射的にその手を払い除けてしまった。
「アウチ!」
「すみません。そういうのじゃないんで」
「ご、ごめんなさい」
観光客に何度も頭を下げながらその場を後にする。
多分、ナンパまがいか和服を着ている日本人が珍しくて声をかけたのだろう。
迂闊だった。外国から来た観光客もいるのだからもう少し警戒していれば良かった。
「白守さん大丈夫?」
「うん。寺川君が守ってくれたから」
「あ、いや、あれは反射的に手が」
暴力を振るつもりではなかった事を伝えようにも言葉があまり出ず、手を渡ワタ動かすだけだった。
そんな俺を見て白守さんはクスッと笑う。
「分かってるよ。寺川君はそういう
「分かってくれてるなら助かる」
白守さんの笑顔にホッと胸を撫で下ろす。
すると不意に白守さんが腕を組んできた。
思わず俺は身体を一瞬、宙に浮かせる。
「い、いきなりなんだよ! 先生も言ってただろ? 羽目を外し過ぎないようにって」
「見つからなければいいの! ほら、あそこにいる人じゃない?」
戸惑う俺にかまわず振り回すように白守さんは俺を最初のチェックポイントへ引っ張る。
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