第16話 34人の仕掛け人

 初の校外実習の告知から1週間、俺は少し憂鬱だった。

 その時に気付かなかった俺が悪いのだが、白守さんと回ることが確定してしまった。

 別に白守さんと一緒なのはいいのだが、男女でいるのを見ず知らずの人達に見られるのが恥ずかしい。

 意識しなければいい話なのかもしれないが頑張っても意識してしまう。


 そんなこんなで高校生初の校外学習のグループ決めのLHRになった。

 告知もあったせいかもう決まっているような様子のグループも見受けられる。

 LHRが始まる前だっていうのにどこに行こうか話し合ってる声が聞こえた。


「寺川君っ! 私達はどこに行こうか?」

「海浜公園でボケーっとする」

「それはつまんないよ~」


 反射的に出した答えに白守さんは頬を膨らませて抗議する。どこに行くにしても白守さんは目立つだろうしなぁ……。

 白守さんが顔とか隠さない限り厳しそうだし、服装をおれが指定するのは如何なものかと思うし。


「公園をお散歩して、倉庫でお茶するとかどうかな?」

「う~ん。いいんじゃね?」


 考え事をしながら適当に返事をする。散歩してお茶ね。確かにそれは──

 いや、それは誰がどう見たって……。


「がっがっ、ピーピー」

「寺川君? なんか変だよ?」


 古いテレビを直すがごとく軽く頭を何回か叩かれる。白守さんが思いっきり振りかぶりそうになった時にやっと正気に戻った。


「ハッ! 俺は一体何を?!」

「寺川君、変なの~」

「変とはなんだ変とは。俺はかなりまともだろ」

「自分で言うのはなんか違うような気がするな」

「ぐぬぬぬぬ……」


 正論をぶつけられてしまっては俺は唸ることしかできなかった。

 そんなこんな言っているうちに先生が教室に入って来る。教卓に着く数歩前に本日最後の授業開始を告げるチャイムが鳴った。


「よし。じゃあ、白守号令」

「起立、礼、着席」


 白守さんの号令に合わせて決められた動きをする。

 ってか今日は白守さんが日直じゃないような気がするんだが……。ま、いっか。


「よし、じゃあ先週言った通り校外学習の班を決めていくぞ~。その前に」


 そう言って先生は事前に分けておいたしおりをテンポよく各列の先頭に渡す。

 リレー形式で回ってきたしおりを1部受け取って後ろに回した。


「注意としては先生達と連絡を取るための携帯が各班に支給される関係で1クラス最大9班までになってる。最低2人、最大6人くらいにはまとまってくれ。先生の業務としては全班6人になってくれると助かるんだがな」


 豪快に笑う先生に対して誰1人リアクションを返さない。

 まぁ、流石の俺も先生の1人芸には飽きてきたところではある。

 うちのクラスは36人。最大班員数の9を満たすには4人班を9つ、全ての班を最大人数6にんにするなら6班出来る計算だ。

 2~6人であれば好きな組み合わせなのでそんな気負うこともないだろう。


「それじゃあ、決めてくれ」

「??」


 先生の言葉を合図に俺と白守さん以外のクラスメイトが示し合わせたかのように首を縦に振る。

 俺はその光景にただ首を傾げた。白守さんも頭に疑問符を浮かべている。


「じゃあ、約束通り寺川君、組もうね!」

「約束しちまったもんは仕方ないか」


 抵抗するのも無駄だし、昔から約束は守るようにしていたので反故にするのは身体が受け付けない。

 しかし、どうしたものかと思っていたが解決策はあった。白守さんと2人きりにならなければいい話だ。

 少々、俺がお荷物になりそうだが班員を増やすように提案してみるか。


「白守さん、他の人は誘わないのか? ほら、いつも話してる人とかさ」

「う~ん……。そうだね、私は2人でもいいんだけど声かけてみようかな?」


 よし来た。これで2人きりは回避だ。


「あの──」

「ごめん白守さん。友達が班員4人だと死んじゃう病気だから入ってあげないといけないんだ!」


 声をかける前になんとも大根な芝居で逃げられる。そんなに俺とは嫌か。ってかそれなら3人でいいだろうが。

 悲しくなってきた時、どこのグループに入れてもらおうか迷っているクラスメイトが視界に入る。

 男子だけど仕方ない。確かアイツは──


「あのさ、良かったら──」

「すまねぇ。こいつ、ジョ〇ョの読み過ぎで4って数字にアレルギーが出ちゃうんだ! こっち入ってくれないか?」

「う、うん」


 半ば強引に腕をつかみまたもや大根な芝居で人員が奪われる。

 比較的仲が良くてもダメ、あぶれてそうだから声をかけてもダメとなると──

 クラス中を見てももう誰か余っているような様子ではない。

 ザっと5人班が6つに4人班が1つ、そして俺と白守さんの2人班が1つ。

 こうなったら最終手段か……。

 億劫ではあるが4人班のクラスメイトに勇気を出して声をかけようとする。


「ワイ達ファミレスでモ〇ハンするので」

「いや、何も言ってないんだが……」


 明らかな拒絶にため息混じりに言葉が出てしまう。この様子じゃどう言っても無理そうだな……。

 な~んか引っかかるんだよな。納得できない気がするが仕方ない。

 明らかにこちらの様子を見ながらしおりに班員の名前を書いたり計画を立ててたりしている。そこには悪意のような感情は見受けられなくて。

 一体、何が目的なんだ?


「もう他の人決まってるみたいだし、私達もしおりに書きこも!」

「釈然としないけど、そうすっか」


 とりあえず俺のしおりに俺と白守さんの名前を──


「あれ?」

「ん? どうしたの?」


 あり得ない出来事に首を傾げながら声を少し上ずらせてしまう。

 しおりの班員を書く欄にすでに俺と白守さんの名前が書いてあったのだ。


「俺のしおりにもう俺と白守さんの名前が書いてあるんだけど」

「本当だ。自分で書いたんじゃなくて?」

「さっき貰ったばかりだぞ」


 俺達がしおりを作った時には無かったはず。一体、誰がいつ書いたのだろうか?

 考えているとふと疑問がもう1つ浮かぶ。


「白守さんの方は書かれてないの?」

「こっちは書いてなかったよ」

「う~ん? なんでだ?」

「手間が省けたってことでいいんじゃないかな?」

「そう、思っとくか」


 マジで納得いかない。誰かの陰謀を感じる。

 そうだ、これは誰かの陰謀だ! 怒らないからこれを仕掛けた人は名乗り出て欲しいものだ。心の中で言っても仕方ないけどさ!


「楽しみだね! どこに行こうか?」


 疑問は晴れないが白守さんの笑顔を見てるとどうでも良くなってきた。

 白守さんの言葉に『ホテル』だの『レストラン』だの小さな声で言ってるクラスメイトは現実でないことを祈りたい。


 ***


 帰りのSHRが終わってすぐに携帯から『LANE』と渋い声の通知音が鳴る。

 ほぼ同時に白守さんからも同じ通知音が鳴ったのでクラス委員会絡みの通知だろう。


「由比先生からだよ。なんだろうね」


 白守さんがさりげなく通知画面を俺に向けて首をかしげる。

 俺も同じ表示が出てるので見せる必要なないような気がするが同感だ。

 ロックを解除してアプリを開く。そこからクラス委員会のグループをタップした。

 画面に由比先生が書き込んだ内容が表示された。


『クラス委員会各位

 今日もお疲れ様です。

 クラス委員会初の活動予定が決まりました。内容は以下の通りです。

 初活動に併せて懇親会のBBQパーティーも行います。奮って参加してください。

 ※申し訳ありませんが参加費は取ります。1人3000円です。


 業務内容 ごみ拾い

 日時 〇月×日(日曜日) 10:00AM~

 集合場所 柏藤高校正門


 予定

 10:00 集合・点呼

 10:10 活動開始

 12:00~ BBQパーティー

 片付け等終了次第解散


 参加希望の方はリアクションお願いします。


 クラス委員会顧問 由比』


「この日は校外学習の2日後だな」

「土曜日はちゃんと休まないとね!」

「いや、参加しない方がいいんじゃね?」

「えー、行こうよ! リアクションリアクションっと──ん?」

「どうした? って──」


 またもや渋い声の通知音が鳴る。

 次は押谷先輩から送られたメッセージだ。


『由比先生、参加費は僕が全部出します』


 なんとも魅力的な内容だ。

 そのメッセージが送信されてから由比先生のメッセージへのリアクション? が急速に増えた。その様子に引いているとついにリアクションの数は俺と白守さんを除いた数──28となっていた。

 現金な奴らだな……。

 あまりの驚きに白守さんと顔を見合わせているとまた通知音が連続でなった。


『押谷、本当に大丈夫か?』

『あんた、そんな無理して大丈夫なの?』


 前者は由比先生。後者は押谷先輩と同じく3年2組のクラス委員の高荒先輩のものだ。


「どうする? なんか参加しなくちゃいけない感じの雰囲気だけど行くか?」

「行こう、かな。でも参加費は用意しようかな」

「そうだな。俺達だけでもそうした方がいいかもしれないな」


 白守さんが静かに首を縦に振る。そして画面を操作するとリアクション数が29となった。

 さてさて──


「リアクションってどうやるんだ?」

「もう、なんか台無しだよ!」

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