第2章 初めてBoy&Girl

第12話 迷惑な白羽の矢

「白守、寺川。今日の放課後にクラス委員の招集があるから会議室に行ってくれ」


 朝のSHRショートホームルームをボケーっとしながら聞いていると先生が最後にそう言ったのが聞こえた。

 SHRが終わるとクラスメイトはそれぞれ準備や雑談と洒落こむ。


「先生の話聞いてた?」

「んー。ああ、放課後に招集だろ?」

「一緒に行こうね」

「あ~うん」


 白守さんがボーッとしてた俺を心配してくれたのか声をかける。

 先生の言ったことを録音再生のように言うと当たり前のように一緒に行くことを提案された。

 拒否して前みたいな事件になるのは嫌なので逃げることは諦めた。というのは俺の少しした抵抗てれかくしだ。

 適当に返すと満足げに白守さんは授業の準備をし始めた。


 ***


 昼休み、いつもの所で弁当ではなく菓子パンとマヨ唐──から揚げにマヨネーズとソースがかかった購買名物をバッグから取り出した。

 これは昼休みの直前に作られているのか、フードパック越しから熱さが伝わり、油断すると思わず手を放してしまいそうだ。

 熱々の状態でいただこうと手を合わせると白守さんが階段を登って来る。


「お待たせ! 今日は購買行ってたんだね」

「まぁな。ついに母さんが弁当じゃなくて千円札出すようになった」

「お弁当作るの嫌いなの?」

「うん。『弁当作り』の4文字が一番嫌いっていつも言ってるよ。でも学校行事の時はちゃんと作ってくれてたよ」

「へ~。うちはお母さんが作ってくれるし自分で作る時もあるよ」

「自分で作る時はどういう時なんだ?」

「う~ん……なんとなくかな?」


 そう言っているうちに白守さんは俺の隣に腰かけて食事の準備を済ませる。

 少し食い気味に再び手を合わせた。


「「いただきます」」


 急いでフードパックの輪ゴムを外し、付属の爪楊枝をマヨ唐に刺す。

 鶏肉の弾力に少しだけ押し返されるがすんなりと通った。胸躍らせる期待を抑えながらゆっくりと口に運ぶ。

 最初はソースとマヨネーズのハーモニー。続いて衣のざくざくとした触感が舌を楽しませる。その先には肉汁が溢れる肉。ほどより弾力が中から頬を落とそうとしてきた。

 そうはさせまいと咀嚼をして飲み込む。

 あ~、暖かい時期に温かい物を食べるのも悪くないな。


「それ美味しそう! 1つ貰ってもいい?」

「ん~、どうしようかな~?」


 別に1つくらいいいのだがあえて悩んで見せる。すると白守さんが弁当を俺の目の前に出した。


「じゃあ、これ全部と!」

「全部はいいって! すまんすまん、悪かった。冗談だ。ほら好きなの1つ取っていいから」

「やった~!」


 白守さんは弁当箱を膝に戻し、フードパックの中のマヨ唐をジッと見る。


「じゃあ、これ!」

「ん」


 俺への配慮か白守さんは一番小さなマヨ唐を指さす。

 その心遣いに感謝しながらフードパックを差し出した。しかし、白守さんは箸を伸ばさず不思議そうにこちらを見つめる。


「どうした? 取らないのか?」

爪楊枝それで食べさせてよ」

「はい?」


 思考が停止した。『それ』って爪楊枝これのことか? 白守さんの指は確実に俺の指につままれている爪楊枝を指しているし……。

 ってかこれで食べさせでもしたら──

 ある考えに至る前に頭を軽く振って予備の爪楊枝は無いかと少し探すがもちろんない。


「どうしたの? 早くちょうだい!」

「え? え~っと……」


 食べさせるフリでもして白守さんの弁当箱に入れようと考えついて爪楊枝をマヨ唐に刺す。

 そしてゆっくりと白守さんのお弁当箱に近付けようと動かした。

 すると白守さんが俺の手首を掴んでマヨ唐を口に入れる。

 白守さんの口のなかで衣が小気味のよい音を奏でる。


「うん、美味しい! ありがとね」

「ありがとう、じゃない! 今の完全に──かかかかっかか関せ」


 自分でも驚くほどのどもりようだ。芸名を付ける時が来たら『スキャット〇ン恭平』とでも付けようか。

 ──じゃない!


「なんばしとっとーーーー!!」

「なんで博多弁なの?」


 満足そうに笑う白守さんに全身全霊をかけてツッコむ。ツッコまざる得なかった。

 陽だまりのような笑顔に照らされているとなんか馬鹿馬鹿しくなってきて大きく気を吐く。


「あのね、白守さん。距離感近過ぎやしませんか?」

「そうかな? 昔に会ってるんだし、いいと思うんだけど──もしかして嫌、だった?」


 笑顔から悲しそうな顔になる。返答次第ではその場で泣き出してしまうそうだ。


「その、嫌とかじゃなくてさ。ほら、6年くらい会ってなかったんだから距離感が、ね?」

「私はこのくらいで大丈夫だよ?」

「白守さんが良くても俺とか周りに人が見たらどう思うかをだな……」

「やっぱり嫌なの?」

「不愉快とかそういう言う意味じゃなくてだな」


 教室に戻るまでこのやり取りは続き、みんなのいる所では近付き過ぎないと約束をした。指切りで。

 2人きりの時は──白守さんが折れてくれなかった。


 ***


 待ちに待ってない放課後、白守さんと一緒に招集先である会議室へと向かった。

 階層は違うものの保健室と同じく管理棟と呼ばれている所にある。

 普段は先生達が会議に使っている場所。特に用もなければ立ち寄らない。

 到着すると分かりやすく長机が横3列、縦5列に並んでいて分かりやすく画用紙製の三角席札が置かれていた。

 見た感じ、真ん中の列が3年生、奥側が2年生そして扉側は我々1年生のようだ。

 白守さんと男子の接触に気を付けながら廊下側に白守さん、中側に俺といった感じで指定の席に着いた。


「何が始まるんだろうね? 別にここまでする必要はなさそうなんだけどね」

「そうだよな。先生の言ってた『面白いそうな事』に嫌な予感しかしない」

「そうかな? 意外と大したことないかもしれないよ?」

「そうであると願いたいよ」


 他の人も何があるか分からないようでクラス委員の相方と話していたり、他のクラスの席に出張して話している人もいる。

 唯一知ってそうな3年生も雑談に花を咲かしているだけだった。

 どこから察したものかと会議室を見回していると厳格そうな女性教師が入ってきた。


「静かに。速やかに指定された席に座るように」


 硬質な声質に鋭い口調に少々驚いた。

 鞭を打たれたかのように立っていた生徒は急いで指定席へと戻る。

 それを鋭い眼光で見守った先生はもう一度、生徒を見回した。


「今日はよく集まってくれた。ワタシがこの度クラス委員会顧問を担当することになった教務主任の由比ゆいだ。とりあえず集まってもらった理由を説明する」


 なんだろうか少しした軍隊のような気がしてきた。多分、厳しい性格ゆえにそう感じてしまうのだろうか。

 どよめきを厳しい眼光で黙らせて小さく咳払いをする。


「我が柏藤高等学校には特色がない」


 だからこそ柏藤この学校に入ったわけだがな。と内心でツッコミ話を聞く。なんとなくだが由比この先生は居眠りしたら厄介なことになりそう。


「というわけで教師陣で会議した結果、まずは地域との密接な関係構築に取り組むことになった。例年ならそれは生徒会の仕事なのだが手が足りない」


 うわ、嫌な予感がしてきた……。流石の白守さんも少し不安そうだ。

 それもそうだ。地域の人と交流しなくちゃいけない。つまり、俺以外の男性と関わらなくちゃいけない場面が出てくるってことだ。


「それで白羽の矢が立ったのが君達クラス委員会の諸君だ」


 今度は会議室中が大きくどよめく。『部活に入ってる人はどうするんですか?』とか『そんなの聞いてない』とか抗議の声が大半。

 確かに帰宅部である俺や白守さんは大丈夫かもしれないが部活に所属している人達にとっては大問題だ。

 人間、分裂できるわけないので両方できるわけもない訳で……。


「まぁまぁ、みんな一回落ち着こうよ。話の続きがあるだろうし」


 そんな中で涼やかで綺麗な男子の声がみんなを制す。

 あまりの声に思わず隣の長机を方を向いた。三角席札は3年2組とある。1年2組うちの隣だから当たり前か。

 声の主はあまりにも残念だった。

 位置的に3年生だからこんな失礼なことを思ってはいけないのだが。そう言わざる得ない。

 綺麗な流し目、そこだけはいいのだがあとは平凡である。まぁまぁ、やせ型な体系はガリガリとは言えないものの、筋肉質というには程遠い。


「さ、先生続きをどうぞ」

「ああ、助かる」


 涼しい顔をして先生に話の続きを促す先輩に短く礼を言い、再び由比先生が口を開く。


「そう言われるのは想定していた。だから──を用意した」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る