第11話 後語り
白守さんの話が終わると
そういえばそういうことがあった気がする。しかし、断片的にしか覚えてはいない。覚えていた場面は白守さんの話に出てきたとおりで
辻褄が合う。つまり俺と白守さんは本当にあの時に出会っていた、ということだ。
「最後の指切り見た看護師さんが報告してそれを聞いたお父さんが喜んで抱き着いたんだけど、ダメだったんだよね」
「マジかよ」
今の状態を見れば分かることだが、まさかあの後にそんなことがあったとは……。
でも触る以外は大丈夫なのは俺と話したおかげなのかなと思うと少し嬉しい気持ちになる。
「でもさ、なんで内部進学じゃなくて
「中学生の時、占いにハマってた子がいて占ってもらった時になんとなくビビってきてね。うまく説明できないんだけど、さ」
「ふ~ん」
そんなものなのか。女子は
機会があったら占って欲しいものだ。
「でもそれで俺と会えなかったらどうするつもりだったんだ?」
「う~ん。クラスの女子達と過ごすことになりそうかな」
「まぁ、そうなるわな」
「でも、良かった」
「俺にとっては少し災難だったけどな」
「なんでよぉ! 酷い~」
冗談半分で言うと白守さんは頬膨らませて抗議する。
その顔を見てるとつい、笑顔になってしまう。俺が笑ったことに腹を立てたのか白守さんは俺をポカポカと殴る。
「そういえば、さ」
「なに?」
「白守さんの習ってた古武術? 柏藤三流だっけ、あれはどんなものなの?」
「名前の通り、3つの流派があってそれぞれ『心』『技』『体』が割り当てられてて水流は『心』。感知に優れてるって師範が言ってたっけ」
「へ~」
よく分からない、というのが正直な感想だ。適当に返事をしたことに気付かれる前に次の質問でも投げかけるか。
「んで、なんで俺と昔に会ってることに気付いた? 俺は話を聞くまであんまり覚えてなかったんだが」
「最初はクラス分けの表を見てたと気かな? あの時、寺川君、私とぶつかったでしょ?」
「確かに誰かとはぶつかったけど」
「いつもなら避けられるんだけど、私の名前を探すのに夢中だったって理由もあるけど避けられなかったの。その時から不思議に思ってて……」
「じゃあ、最初は確信がなかったわけだ」
「そうだね。教室で1回触った時も大丈夫だったから、ちょっと嬉しくて舞い上がってたらあんなことに──」
「あれは災難だったな……。あの時は逃げてごめん」
今更ながら
「な、なんだよ」
「ううん。やっぱり昔のまんまだなって」
「というと?」
「寺川君は優しい人だよ」
「え? ……は? なんだよいきなり」
白守さんの言葉に顔が熱くなっていくのを感じる。
沸騰する頭をどうにか制御して考えを巡らせた。
「そんなことより、なにがきっかけで確信したんだ?」
慌てながらも無理矢理話を戻しにかかる。
「それはね」
そう言って俺の右腕を指す。右腕には古傷がある、ということはまだ白守さんに言ってないはずだ。
今はあることを認めているようなものだが、以前であればそういう話すらしないと徹底していた。
「前、ちょっと暑かった時に袖まくってったでしょ? その時に傷の跡見えて確信したの」
「跡になってるほどだから相当なはずなんだけどな。あまり覚えてないんだよな」
「それはごめん。かなり強めに殴っちゃったみたいで看護師さんが来た時には固まる私に伸びてる寺川君っていう状況だったんだって」
ちょっとした事件現場だな……。実際、事件だどさ。
そうか、この古傷が俺と白守さんを繋いでくれたんだな──
でもどうしたらいいのか。目立ちたくないと始めた高校生活、今更だが引き返せないような気がする。いや、引き返せないところまで来ている。
このまま突っ切った方がいいだろう。しかし、怖いのだ。
──また壊れてしまったら多分、今度こそ立ち上がれないような気がする。
思わず膝に乗せた手を強く握りこんでしまう。
ここまで運命的なものならなおさらだ。
白守さんが壊すならまだしも俺自身が壊してしまったら──
「大丈夫だよ」
「え?」
「今、寺川君すごい不安そうな顔してた」
「そうか、ごめんな」
「違うよ。こういう時は『ごめん』じゃないよ」
諭すようにそう言って白守さんの白く小さな手が俺の手を包み込む。
じんわりと胸が温まるような感覚を感じながら手に入る力を抜いた。
「ありがとう」
「そう。それでよろしい」
ツッコミを入れたいがそんな空気ではないのでグッとこらえて小さく笑って見せた。
正直まだ怖い。でももう前に進むしかない。だから今はこの可愛い笑顔を信じてみることにした。
「寺川君」
「なんだ?」
少し恥ずかしそうな様子で白守さんがもじもじし始める。
疑問符を浮かべながら返事をすると白守さんはそのまま視線を下の方で泳がせた。
なにか声をかけようかと考え始めた辺りで白守さんは意を決した表情になる。そしてその目を俺を真剣に見つめた。
「あのね、私──」
白守さんが口を開いた瞬間、保健室の扉が豪快に開かれた。
「あら、まだいたのね──お邪魔だったかしら?」
保健の先生が俺達の様子を見てニヤニヤしながらそう言う。
白守さんの色白な顔が赤熱する金属のように赤くなった。
「ち、違いますよ! えっと、寺川君、私はもう大丈夫だからもう帰ろう!」
「え? うん」
飛び上がるようにベッドから出て荷物をまとめてそそくさと保健室を出ていく白守さん。
それに呆然していると白守さんが戻ってくる。
「寺川君、行くよ」
「お、おう」
保険の先生がニヤニヤとこちらを見つめる中、白守さんは俺の腕を引っ張って保健室から引っ張り出す。
気圧された俺は何も言わずに白守さんに大人しくついていった。
──結局、白守さんが何を言おうとしたのか見当がつかなかった。
***
家に帰った俺は部屋の押し入れを漁っていた。
白守さんの過去の話を聞いて
今はそれを探している。
「あった」
小学生の頃の教科書やら何やらがしまわれている段ボールの奥底にそれはあった。
汚い字で『たからもの』と書かれた紙が貼られたクッキー缶。
表面のほこりを軽く払ってからゆっくりと開ける。
石やら昔描いた絵やらを懐かしみながら目的の物を探した。
「これか」
缶の奥底、それはあった。
赤い折り紙で折られたチューリップの名札。その真ん中には『白守み雪』と当時の俺より綺麗で丁寧な字で書かれていた。
懐かしさに笑みをこぼしながら再び缶の奥底へとしまい、元の場所へと戻す。
次にこれを取り出すのは遥か未来のことになるだろう。その時は一体何をしているのだろうか。全然予想できない。
このクッキー缶の宝箱他にも白守さんの過去話を聞いて思い出せたこともあった。
──白守さんは1つ嘘をついている、ような気がする。
多分、白守さんは別れ際に再会した時どうしたいかを『忘れた』と言っていたが覚えている。
あそこまで過去のことを覚えているのに重要な部分だけ抜け落ちてるんてことはほぼあり得ない。
『それはね──いっぱいかまってほしい、な。たのしいことをいっしょにやって、いっぱい思い出を作っていきたい!』
屈託のない笑顔でそう言ってた。俺の記憶はそう告げている。
年齢的な部分もあって言いにくいのだろう。それに俺も正面切って言われたら反応に困る。ってか普通に恥ずかしい。
だから俺は白守さんの覚えてないふりに付き合うことにした。
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