第3話 孤独をかけた攻防
いつまでもオリエンテーションや書類絡みの説明が続くわけもなく本格的に授業が始まった。
内容もあらかた理解したので
「──! ──かわ!!」
何か聞こえてきた。こっちは寝てるんだ邪魔しないでくれ。
「痛っ!」
「おい、寺川なんで寝るんだ。バツとしてこの英文を訳してみろ」
英語の先生に叩き起こされた。お巡りさん、こちらにパワハラティーチャーがおります。
もう授業の内容、大体分かったのに寝ちゃダメなのかぁ。
叩かれた脳天をさすりながらわざとらしく大きくあくびをした。頭をかきながら黒板に目を向ける。
先生が指さした場所には『Examiner, could you tell me WiFi password?』と書いてある。
そのすぐ下には『Put away smartphone』とある。
「えっと『試験官、WiFiのパスワードを教えてください』」
「せ、正解だ。いきなり指されたくなかったら寝るなよ」
そう言われてもちゃんと正解したし、文句ないだろうに。
というかなんちゅう場面だよ。試験中にスマホ出すなよ。注意されてるし。
さて、一仕事したんだしもう一眠りするか。
もう1度大きくあくびをして机に突っ伏す。
壇上から鋭い視線を感じたが無視だ無視だ。
***
昼休みは昨日と同じく白守さんと一緒に食べることになったが、昨日と同じく速攻で食べてすぐ教室に戻るといった対応を取った。白守さんの少し寂しそうな表情に心をつねられたような感覚がしたが
そんな昼休み明けの5限目。委員会決めの
春の陽気と適度な満腹感のおかげですぐ眠りに入れた。
こんな日がずっと続けばいいのにな──
──なぁなぁ、こんな退屈な委員決め終わらせたいからクラス委員一緒にやろうぜ。
なかなか決まらないクラス委員決めに頬杖を付いているとアイツが小さな声で話しかけてきた。
最初は沈黙に包まれていたが、今は押し付け合いが始まっている。
『頭がいいからやれ』だの『リーダーシップあるだろ』だのこの場では証明しづらい理由でクラス委員長という役職を押し付け合っていた。
クラス委員長が決まってないので他の委員も決まっていない。このままじゃ泥沼だろう。
なのでアイツとの楽しい未来を願って。まだ見ぬ経験に心を躍らせながら──
アイツの提案に首を縦に振ってしまった。
──じゃあ、お前は副委員長な。
ニカっと笑顔を俺に向けるアイツ。
隣人会議をサクッと終わらせ俺とアイツはクラス委員に立候補した──
不快な記憶と
伸びをすると何故かクラス中の視線がこちらに集まっていた。
いつも寝ているようなもんの俺が起きたところでそう起こる注目ではない。
寝起きの頭を使って状況を整理しよう。
今は委員決めしてる最中。黒板には各委員会の名前が書かれているだけで誰の名前も書かれていない。
つまり、今は進行係でもある委員長と副委員長決めをしていると。
んで、なんでこんなクラス中がどよめいてるんだ?
視線と辿ると注目は白守さんに集まっていた。一部は俺の方を見ているような気もするが。
「寺川君、おはよう」
みんなの視線を辿ったのだから白守さんと目が合ってしまうのは分かる。そんで声をかけられてしまうのは仕方ない。
いつものように無視をしたいのだがここで気になる情報が2つ出た。
白守さんが立っていること。そして──
白守さんの手は俺の肩に置かれていることだ。
なのに白守さんは男性恐怖症の症状が出ていない。
「じゃあ寺川、副委員長な。頼んだぞ」
「は?」
担任の言ったことに訳も分からず声をあげてしまう。
いやいやいやいや、待て待て待て待て。
「ま、待ってください。俺はやりたくありません。やる気のないやつにはこういう役職は向いてないと思います」
「そう言われてもな。白守は委員長をやりたがってるんだから仕方ない。触れる寺川が支えてやってくれよ。な?」
「じゃあ、白守さんが別の委員やればいいじゃないですか?」
「他に立候補する奴がいなかったからなぁ……」
思わず立ち上がって先生と『ああ言えばこう言う』、そんな会話を繰り広げてしまう。
くそ、抗議してもしなくても目立ってしまう。今後のことを考えると今は目立っても抗議しなくては。
「そもそも同意するかどうかも確認しないで勝手に俺を副委員長に任命するのはおかしな話です」
「寺川君は私と一緒じゃ嫌だ?」
嫌に決まってるだろう。横入りしてきた白守さんに内心でツッコミを入れる。
チラッと見るとその顔は悲しげであった。一般的に『あざとい』と言われる人種のそれとは違い、本当に俺とクラス委員をやりたい、という純粋さがある。
白守さんには悪いけど、こちらも突き通したい
「じゃあ、他の委員を先に決めよう。寺川が余ったら副委員長でいいな」
「…………」
困ったな。他の委員会も2人ずつになっている。
しかし中には仲間外れになる人間もいるだろう。そこにねじ込めればあるいは──
「そ、それでいきましょうか」
「とりあえず白守、クラス委員長(仮)として進行してくれ」
「はい」
先生に言われ、黒板の前に立つ白守さん。
片手にチョーク、もう片方の手には黒板消しを持つ。
「じゃあ、まずは体育委員会」
何人かが手を挙げる。これはダメだ。やりたくない。
手は上げずに大人しくする。この委員会は男女2名ずつの選出だ。説明文には『体力測定のサポート等』と書かれている。
地味ではない。俺はもっと目立たない委員をだな。
と内心であーだーこーだ考えながら1つの委員に目を付ける。
次々と埋まる委員会。その中で目を光らせてその時を待つ。
「環境美化」
スッと手を挙げる。俺の他に4人ほどいる。定員は2人。
仕事内容としては定期的な缶ごみとペットボトルごみの回収。そして仕分けだ。これなら目立たない。
さて、じゃんけんだ。絶対に勝たねば。
「「「「最初はグー」」」」
俺以外は声を出して拳を掲げる。不正は疑われたくないので少し恥ずかしいが腕を上げた。
「「「「じゃんけんぽん!!」」」」
祈るような思いで他の人の手を確認する。
俺グー。
俺以外パー。
負けた。やってしまった。崩れるように机に突っ伏す。
確か、じゃんけんは熱が入るとグーかパーが出やすい。ならパーを出しておけば負ける確率は低い。
副委員長をやりたくないと思いが強かったゆえのミスだ。
ここまで来たら好き嫌い関係なく別枠にねじ込むまでだ。
副委員長だけは嫌だ!──
***
委員決めが始まって十数分後。
「約束通り、寺川には副委員長やってもらうぞ」
「…………」
担任の残酷な宣告に
おかしいだろ。じゃんけん全敗なんて。確率的におかしい。イカサマだ。
そんなことを思ってもこの事実が変わることはない。
大きくため息をつき溶けたアイスのように椅子にもたれかかった。
「クラス委員にはこの後、委員をまとめた紙を書いてもらおうか。寺川、今まで全部白守がやってたんだから
「えぇ……」
苦虫を噛み潰したような顔をすると担任が軽く睨む。
これ以上抵抗すると面倒くさそうなので渋々学級ノートを受け取り、黒板に書いてある内容を書き写す。
「そうそう、クラス委員だが今年から面白そうな事になるっぽいぞ。良かったな寺川」
「はい?」
訳の分からない情報に俺は思わず大きな声が出てしまう。
もしかしたら高校生活始まって以来、一番大きな声かもしれない。
「頑張ろうね。寺川君!」
俺の腕に手を置く白守さん。その屈託のない笑顔に普通は癒されるのだろうがそれどころではない。
嫌な予感しかしない。退学届けを書こうかな……。
***
「ねぇ、寺川君。なんで副委員長のところ別の人と入れ替えてるの?!」
放課後開幕、白守さんに怒られてしまった。『怒られる』というよりも『叱られている』ような感覚だが。
小さく頬を膨らましてこちらの顔を綺麗な目で必死に睨みつけてくる。
「委員の紙は私が書くから」
なら帰るか、とはならない。
あろうことか担任は座席表の製作も俺と白守さんに頼んできた。
座席はというと白守さんの事情を鑑みて
というのも白守さんの前後左右で男子は右にいる俺だけ。そして俺は唯一触れる男子、ということで今のままが都合がいいとさ。
席替えで位置が離れる展開が良かったんだが。
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