霧雨の夜

 霧雨の中を歩いている。これくらいの雨なら、傘もいらない。電灯の明かりが薄ぼんやりと丸く広がって、柔らかな膜のようだ。

 車が、濡れた道路を横切る音が遠くに聞こえる。人気もない、肌寒い、静かな秋の夜。

 ペタ、ペタ、ペタ。

 僕が立ち止まれば、その音も止む。歩き始めると、また続く。粘ついた、水っぽい足音。クスクスという含み笑い。

 ふぅ、とため息をつく。犯罪者とか、不審者とか、そういうものの方がずっと怖いとはいえ。

「僕以外にやっちゃダメだよ?」

 怖い人には怖いだろうから、さ。そう、後ろにいる『何か』に呟く。一瞬の間の後、小さくジャンプするような音と共に、街灯が落とす黄色の輪に、小さな子供の影が映った。


 終【お題:歩く(2024/10/05)】

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300letter stories[2023-] 鳥ヰヤキ @toriy_yaki

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