漂白

 記憶漂白処置を受けた。社会生活を送れる程度の知識と常識だけは残してもらい、入院とリハビリを経て、僕は新たに与えられた名前で暮らし始める。

 生活は快適。過去がない分不安もない。実験に協力した被験者ということで、生活費もたんまり貰っている。毎日が輝いている。

 唯一不満があるとすれば、たまに僕の前に現れては、変な顔をする人達がいることだ。それは悲しそうだったり、怒りに燃えていたり、憐れむようだったり、様々だけど。

 彼らは何も言わないし、僕に触れようとすれば黒服にどこかへ連れて行かれる。彼らはきっと知らないんだ。そんな顔を見ても、僕は何も感じないんだってこと。

 今日の晩御飯は何にしようかな。


 終【お題:白(2024/01/06)】

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