鳥は空を飛ぶけれど

 お前はどこまでも飛んでいけよ。そう言い残してあの人は死地に赴いた。

 私は鳥じゃない。翼なんて持っていない。どこにも行けるはずなんて無いのに。今は貴方もいないのに。

 それなのに、いつしか私は立っていた。飢えと渇きに突き動かされるように、痩せた足で、必死に。夢中で走った。何でも求めた。自分が食い尽くされないよう、強かに振る舞うことも覚えた。

 あの日からどれだけの時が過ぎただろう。一人だった私は、今では大勢の家族に囲まれている。皆が手を取り合って、一歩、また一歩と踏み出しながら生きている。天を見上げれば透き通るような青空。私は鳥ではなかったけれど、地を這うことも悪くはなかったよ。


 終【お題:鳥(2023/08/05)】

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