挫折を知らない人

 挫折を知らない人だと思っていた。

「私は神に誓い、決して諦めることはありません」

 どれだけ走っても疲れない人だと思っていた。

「戦うことは苦ではありません。訓練だって辛くありません。この剣で、一人でも多くの民を護れるのなら」

 いつも笑顔で微笑んでいる人だと思っていた。

「私には、それが何よりの誇りですから」

 尊敬を受けて輝く銀の甲冑も、決して力を失わない眼差しも。全てが作り物のように美しすぎて。

 皆に愛される彼にこのような嫉妬を燃やす自分が、嫌で仕方がなかった。

 だからある月明かりの夜。

 野営地から離れた暗い樹冠の下で、一人で泣いている彼を見て。

 ある感情が燃え上がってしまった。

 自然な笑顔が口に浮かんだ。


 終【お題:折る(2023/06/03)】

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