僕はここで待っている。

 待っているよ。ここで、僕はずっと。

 家の壁が煤けて、屋根が崩れても。街から人が消えて、廃墟になっても。空の色と季節が移り変わるのを、幻のように眺めながら。

 待っているよ。僕は君を忘れない。君が僕を忘れても。

 君は遠い場所に出かけているのだろう。

「さよなら」と呟く君に「またね」と返したあの日から。去ってゆく君は何故だかベッドの上にいた。俯く君の顔がよく思い出せない。

 まるで僕を憐れむみたいな、そんな似合わない顔をしていたような。

 まあいいよ。僕が君を忘れさえしなければ。

 待っているよ。いつまでも、君が帰ってきてくれるまで。

 君が輪廻の輪から弾き出されてもう戻らないなんてこと、僕は絶対に認めない。


 終【お題:待つ(2023/05/06)】

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