万雷の、万感の

 もう、言いたいことなど何もない。そう、父は吐き捨てた。俺に勘当を言いつけた直後。

 嫌気がさしてすぐさま飛び出した。大事なギター一つ持って、最終列車に飛び乗った。

 夢を追うのがそんなに悪いのか。父の思うように生きないことがそんなに悪いのか。疑問と不満を爆発させ、全てを音楽にぶつけた。

 こうして今は眩しい照明に囲まれ、万雷の拍手に包まれて。欲しかった地位と栄光を手に入れて。そしてやっとわかった。

 寂しかった。伝えたかった。貴方は俺に何も言いたくなかったのだとしても、俺は違うよ。

 テレビでもいい、ラジオでもいい。俺の歌を贈るよ、父さん。

 俺の最愛の家族――途切れた絆だったとしても。

 どこかで聴いていて。


 終【お題:おくる(2023/03/04)】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る