第37話「二つの顔」
「――えっ、遊園地にですか……!?」
一緒に登校している中、ルナに遊園地の話をすると、彼女の表情はパァッと輝いた。
やっぱり行ってみたい気持ちがあったんだろう。
ちなみに、アイラちゃんは俺とルナの数歩後ろを歩いている。
あえて距離を取ることで、二人きりの空間を作ろうとしてくれているようだ。
「うん、せっかくだから今度の休みに、遊園地に行けたらいいなぁって思って。どうかな?」
「もちろん、喜んでご一緒させて頂きます……! 遊園地は、デートの定番ですものね……!」
頭がいいルナには、わざわざ説明をしなくてもこちらの意図を読み取ってもらえたようだ。
男女二人きり――まぁ護衛のためにアイラちゃんはついてくるだろうけど、遊園地に遊びに出かけるのはデートと言っていいはずだ。
「予定とかはないかな?」
「はい、
おぉ……ここまでまっすぐと言われると、照れくさくなってしまうな……。
「それじゃあルナの歓迎会もあるから、空いてるほうの休みで行こう」
「はい……! とても楽しみです……!」
ルナは元気よく返事をすると、シレッと俺の腕に自分の腕を絡めてくる。
外ではベタベタしすぎないよう気を付けるとのことで、離れていたのだけど――我慢ができなくなったようだ。
まだ人通りが少ないし、気にしなくても大丈夫だろう。
もちろん、女の子に突然抱き着かれた俺の鼓動は、破裂しそうなくらいに激しいものになっているのだけど。
「えへへ、遊園地デート……」
よほど嬉しかったのか、ルナはそのまま俺の肩に頭を乗せてくる。
本当に、なんだこのかわいい生きものは――という感じだった。
とてもかわいくて仕方がなく、滅茶苦茶甘やかしたくなってしまう。
「ルナは遊園地に行ったことがないんだよね?」
「はい、アルカディアにももちろん遊園地はあるのですが……私は、連れて行って頂けませんでした」
王族だから人目があるし、危険に曝される可能性もあるのだから、許可が下りなかったんだろうな。
貸し切りとかにもできただろうけど、それをしたら偉い人がいるって明かすようなものだ。
余計に危険になりそうなことを、わざわざすることはないだろう。
「じゃあ、いっぱい楽しもうね。ルナの好きなアトラクションに乗ったらいいから」
「はい、今から楽しみで仕方がありません……!」
ルナは満面の笑みを俺に向けてくる。
王女様やお姫様と聞くと、身構えてしまいそうになるけど――やっぱりこうして見てみると、そこら辺にいる一般学生の女の子たちとなんら変わりない。
彼女は今の生活を望んでいたようだし、楽しい遊びを沢山教えてあげないと。
――まぁ、俺もあまり知らないんだけど……!
だって、基本家でアニメを観たりゲームばかりしているような、引きこもりだったわけだし……!
遊びに行くのなんて、それこそ莉音に誘われた時ぐらいで、あの子も引きこもり体質だったから、あまり遊びに行くことなんてなかったし……!
そんな言い訳を心の中でしていると、後ろから近づいてくる人影が視界に入った。
「――念のための確認にはなりますが、貸し切りの手配をしたほうがよろしいでしょうか?」
俺たちの隣に来てそう声を掛けてきたのは、アイラちゃんだった。
だから俺はすぐに思考を切り替える。
「ルナが沢山アトラクションに乗れるように――という気持ちはわかるんだけど、
アイラちゃんの気持ちを
「はい、あくまでルナ様はお忍びで日本を訪れておられるわけですし……目立つようなことをなさらないほうが、
「やっぱりそうだよね」
ルナの正体が既に知られているのなら、危ない人間が混ざらないように貸し切りにしてもらったほうが安全だ。
しかし、今はルナの正体が知られていないどころか、日本に来ているということも知られていない。
一般人相手に危険な真似をするような人なんてほとんどいないのだから、アイラちゃんたちが近くで護衛をしてくれるだけで十分だろう。
わざわざ《何かある》というのを周囲に気付かせる必要はない。
「アイラ、お心遣い感謝致します」
俺とアイラちゃんが話していると、ルナが王女様のような上品な笑みを浮かべてアイラちゃんに声をかける。
甘えん坊の彼女ではなく、取り繕った大人の笑顔だ。
「しかし、アトラクションの列に並んで待つというのも、遊園地の
どうしてわざわざ《王女様が求められる仮面》をつけたのかな、と思ったら、アイラちゃんに注意をするためだったのか。
列に並んで待つことを醍醐味だと思っているのも嘘じゃないだろうけど、ルナを優先することで他の人たちを
こういうのを見ると、やっぱり王族らしくないと思ってしまう。
勝手なイメージだけど、王族や貴族って周りのことなど考えず、
「失礼致しました」
ルナの気持ちが伝わったようで、アイラちゃんは頭を下げる。
個人的には、アイラちゃんが可哀想になるけど……。
「アイラの立場からすれば、私のことを優先的に考えることはわかります。ですが、ここはアルカディアではなく、日本なのです。そして私はただの一学生に過ぎませんので、そういうお気遣いは必要ありません」
やはりルナは優しい。
アイラちゃんの立場や気持ちを理解して、彼女が気にしないで済むように言葉を投げかけている。
だからアイラちゃんも、ルナのことをとても大切に想っているんだろう。
「かしこまりました。以後、そのように致します」
アイラちゃんは再度頭を下げた。
ちゃんとルナの気持ちは伝わっているだろう。
ルナもアイラちゃんのことを見つめながら満足そうに笑みを浮かべ、また俺の肩に頭を乗せてきた。
王女としてのルナではなく、一人の女の子としてのルナに戻ったんだろう。
俺は気遣いができて優しい彼女の頭に、ソッと手を置く。
そして、優しく頭を撫でると――
「えへへ……」
――俺がどうしてこうしたのかわかっているらしきルナは、嬉しそうに子供のような笑みをこぼしたのだった。
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