第29話「不敵な笑み」

「一緒に寝るって……さすがにまずいんじゃないのかな……?」


 とりあえず、ワイシャツに関しては一度スルーし、前者の話を進める。


「大丈夫です……!」


 俺の問いかけに対し、ルナは一生懸命コクコクと頷いた。


 何が大丈夫なのだろう……?

 婚約者とはいえ、お姫様が男と一緒に寝るのは良くないと思うんだけど……。

 だからこそ、俺の部屋に押しかけてくるのではなく、隣の部屋に住むようにしたんだろうし。


「一緒に暮らすのは、多分駄目なんだよね……?」


 一応確認してみる。


「はい、駄目です」


 俺の質問に間髪かんぱつ入れずに答えてくれたのは、アイラちゃんだった。

 質問したタイミングでルナはバツが悪そうに目を逸らしたので、最初からアイラちゃんにはルナが答えないとわかっていたんだろう。


「――ですが、今回のことに関しましては一緒に暮らしているわけではありませんので、ご心配はいりません。ルナ様のお部屋は、あくまで隣の部屋ですから」


「……それは、屁理屈じゃないかな……?」


 アイラちゃんが言いたいことを理解した俺は、苦笑しながら頬を指で掻く。

 ルナがバツ悪そうにしたのは、こっちが理由だろう。


 しかし――。


「一緒に暮らしてはならない、とは言われておりますが、一緒に寝てはならない、お泊まりをしてはならない、とは言われておりませんので」


 アイラちゃんは俺の言葉を遠回しに否定してしまう。


「それを屁理屈って言うんだけど……。女王様とかから怒られるんじゃないの?」

「ルナ様は、朝きちんとお部屋に戻られますし――そもそも、ルナ様が聖斗様のお部屋で寝泊まりしているなど、どうやってお知りになるのでしょうか?」


 そう答えたアイラちゃんは、ニヤッと不敵な笑みを浮かべた。


 普通に考えると、アイラちゃんとルナは言わないだろう。

 ルナの近況報告に関しては、側近のアイラちゃんがするのかも知れないけど、ルナに不利益なことをわざわざ言うとは思えない。


 だけど、彼女には部下が数人いたはずだ。

 そこから漏れる可能性があるというのに、こう断言したってことは――既に、手を打っているんだろうな。


 脅したのか、部下もルナを慕って従順なのか――どちらも考えられるけど、この意地悪そうな笑みは、前者の可能性が高いと思う。


「ルナ、無理してない? 婚約者になったからといって、そこまでする必要はないんだよ?」


 問題はなさそうというのは理解したので、ルナの気持ちを聞いてみることにした。

 元々は一緒に寝ていたけど、あれは状況が状況だったからだ。

 自分の部屋があり、寝るところも用意されている子が、わざわざ一緒に寝る必要はない。


 今回の場合、アイラちゃんにそそのかされて来ている気もするし……。


 そう思っていると――ルナは、恥ずかしそうに上目遣いで俺の服の袖を指で摘まんできた。


「私が、聖斗様と一緒に寝たいのです……よ?」


 ――いや、うん。

 かわいすぎるって……。

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