第16話「彼女の部屋は――」
「――近くって、まさかの隣の部屋!?」
ルナを先に家まで送り届けようと思って彼女の案内に従った結果、辿り着いたのは俺が住んでいるマンションだった。
それだけでも驚きなのに、彼女の部屋は俺の隣だったのだ。
これで驚かないはずがない。
「ふふ、聖斗様の驚かれるお顔を拝見出来ました♪」
いたずらのつもりだったのか、ルナは機嫌良さそうに俺の顔を見つめてくる。
わかってて、誤魔化していたようだ。
そういえば彼女は、《近くのマンション》ではなく、《近くの部屋》と言っていた。
それがヒントだったんだろう。
それにしても――隣だなんて、思わないじゃないか……。
「隣の部屋は、俺がこのマンションで暮らし始めた時から誰も住んでいなかったみたいだけど……まさか、隣に住み始めるとは思わなかったよ……」
「
うん、この子シレッととんでもないことを言ってるな?
要は許可が下りれば、俺の部屋に住む気だったわけか……。
許しって、いったい誰の許しが必要だったんだろ?
父さんたちではないと思うけど……。
本当に、次から次へと疑問を生んでくれる子だ。
「それで、隣が空いてたから隣に住むことにしたってこと?」
「はい♪ なるべく聖斗様のお近くがよろしかったので」
その結果が、隣……。
相変わらず大胆なことをするなぁ……。
「てか、それなら会いに来てくれたらよかったのに……」
俺はルナが帰ってきてくれるのをずっと待っていた。
それなのに、実は隣に住んでいて会いにこなかっただけ――だなんて、さすがに酷くないだろうか……?
「あっ、えっと、その……! 正確には私、このお部屋には初めて来ましたので……!」
俺が不満を抱いていると感じ取ったんだろう。
ルナが慌てて言い訳をしてきた。
「どういうことかな?」
なるべく圧を感じさせないように気を付けながら、俺は首を傾げる。
「
なるほど……アニメ好きなルナとしては、アニメや漫画のラブコメで王道な、ヒロインが転校生としてやってきて主人公と出会うイベントみたいなことを、やってみたかったのかもしれない。
もしくは、俺が喜ぶと思ってそうしてくれたんだろう。
実際は、すぐにでも会いに来てくれたほうが嬉しかったけど――話せていないんだから、ルナには俺がどう思うかなんてわからないもんな……。
てか、俺に相談しちゃったらサプライズじゃなくなってしまうし、仕方がないと思う。
『それに……外堀を埋めてしまうのであれば、クラスメイトの皆様にも味方について頂いたほうがいいと……アイラの助言がありましたし……』
ルナの気持ちを汲み取っていると、彼女は突然俯いて英語でボソボソと独り言を呟き始めた。
まだ、俺が怒っていると思っているのかな?
「ルナの気持ちはわかったから、もう気にしないで。でも次は、すぐに会いに来てくれるほうが俺は嬉しいかな。まぁ、次なんてないに越したことはないんだけどね」
またルナがいなくなる思いをするのは、正直勘弁してほしい。
だからもう起きることはなしにしてほしいけど――万が一の時は、下手にサプライズをせずに会いに来てほしかった。
「聖斗様……お許し、頂けるのでしょうか……?」
ルナは不安そうに、上目遣いで尋ねてくる。
彼女にそんな表情をしてほしくなかった俺は、笑顔を返した。
「許すも何も、元々怒ってないしね。それよりも、お隣なら一緒にご飯を食べない?」
お隣ってことには驚いたけど、やっぱりどう考えても嬉しい。
これなら一緒に登下校もできるし、遊んだりもできるだろうから。
ご飯に誘ったのは、俺のせいで上機嫌だったルナが少し落ちこんでしまっているようだから、何かおいしいものを食べて元気になってほしかった。
「本当に、お優しいですね……。お言葉に甘えさせて頂きます」
怒ってないと伝わったのか、ルナはホッと胸を撫で下ろした。
その仕草に一瞬目を奪われるけど、すぐにルナの目に視線を戻す。
「別に、そういうんじゃないよ。何が食べたい?」
一緒に食べると決まったので、彼女が食べたいものを聞いてみる。
「あっ……聖斗様の手料理を、御馳走になりたいです……」
それにより、ルナは照れくさそうに笑いながらお願いをしてきた。
俺は食べに行くつもりで聞いたのだけど……。
「俺なんかの手料理でいいの? もう出歩いて大丈夫なようだし、食べに行ってもいいと思うけど……ほら、ラーメンやお寿司のお店も近くにあるし」
ルナを匿っていた頃は、彼女が外に出られなかったので俺が手料理を振る舞っていた。
だけど、彼女は学校に通えるくらい平然と外に出ているのだから、外食も問題ないだろう。
父さんや莉音だって、今日くらいは外食をしても許してくれるだろうし。
しかし――。
「ラーメンも、お寿司も食べたことがありませんので、興味はあるのですが……久しぶりに、聖斗様の手料理をお食べしたくて……。もちろん、聖斗様がお疲れなどで嫌でしたら、外食で大丈夫です」
なんていじらしくて、嬉しい子を言ってくれる子なんだろう。
食文化も発展しているアルカディアに住んでいて、ラーメンやお寿司を食べたことがないってのは気になるけど――俺の手料理を食べたいと言ってくれるなら、振る舞わないわけがない。
「だったら、すぐに着替えて食材を買いに行ってくるね」
ルナと再会できたのは今日なので、昨日までやる気が起きずお弁当ばかり買っていた。
正直、莉音がまた抜き打ちで見に来ていたら、アウトだっただろう。
まぁというわけで、食材を買いに行かないと冷蔵庫にはほとんど何もないのだ。
「あっ、私もご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」
俺が料理をする気になったと分かったルナは、パァッと表情を明るくしながら追加のお願いをしてきた。
二人分の食材なら一人で持てるんだけど、一緒に来たいなら来てもらったほうがいい。
俺も、ルナが一緒にいてくれたほうが嬉しいし。
「わかった、それじゃあ着替え終わったらここで待っとくね」
俺はそう言うと、すぐに部屋に入って出かける準備をするのだった。
なお、買いものをしている最中――
「私も、お料理をしてみたいです……」
――匿っている間は料理をしなかったルナが、自分からしたいとお願いをしてきたので、簡単な作業は一緒にすることにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます