第15話「二人きりの下校」
「――それじゃあ、帰ろっか?」
「はい♪ 皆様、本日はありがとうございました。明日からも、是非よろしくお願い致します」
俺の言葉に頷いた後、ルナは笑顔でクラスメイトたちに頭を下げる。
ルナは俺が住んでいるところの近くに部屋を借りたということで、一緒に帰るという話になっていた。
同じ方面の女子たちは、一緒に帰ると言い出すかと思いきや――そう主張する子は一人もいなかった。
どうやら、俺とルナが二人きりで帰れるように、気を遣ってくれたらしい。
俺たちはそのまま教室を出るのだけど――。
「あっ、あのかわいい子だ……!」
「隣を歩いてるのが、婚約者の奴か……」
やはりルナは目を惹いてしまうらしく、廊下にいた生徒たちの視線が集まってしまう。
ヒソヒソと話しているのは、俺に対して何か言っているようだ。
多分、休み時間の間に婚約者云々が広まってしまったんだろう。
そんな中――。
「…………」
A組の前を通った時、まだ教室に残っていた莉音が腕を組みながら、とても冷たい目で俺とルナを見つめていた。
あれは完全に怒っている目だ。
だけど、クラスメイトたちがいるからか、絡んでくるつもりはないらしい。
まぁ、その代わりに――
《帰ったら、説明してもらうから》
――俺のスマホには、説明を求めるメッセージが莉音から届いているのだけど。
始業式が終わった後の休み時間でメッセージは来ていたので、俺とルナのことを聞いてすぐに送ってきたようだ。
一応、別の日にしてもらうようお願いはしたけど……既読無視されているので、聞いてもらえるかどうかはわからない。
「あっ、アイラちゃんだ」
莉音を見ていると、同じく教室に残っていたアイラちゃんが目に入った。
彼女はクラスメイトたちに囲まれているので、ルナと同じく注目されているんだろう。
幼い顔付きではあるけど、あの子もかなりの美少女だからそれも仕方がない。
まぁルナとは違って、素っ気ない表情で淡々と返事をしているように見えるけど……。
相変わらず、見た目に似合わずクールだよなぁ……。
「ねぇ、ルナ。アイラちゃんは一緒に帰らなくていいの?」
アイラちゃんはルナのお世話係兼ボディーガードと言っていた。
となれば、一緒に帰るのが普通のはずだけど……。
「あの子にはなるべく、学校では自由にして頂こうと考えております。こうして普通に学校生活を送る機会は、そうそうありませんからね」
俺の質問に対して、ルナは何やら意味深に返してきた。
普通に学校生活を――って、今まで学校に通っていなかったのだろうか?
本当に、次から次へと聞きたいことが出てくる。
「それじゃあ、二人きりで帰るってことでいいんだね?」
「はい♪」
一応尋ねてみると、ルナは嬉しそうに頷いた。
ただの下校でさえ楽しそうにしている彼女を見ると、質問をして空気を壊してしまうのは可哀想に思えてしまう。
家に帰れば話してくれるだろうし、それまでの我慢だ。
それにしても――ルナって、アルカディアから来てたんだな……。
アルカディアとは、名前の通り理想郷のような国だ。
領土はさほど大きくないけど、石油や天然ガスなどの資源が豊富で、金やダイヤモンドなどが採れる鉱山も沢山あるらしい。
そしてそれらを元に貿易をしてお金を稼ぎ、そのお金で世界中からあらゆる分野の優秀な人材を集めたそうだ。
そのおかげで今となっては、ITや医療、軍事技術などをはじめとしたいろんな分野で世界トップクラスになっている。
そのため、低学年の小学生でも知っている国だった。
日本が勝てるのは、アニメや漫画などの二次元分野だけらしい。
食分野に関しても、アルカディアは凄いそうだ。
――まぁ、行ったことがないので、あくまで授業で習った程度でしか知らないのだけど。
「…………」
考えごとをしながら外に出ると、学校からある程度離れたところでルナがキョロキョロと周りを見回し始めた。
どうしたんだろう?
「ルナ?」
『今は誰もおられませんね……』
声を掛けると、ルナは何か独り言を呟いた。
そして――。
「えいっ……!」
ギュッと、俺の腕に抱き着いてきた。
それにより、大きな胸が俺の腕に押し付けられ、ムニュッと形を変えてしまう。
相変わらず大胆すぎる子だ。
「ル、ルナ、いきなり抱き着かれると驚くよ……」
俺は凄く激しく鼓動する心臓を気にしないように頑張りながら、ルナに笑顔で注意をする。
シレッと腕を絡められた時よりも、今のように勢いよく腕に抱き着かれたほうが心臓に悪い。
「ご、ごめんなさい……! もう周りに誰もおられませんので、大丈夫かと思いまして……!」
どうやらルナは、体育館前で注意したことを気にしていたようだ。
やっぱりいい子なんだけど……あれは別に、誰もいなければいいっていう意味でもないんだよな……。
まぁ、周りの人に迷惑になるってことを、建前にしたのが悪かったんだろうけど……。
「いや、別にいいんだけど……ルナって、こういうことをよくするの?」
海外ではスキンシップが日本より激しいところもある。
それはもう文化の違いなので、しょうがないと思っていた。
ルナは初めて家に泊まった時からかなりスキンシップが激しかったし、そういう文化で育ったのなら仕方がないだろう。
そう思って聞いてみたんだけど――
「わ、私がこんなことをしますのは、聖斗様だけですよ……? 他の方には、致しません……」
――頬を赤く染めた上目遣いで、否定されてしまった。
どうやら、こういった文化があるわけではないらしい。
「そ、そうなんだ……。結構、大胆だね……」
ルナの言葉で照れくさくなってしまい、なんて言ったらいいかわからなかった俺は、思っていることがそのまま口から出てしまった。
それにより、ルナは恥ずかしそうに目を逸らす。
「誰もいらっしゃらないから、できることです……」
彼女は、現在二人きりだからこんなことができると主張しているようだ。
要は、人目があると恥ずかしくてできない、と言っているんだろう。
――でも、待ってほしい。
廊下でクラスメイトたちがいたのに、普通に腕を絡めてきたんだけど――まぁ、ツッコんだら駄目な奴かな……。
舞い上がっていたと言っていたし、普段はあんなことをする子じゃないのかもしれない。
……二人きりだと、彼シャツ姿になったり、バスタオル一枚で俺の前に来たり、抱き着いてくるような子だけど……。
あれは無理していたのかな……?
何か訳ありだったようだし、そこについても説明してくれたらいいなぁ――と俺は思うのだった。
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