第14話「歓迎会のお誘い」

「――ねぇ、アルフォードさん。この後アルフォードさんの歓迎会をしたいんだけど、いいかな?」


 始業式が終わり、ホームルームも終わった後のこと。

 本日は授業がないため午前で学校は終わったのだけど、ルナはクラスメイトの女子たちから誘いを受けているようだ。


 みんな、ルナと仲良くなりたいんだろう。


 ちなみに、ルナの席は佐神先生が男子に持ってきてもらおうと思っていたらしく、教室には用意されていなかった。

 そのため、始業式の後に俺が取りに行ってきたのだ。


 そして先生が、《慣れない日本で過ごすのですし、婚約者である桐山君が力になってあげてください》と気を利かせてくれて、俺の隣の席になっている。


 というわけで、現在歓迎会に誘うやりとりは俺の隣で行われていた。


「まぁ……! わざわざありがとうございます……!」


 誘われたことに対してルナはとても嬉しそうに両手を合わせ、目を惹かれる素敵な笑顔を返した。


 この反応を見るに、ルナは歓迎会をしてもらうようだ。


 多分彼女の歓迎会が行われるとなると、女子たちはみんな行くだろう。

 逆に男子たちは俺のことがあるからか、チラチラと歓迎会が気になる様子を見せながらも、誰一人女子たちの輪に加わらず帰り支度をしていた。


 こうなってくると、俺も参加しづらいんだけど……。


 女子だけの空間に男子一人というのは気まずいし、女子たちからも嫌がられるはずだ。


 そんなことを考えていると、チラッとルナが俺に視線を向けてきた。

 しかし、すぐに女子たちに視線を戻してしまう。


「ですが、申し訳ございません。本日はご予定がありますので……」


 喜んでいるように見えたのでてっきり誘いに乗るかと思いきや、彼女は断ってしまった。

 俺のことを見て断ったということは、俺に気を遣ったのだろうか?


「ルナ、歓迎会に行ってきたらいいんだよ?」


 俺のせいで参加できなくなるのは可哀想だと思い、申し訳ないけど話に割り込ませてもらった。

 それにより、ルナを含めた女子たちの視線が一斉に俺へと向く。


 少し、早まったかもしれない。


「いえ、叶うのであれば、歓迎会は後日にして頂きたく……」


 俺の言葉に対しルナは、首を横に振ってしまった。

 俺に気遣っているんじゃなく、本当に予定があるのかもしれない。


「そっか、余計なことを言ってごめんね」


 俺の勘違いだったようなので、素直にルナへと謝る。


「私のことを気にかけてくださったことはとても嬉しいですので、謝らないでください」


 ルナはニコッと優しく微笑んできて、俺のことを許してくれたようだ。

 優しい雰囲気は離れ離れになる前と変わらず、ルナの笑顔を見ていると心が温かくなる。


「ありがとう……。ごめんね、みんな。ということで、ルナの歓迎会を別の日にしてくれるかな?」


 先程の失敗を取り返す――というわけではないけど、ルナの気持ちはわかったので俺からも女子たちにお願いをする。


「うん、もちろんだよ! 急に誘ったのは私たちだしね!」

「やっぱりこういうのは、当日じゃなくて早くても数日後に設定しないと駄目だよね~」

「今度の土日のどちらか――とかかな?」


 歓迎会を別の日にしたい、という想いに対し、女子たちは嫌な顔をするどころか笑顔でリスケを考えてくれていた。

 こういうところがこのクラスのいいところで、きっとルナもすぐに馴染めるだろう。


「聖斗様も、ご参加頂けるのでしょうか?」


 問題なく話が進みそうだと思った俺は帰り支度を始めたのだけど、ルナが小首を傾げながら俺に聞いてきた。


「えっ……?」


 女子会になりそうな歓迎会に誘われると思っていなかった俺は、戸惑いながらルナを見る。


「私は聖斗様もご参加頂けると嬉しいのですが、駄目でしょうか?」


 もしかしてルナは、男子抜きで話が進んでいることに気が付いていない?

 それとも……気が付いているけど、俺にはいてほしいと思っているのかな?


 どちらにせよ、女子たちがそんなことを許すはずが――。


「婚約者だしね、アルフォードさんの歓迎会に参加しないわけがないよね?」

「歓迎会の主役である婚約者からのお願いは断れないよね~」

「楽しみだなぁ、二人の話をいろいろと聞くの」


 てっきり俺は抜きでやろうと言われると思いきや、むしろ積極的に俺が参加する方向に持って行かれたようだ。

 この場にいる女子たちみんなニマニマとしていて、とても楽しそうに見える。


 ――絶対これ、歓迎会で弄られる奴だ……。


「い、いやぁ、女子たちの中に男子一人っていうのも良くないっていうか……」


 ルナの歓迎会はしたいけど、おもちゃにされたくない俺はなんとか逃げ道を探す。

 しかし――。


「心を許しているお相手がいてくださるのは、安心感が全然違いますよね~。婚約者なんですから、桐山君がいることくらい誰も気に致しませよ~」

「せ、先生……?」

「と言いますか、日本に来たばかりで心細くなってしまっている女の子のお願いを、お優しい桐山君が断るはずがありませんよね~?」


 まだ教室に残って俺たちのほうを見ていた佐神先生が、俺の逃げ道を塞いでしまった。

 それにより、女子たちが更に勢いづく。


「うんうん、お優しい桐山君だったら、当然参加するよね~?」

「まさか、ここで逃げたりしないよね~?」


 おかしい、女子――まぁ一人女子とは言えないけど……みんなが、俺の逃げ道をなくしていく……。

 そこまで俺を参加させる意味があるのかな……?


 まぁ、主役であるルナが望んでいるから――というのもあるかもしれないけど……。

 でも絶対、みんな俺たちを弄りたいだけだよ……。


「あの、聖斗様……お嫌でしたら、お断り頂いて大丈夫ですので……」


 俺の状況を気の毒に思ったのか、ルナが申し訳なさそうに言ってきた。

 しかしこんなことを言われて、《うん、やめておくね》なんて言えるはずがない。


「大丈夫、俺もルナの歓迎会はしたいからね。是非、参加させてもらうよ」


 結局俺は、こう答えるしかなかった。


「はい、決まり~!」

「あっ、先生も参加なされますか?」

「ん~、そうですね~。予定が空いていましたら、参加させて頂きましょうか~。問題を起こされてもかないませんので~」


 俺が頷いたことで、みるみるうちに話が進んでいっているようだ。


 まぁ、いいんだけどさ……。

 俺もルナの歓迎会はしたかったし。


「あの、聖斗様……わたくしはただ聖斗様とご一緒にいさせて頂きたかっただけでして……困らせてしまうおつもりはありませんでした……」


 盛り上がっている女子たちを横目に、ルナが俺に話しかけてきた。

 かなり申し訳なさそうにしており、本当に意図した展開ではないんだろう。


 この子が素直で天然なことは、もう十分理解している。


「いいんだよ、俺も本当にルナの歓迎会をしたかったからね。今から楽しみだよ」

「聖斗様……」


 ルナが気にしないように笑みを浮かべると、ルナはホッと胸を撫で下ろす。

 それにより、彼女の豊満な胸が大きく揺れてしまい――俺は、慌てて目を逸らした。


 なるべく意識しないようにしているけど……やっぱり、ルナのって大きいよな……。


 グラビアアイドル並で、学校で一番大きいと全校生徒が認知している佐神先生と比べても、そこまで負けていないと思う。


 本人に言うと傷つけてしまう可能性があるし、意識していると気持ち悪がられるかもしれないから、なるべく我慢しているけど……。

 正直、目の毒だった。


 俺、よく二人きりで一緒に寝ていて――しかも、彼シャツ姿でいた彼女と抱き合っておきながら、手を出さなかったよな……。

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