第12話「埋まる外堀」
「「「「「えぇえええええ!?」」」」」
ルナの爆弾発言により、男女問わずクラスメイトたちの驚く声が教室内に響き渡った。
それもそうだろう。
当の本人であるはずの俺でさえ、理解が追い付かないのだから。
「あらあら……最近の高校生って進んでいるのね……。凄いわぁ……」
相変わらずのんびりとしている佐神先生は、口元に手を添えながらパチパチと
先生、そういう話ではないと思います……。
いったいどういうつもりなのか――俺は説明がほしくて、ルナを見つめる。
俺と目が合ったルナは――
「……♪」
――上機嫌に素敵な笑みを浮かべながら、小さく手を振ってきた。
この子も、かなりマイペースだと思う。
この騒ぎが気にならないのだろうか……?
「せせせ、聖斗!? いったいどういうことだよ!?」
ルナに気を取られていると、男子の一人が俺に説明を求めてきた。
「そうだよ、抜け駆けをしたのか!?」
「あんなかわいい留学生と、いったいどこでお近づきになったんだよ!?」
それによって、他の男子たちも質問を投げかけてくる。
――いや、男子だけではない。
「桐山君、アルフォードさんの婚約者なの!? すごぉい!」
「ねね、馴れ初めを教えてよ!」
女子たちも、興味津々という感じで俺に質問をしてきていた。
出会ったばかりのルナよりも、四カ月ほど同じ教室で過ごしてきた俺のほうがみんな尋ねやすいのだろう。
――ただし、男子と女子では纏っている空気が違う。
男子たちは、それはもう目を背けたくなるほどに嫉妬の炎を燃やしながら俺を見ている。
結構クラスに馴染めていたはずなのに、明らかに俺と彼らの間には亀裂が生じていた。
そして女子たちは、俺とルナの関係が気になって仕方がないという、好奇心に満ちた目で俺を見ている。
こちらは好意的な視線なので、気恥ずかしくはあれど嫌な気持ちはしない。
この違いは、ルナを恋愛対象として見ているかどうか、なのだろう。
「い、いや、俺も何が何やら……!」
本当にどういうことかわからない俺は、正直に答えた。
しかし――。
「そんな……! 一緒に寝て、熱く抱き合った仲ではありませんか……!」
俺の発言に対して、ルナが
それも、とんでもない火力を持った言葉で。
「ちょっ、ルナ!?」
ルナが言っていることは嘘ではない。
彼女の言う通り、ルナが泊まっている間は一緒に寝ていたし、抱き合ったりもした。
だから嘘ではないのだけど――この場では、彼女の発言は誤解を生みかねない。
「くっ、既にお手付きだと……!?」
「俺たちに、付け入る隙はないのか……!」
「あはは……桐山君、恥ずかしいのはわかるけど、彼女の前で誤魔化すのは良くないよ?」
「彼女じゃなくて婚約者ね。でもほんと、こういう時は堂々としていたほうがかっこいいと思うよ?」
嫉妬心を燃やしていた男子たちはルナの発言で心が折れかけているらしく、ガックリと
そして女子たちは、仕方なさそうに笑いながら注意をしてきていた。
本当にうちのクラスメイトたちは心優しい。
普通なら、女の子に恥をかかせたとして俺は凄く非難されていただろう。
特に女子たちから見たら女の敵に見えただろうし、男子たちもこうもあっさりとルナのことを諦めようとしたりはしない。
俺はクラスメイトたちに恵まれたことにホッと安堵しつつ、笑みを浮かべた。
「そうだね、ごめん。ただ、事情を理解できていないことも本当なんだ。彼女が留学をしてくるなんてことも知らなかったし」
今の空気で再度俺が否定をしたところで、誰も信じてくれないだろう。
留学してきたばかりのルナが、話してもいない俺の名前と顔を知っていたことや、婚約者と名乗るという普通はありえない行動が、ルナの発言に不思議と信憑性を生んでしまっている。
もし無理に否定しようものなら、せっかくの好意的な空気を壊してしまい、今度こそ俺は非難されるはずだ。
だから俺は、ルナの発言を肯定するようなことを明言するのは避けつつ、雰囲気では肯定したように見せながらも、少し話を別の部分に誘導した。
「サプライズ留学!?」
「婚約者である桐山君と一緒に居たくて、アルフォードさんはわざわざ留学してきたってこと!?」
まぁ当然、場の空気からこう誤解されるのだけど――それはもう、仕方がない。
俺が明言しなければ、最悪みんなが勝手に誤解しただけ――という逃げ道はあるのだから。
それにしても……ルナはどうして、こんな嘘を吐いたんだろ……?
「勉学に励むため――というのは嘘ではございません。しかし……叶うのであれば、聖斗様と同じ学校で学びたいと思いまして……我が儘を言わせて頂いたのも、事実になります」
俺が否定しなかったことが嬉しかったのか、ルナはニコニコとした笑顔でみんなに説明をした。
おかげで、女子たちから《きゃぁ~!》と黄色歓声が上がる。
もう完全にみんなの中で俺とルナは、婚約者という扱いになってしまっただろう。
「はは……最初から、俺らに勝ち目はなかったってわけだ……」
「仕方ねぇ……聖斗がいなかったら、そもそもアルフォードさんはこの学校に来てないってことなんだから……」
「様呼びまでして……アルフォードさんから聖斗に対して、沢山のハートが飛んでいるように見えるぜ……」
うん、心が折れかけていた男子たちには追い打ちとなったようで、完全に心が折れたようだ。
これなら、嫉妬によって俺が酷い目に遭うってことはないので、安心できるんだけど……ルナの真意がわからない以上、気は抜けない。
そしてもちろん、他にも悩みの種がある。
ここまで教室が騒ぎになっていて、他のクラスの耳に入らないはずがない。
つまり、莉音が知るのも時間の問題だろう。
果たして、莉音がこのことを知った時――俺は、どんな目に遭わされるのだろうか……?
「それでは皆さん、アルフォードさんの自己紹介と、桐山君との熱い仲を確認し終えましたところで――そろそろ、体育館に向かいましょうか~。始業式が始まりますので、遅れることは許されませんよ~」
男子たちの心が折れたことで話は終わったと思ったのか、佐神先生がマイペースにみんなを誘導し始めた。
そうだった、ルナの登場で忘れていたけど、今日は夏休み明け初日なんだ。
当然、始業式が行われる。
騒ぎになったことで本来教室を出る時間が遅れたというのもあり、みんな急いで廊下に出て並び始める。
そんな中――。
「驚かせてしまいましたよね? ごめんなさい……。もちろん、
俺にルナが近寄ってきて、上目遣いで謝ってきた。
やはり、何か訳ありのようだ。
ただ、この子……謝ってきているのに、シレッと腕を絡めてきてるんだけど……相変わらず、自由すぎない……?
「ん~、まぁいいですか。仲がいいことは、
そして他のクラスメイトたちは――
「初日から、凄く見せつけてくれるじゃないか……!」
「くそ、俺だって彼女がほしいよ……!」
「大丈夫だ、まだもう一人留学生はいるんだから……!」
「わぁぉ、熱々だ……」
「本当に仲いいんだね……」
「ここだけ夏――って言おうと思ったけど、まだ夏だった。でも、真夏くらいに暑いよね~」
――俺たちを見つめながら、様々な感情を抱いているようだった。
だけど、嫌な感情をぶつけてくる人はいないので、何か問題が起きることはないだろう。
「……♪」
腕に抱き着いているルナはとても幸せそうに俺の肩に頭を乗せてきているし、先生が許してくれた以上は問題なさそうだ。
もちろん俺も、彼女の登場や婚約者という発言には戸惑っているものの――待ち望んでいた人と再会できて、内心とても嬉しいのだった。
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【あとがき】
読んで頂き、ありがとうございます(*´▽`*)
話が面白い、「ルナかわいいもっとやれ!」と思って頂けましたら、
モチベーションにもなりますので、
作品フォローや評価(下にある☆☆☆)、いいねをして頂けると嬉しいです(≧◇≦)
これからも是非、楽しんで頂けますと幸いです♪
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