第4話「一人暮らしの理由」
「そろそろ晩御飯の準備をしますね」
アニメを見ながらルナに翻弄されること数時間。
お腹が空いてきたので、俺は料理を作ることにした。
もちろん、炊飯器は既にセット済みだ。
「本当にお料理をなされるのですね……」
「あはは、料理は下手そうに見えますか?」
感心したように見てくるルナに対し、俺は笑顔で首を傾げる。
「いえ……日本では高校生の自炊は珍しいのではないかと……。そもそも一人暮らし自体が、珍しいですよね?」
ルナがいつから日本にいるのかは知らないけど、日本人に関してある程度の知識はあるらしい。
そんな彼女から見たら、俺は変わっているように映るんだろう。
「まぁ、部活とかで県外に出る以外では、そうないことかもしれませんね」
「聖斗様は、どうして一人暮らしをされておられるのでしょうか?」
俺に興味を抱いてくれているのか、ルナはジッとこちらを見つめてくる。
物怖じしないというか、相手の懐に飛び込むことを
天然が入っているようだし、深くは考えていないのかもしれない。
「聞いても楽しい話ではありませんよ?」
「聖斗様のことですから、お知りになりたいのです」
「…………」
ここまで好意を一切隠さないのも凄いと思う。
どうやら俺は、助けたことで彼女に気に入られたらしい。
それは、嬉しいんだけど……正直、距離感を掴みかねている。
「えっと……実は、父親が去年再婚したんです。しかも、長いことお隣さんだった相手と」
自分に対して好意的なルナが聞きたそうにしていたことで、俺は胸に秘めていたことを打ち明けてみた。
「お隣様ということは、交流があったのですか?」
ルナは察しがいいようで、俺が抱えている問題に近付いてきた。
だけど、単純にお隣さんだったことが問題ではない。
ラブコメでよくあるようなことが、俺にもあったのだ。
「そうですね……実は、相手にも連れ子がいて……彼女と俺は、幼馴染だったんです」
「…………」
幼馴染と聞いた瞬間、ルナの表情がわかりやすく曇る。
やっぱり、察しがいいようだ。
「仲は、よろしかったのでしょうか……?」
「どうでしょうね、今となってはわかりません」
二年くらい前なら、仲が良いと答えたかもしれない。
だけど今では……そう思っていたのは俺だけだったのかもしれない、と思っていた。
「何かあったのですか?」
「…………」
本当に、グイグイと聞いてくるな……。
あまり話したいことではないのだけど……ここまで話しておいて、都合が悪いことは黙るというのも良くないか……。
「告白をしたんですけど、振られたんです」
「――っ。……それは、悲しいことですね……」
ルナは数秒
しかしこれは、俺にとってまだ割り切れることだった。
いくら幼馴染だとはいえ、付き合えない可能性も考え、ちゃんと覚悟していたのだ。
だから、振られてもなんとか平静を保ててはいた。
問題はその後だった。
俺にとって、きつい出来事が起きたのだ。
「それからすぐのことでした。父さんたちが再婚すると聞かされたのは」
あの時はまじで地獄かと思った。
振られた相手と、一緒に暮らすことになったのだから。
気まず過ぎて、生きた心地がしないほどだった。
「タイミングが悪かったのですね……」
「まぁ、父さんたちは俺が告白をして振られたってことは知りませんでしたし、仲のいい幼馴染だと思っていたでしょうから、文句なんて言えないんですけどね。ただ、気まずさのあまり……高校入学と同時に、一人暮らしをさせてもらったんです」
だから今は、高校に徒歩で通えるマンションに一人で住まわせてもらっている。
妹になった幼馴染も同じ学校だけど、クラスは違うので顔を合わせる機会はだいぶ減った。
少なくとも今では、振られた時のことをそこまで引きずってはいない。
「現実は、アニメや漫画のようにはいきませんよね……」
ルナは優しく俺の体を抱きしめてくる。
慰めようとしてくれているんだろう。
会ったばかりのかわいい女の子にこんなことをされているので、鼓動がバクバクととてもうるさく鳴っているが、なんとか平静を取り繕って俺は笑みを浮かべた。
「過去の話ですから、今はもうそこまで気にしていません」
『……家から出ないといけないほどに引きずっていますのに、気にしていないはずがありませんよね……』
俺の言葉を聞いたルナは、ボソッと何かを呟く。
しかし英語で小声だったので、俺はよく聞き取れなかった。
「なんて言ったのですか?」
気になってしまい、尋ねずにはいられなかった。
「なんでもありません。聖斗様がお気になされておられないのでしたら、よかったです」
ルナはニコッとかわいらしい笑みを浮かべて、俺から離れてしまう。
なんでもないようには見えなかったけど……教えてはくれないようだ。
「一点、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「えっ? もちろんですけど……」
「聖斗様は、彼女さんはいらっしゃらないのですか?」
「――っ!?」
突然踏み込んだ質問をされ、俺は思わず息を呑んでしまう。
「い、いませんけど……?」
「そうですか、わかりました」
いったい何をわかったというのだろうか。
やっぱり、ルナとの距離感を掴めない。
『幼馴染は困りますが……一度切れた縁でしたら、問題はないでしょう。彼女さんもいないとのことですし……頑張りませんと……』
「ルナ……?」
俺に背を向けたルナは何やら一人ブツブツと呟いているようだったので、声をかけてみた。
すると、彼女はクルッと俺のほうを振り返って、ニコッと笑みを向けてくる。
「何かお手伝いできることがありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」
「……?」
なんだか誤魔化された気がしたが、ルナの笑顔があまりにも素敵すぎて、俺はわざわざ突く気にはなれないのだった。
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