第1話

夕暮れ時の教室は、まだ残る春の陽射しに照らされて、淡いオレンジ色に染まっていた。教壇には「契約とその歴史」と書かれた黒板があり、教師の声が静かに響いている。


「皆さん、来週の試験では、契約の種類やその成り立ちについての理解が問われます。特に、『禁断の契約書』については、過去の事件やその力の影響についても触れておきます。」


教師の言葉に、クラスの生徒たちはそれぞれのノートにペンを走らせた。黎(れい)は、自分の席に座りながら、窓の外の景色に目を向けていた。クラスメイトの声と、カリキュラムの詳細が耳に入ってくるが、彼の心はどこか遠くにあった。


先生の「ここは特に大事ですよ。」という声で、再びノートに目を落とした。


「さて、皆さん、次のページを開いてください。」教師の声が響く。黒板には「禁断の契約書」の文字が大きく書かれている。黎はペンを握りしめ、ページをめくった。


「禁断の契約書。これは、古代から伝わる非常に強力で危険な契約書です。その力は計り知れないほどで、結ぶ者には莫大な力と同時に、深刻な代償が伴います。」教師の声は真剣そのもので、教室の空気が一瞬で緊張感に包まれる。


「例えば、過去に『暗黒の契約書』が使用された事例がありますが、その力はあまりにも強大で、使用者自身が破壊されることもあるほどです。」


黎はその言葉に、ふと手元のノートを見た。『暗黒の契約書』という言葉が、何度も書かれている。彼の心には一つの疑問が浮かんでいた。「本当に、あんな力が必要なのだろうか…?」黎の目は不安げに黒板の文字を追っていた。


「そして、契約を結ぶ際には、必ずその人の血を契約書に垂らす必要があります。血の契約によって、その契約が正式に成立するのです。」教師の説明に、クラス全体が静まり返る。黎の手が震えるのを感じた。


「黎、何か考えてる?」と、隣の席の綺麗な栗色の髪が特徴的な綺惺(きせ)が小声でつぶやく。黎はその言葉にふと我に返り、頷いた。「うん、ちょっとな。」


____放課後


授業が終わり、教室は静かになった。みんながそれぞれの帰り支度を始める中、黎は一人、教室の窓際に座って外の景色を眺めていた。

綺惺が「黎、何か悩んでるの?」と心配そうに聞いた。


「うん。」黎は笑顔を見せたが、その目には何か深い思いが隠れていた。


「契約って、ほんとに必要なのかなって…。」


「そんなの決まってるだろ。契約しないと、高校にも行けないし、将来の仕事だって決まらないんだからさ。」綺惺が明るく言った。


「でも、契約によって得られる力って、本当に自分に必要なものなのかな。」黎の声には、どこか迷いがあった。


「黎、俺が一緒にいるから大丈夫だよ。」綺惺が優しく言った。「契約は怖いことじゃない。大事なのは、自分が何を選ぶかだ。」


その言葉に、黎は少し安心した。彼は深呼吸をして、立ち上がる。

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