白い魔女と運命の糸
西 悠貴
白い魔女と運命の糸
運命の糸は何の前触れなく、ぷつりと切れてしまった。
それは将来が掛かった中学生最後のテニスの大会、しかも決勝直前というのだから、悪戯にもほどがある。
信号のない横断歩道を渡って、自販機に飲み物を買いに行こうとした裕二は、アクセル全開で突っ込んできたトラックに跳ね飛ばされてしまったのだ。
(終わった……終わった……俺の人生、終わった……)
現代医療の献身なる治療の末、一命を取り留めたのはこの上なく幸運だった。
しかしながら現実は厳しく、試合は不戦敗。地元紙にも取り上げられた期待の星は誕生することなく、ブラックホールへ。レッドカーペットを敷かれていたスポーツ推薦での高校進学の道もクローズド。複雑に折れ曲がった足は、何とか歩けるまでには回復したものの、運動だけが取り柄だった裕二には今の自分は耐えきれず、お先は真っ暗。塞ぎこんでしまい、学校はおろか、外にも出られなくなってしまった。最初こそ「学校へ行け」と口を酸っぱくしていた母親も、馬の耳に念仏を唱え続けられるほど暇では無く、もう何も言わなくなってしまった。
今朝も制服に袖を通すこともできずに、ゲーム機の電源を入れる。死んだ目で画面に向かい現実逃避をする裕二の頭を小突くように、インターフォンが鳴った。
(そういえば荷物が届くから受け取れって、オカンに言われてたっけ……)
面倒と思いつつも、ドアフォン越しに話かけ、訪問者を確かめる。
「はいー」
「ワワ、ワタシ、『うどん谷』ノ―――」
何のことかわからず、祐二はドアスコープをのぞき込む。そこには真っ白いローブを頭からかぶった女の姿があった。舌足らずな甘い声と外観から察するに、自分と同じ二〇代~三〇代、若しくは四〇代から八〇代かもしれない。
(ははぁ……これは宗教の勧誘かな?)
コホンと喉を整えて、祐二はヘリウムガスを吸ったような高い声を出した。
「おかあさんはでいません。ぼく、ひとりでちゅ」
「デスガ……○×△※」
何を言っているのかはわからないが、彼女は引き下がろうとしない。うんざりとしながらも、良い暇つぶしが出来たと、裕二はからかうことにした。
『熱心な信者だった母親が病気になったが、治療すれば治るにも関わらず、宗教上の理由で拒否して他界してしまった。だから、母親はいない』と、自らの半生をでっち上げ、幼児っぽいたどたどしい話し方で、インターフォン越しの彼女に訴える。さすがにこう言えば引き下がるだろう。裕二としてはロケットランチャーで一発当てた感じだった。
「ゥゥゥ……ソンな……オツライデスネ」
悲しそうな顔を見せた後、ほがらかな笑顔で言った。
「デモ、ワタシハ違イマス」
「そうはいってもおなじだ! うぇええええん! ひとごろしぃ! おかあさんをかえせぇ~」
「エッ?! エッ?! ド、ドシヨウ……」
明らかに声はうろたえていた。裕二はほくそ笑みながら、改めてドアスコープをのぞき込んむ。群れから外れた子羊のようにオロオロとしている彼女は、何かを見つけて手を振った。小さな視界に入りこんできたのはこれまた白いローブ……いや、よく見たらシャカシャカ生地の白いナイロンジャケットを着た、ラフレシア並の貫禄のある
(ぞ、増殖した……んじゃなくて、オ、オカン?!)
『死んだ母親』がそこにいるではないか。悪い予感を察し、ベランダから逃走を図ろうとするも、ガチャと玄関の鍵が回る。それは、手錠がかかる音に似ていた。
「私、死んでないんだけど?」
十四時四十二分。詐欺未遂罪の現行犯で中学三年・
食卓の向かいに母親と白ローブの彼女が座る。取り調べが始まるどころか、いきなり法廷に立たされてしまい、祐二は判決文を聞かされた。
「――というわけで、ちょうどいい機会だしと思って」
「何が何だかワケわからないんだけど……まず、オカンって『ガイジン』なの……?」
「あれー? 裕二ってば、知らなかったの?」
「小学校の生い立ち調べで聞いたときにも、そんなこと言ってなかったぞ!」
「言うのを忘れてたのよ~。隠してたわけじゃないんだけどさぁ……アッハッハッ!」
笑ってごまかす問題でもないと一喝するべきだが、次から次へと明かされる真実(?)に圧倒され、裕二は開いた口が塞がらなくなってしまった。
母親は『うどん谷』の大地主の娘であり、有名財閥の息子との結婚も決まっていた。そこに仕事で訪れた父親と出会い、イッツフォーーリンラブ。
「なんで金持ちの娘が、こげんな薄汚いウサギ小屋以下に住んでさらに、パートで働いてるんじゃ! もっと良い暮らし出来るじゃろ!」
「そこは島倉千代子も歌ってるコトだし♪」
ごまかすように〈JASRAC許諾番号未取得により割愛〉と、歌いながら、隣に座った白ローブの少女を紹介した。
「で。この子は私の友達の娘。日本に来たがってたから『おいでよ~、オバチャンちに泊まりなよ~』っていう社交辞令を真に受けちゃってさ~」
「ハイ! 『うどん谷』カラキタ、×××・××・××××デス! 『ミコ』ト、ヨンデ、クダサイ!」
長すぎる名前は耳馴染みがなく、全く聞き取れなかった。名前に『ミ』も『コ』もなかった気がするが、そんな些細な事はどうでも良くなるような急展開で、裕二は混乱して頭を抱えるしかない。
「どーせ、あんた、学校行ってなくてヒマでしょ。私は仕事があるから、このコの面倒、よろしくね!」
「フツツカモノデス、オネガイシマス」
ミコは被っていたフードを外し、ぺこりと頭を下げた。
ちんまりした少女だった。肌はさすが『うどん谷』から来ただけ会って白くてモチモチ。クリッとした大きな目と、濃縮しためんつゆの深い黒茶色の瞳と髪。一見すれば美少女と二人っきりで一つ屋根の下。生唾ものだ。
(何だかよくわからないにせよ、こ、こんな可愛い子と二人っきりで過ごせと……?! もしかして、これは神様からのお恵み……)
健全な男子であれば実にオイシイ環境だが、それは字面だけのモノであった。
ミコが住むようになって以来、リビングには粉雪……もとい、小麦粉が積もるようになった。それだけでなく、ドンドンと祭り囃子の大太鼓のように腹に響く地響きで家、いや、ボロアパート全体が揺れる。
「な、何してんだよ、お前!」
「? ミテノトオリ『うどん』ツクッテマス!」
「なななななんで?! なんでうどん?!」
「ソレハ、ワタシガ『うどん谷』カラ、キタデス」
ミコの話をかいつまむと、どうやら自分の住む『うどん谷』と同じ名前の食べ物のことを知りたくて、はるばる日本にやってきた、らしい。理解し難いが、旅行のきっかけなど、そんなものだろうと、裕二は無理矢理納得するしか無い。
「……だ、だったらさ。まず料理教室に通うとか、うどん打ち体験をするとかだな……」
「ダイジョブ! オイシイウドン、ツクレマス!」
辺り一面、小麦粉だらけにしながら練った生地を無造作にゴミ袋にいれたと思うと、足で踏みつける。
「オイシクナ~レ! モエモエキュン!」
ミコ曰く、この呪文を唱えると、何でも美味しくなるらしい。そんなもので味がどうにかなるのであれば、うまみ調味料など誕生しないだろう。いくらでも屁理屈は思いつくが、キャッキャと楽しそうな本人の前では嵐の前の
しかしながら築四〇年、家賃四万円の3LDKアパートで足踏みなどしようものなら、下に住む大家が血相を変えてすっ飛んでくる。いつも親が不在の時に来るため、頭を下げるのは必然的に裕二の仕事だ。また、小麦粉をぶちまけるため、部屋の掃除もかかせない。掃除機で吸い取り、絨毯の毛の隙間に入り混んだ粉をコロコロで捕獲しているうちに、ミコは新たなうどんを作り始めて「モエモエキュン」。騒音に怒り狂った大家が釘バッドを肩に担いでカチコミに来る。
頭を垂れながら、これはもしや「家にいるならせめて風呂とトイレの掃除をしろ」という母親の言葉を無視続けていた罰なのかもしれない。裕二は今更ながらに後悔に打ちひしがれるも、
裕二の心身のすり下ろしが配合されたミコ謹製の『モエモエうどん』は、とにかくまずかった。麺がボソボソだったり、コシがありすぎてガムだったり、一口食べれば徴兵逃れにぴったりな塩分濃度で向こう岸が見えたりと、もはや食い物ではなく生物兵器である。ミコはレシピ通りに作ったと言い張るが、料理本ではなく魔術書でも参考にしたのかもしれない。
めんつゆさえ、薬味さえ、具を、と、手を変え品を変え、ミコのプライドを傷つけないように誤魔化してみたが、どうにもならない。耐えかねて弁当やカップ麺を食べようものなら、機嫌を損ねてすぐすねる。
今日も少しばかりミコの作った生ゴミ、いや、うどんを囓り、心の中で小麦農家の人々に五体投地して、裕二は箸を置いた。
「こんな生活、もういやじゃあああじゃああ!」
ばらまかれた小麦粉が内部に混入し、キュルキュルと異音を立てるゲーム機に涙しながら、裕二は、終わりの見えない小麦粉地獄から抜け出す決意をした。
翌朝、久々に裕二は詰め襟の黒い服を着た。ケガした足を引きずりながら、ゆっくりと学校に向かう。
きっとコソコソと噂されている。『あいつは我が校の名前に泥を塗った』など、罵詈雑言を投げつけられるに違いない。そんな不安は、寝て起きて寝るという引きこもり生活でなまりきった体に鞭を打つのが精一杯での前で、考えている余裕はなかった。なんとか学校にたどり着いても三階建て校舎の階段という崖に、さらには教室に入るという試練が待っている。
(怖いなぁ……何、言われるんだろ……負け犬? 恥さらし? まだ生きていたのか? ……えええい、ここまで来たんだ! どうにでもなぁれ!)
教室の敷居をまたぐと、降りかかってきたのは小麦粉でも塩ではなく、クラスメイトのごくごく自然な言葉だった。
「おー、裕二、久しぶりじゃん。ケガ、治ったのか?」
「席替えして、お前の席、あっこになったからさー」
机の上に花瓶を置かれているわけでもなく、落書きをされているわけでもない。よそよそしいわけでも、過度に心配されすぎるわけでもない。裕二は自意識過剰さを恥じた。
不登校からの脱却という一仕事を終えて家に帰ると、やはり小麦粉まみれだった。違っていたのは先に帰っていた母親が後始末をしていたことだ。
(ははーん。やはり、学校に行けばミコの奇行にも付き合わなくていいし、片付けも免除か……)
味を占めた裕二は、毎日、学校に行くという、それなりに規範生活を送るようになった。部活は終了なので、終わればさっさと帰らなければならないが、ミコが家で小麦粉をまき散らしていると思うと気が重い。ならばと、休んでいた間の勉強をと、教師に補講を頼む。不真面目だった生徒が真剣に鉛筆を走らせる姿に目頭が熱くなった教師の熱烈指導の下、裕二の成績はタケノコのように伸びていった。
「お前、学校に残ってまで熱心だなぁ」
教師の何気ない一言に裕二はポロリと本音を漏らす。
「いえ、全然……その……早く、家に帰っても……居場所がない……って、いうか……」
「そうか。なら、全寮制の高校なんかどうだ? 頑張れば学費免除の特待生も……」
昨今話題の、日本にいながらにして海外留学と同じような環境で勉強ができる高校だった。入学にも学力が必要だが、パンフレットを見ているだけでも眩暈がしそうな勉強漬けなスクールライフに、入学後の自分の姿が全く想像できないが、裕二には魅力的に思えた。
「こ、ここへ行けば、小麦粉はない……⁉」
「こむぎこ……?」
「い、いえ、何でもありません!」
小麦粉で窒息死するか。不味いうどんで食中毒死するか。大家に撲殺されるか。それとも全寮制の高校へ
家にいても、自室に籠もって勉強に勤しんでいるため、ミコと顔を合わすことすら珍しくなった。相変わらず小麦粉をばら撒き、うどんを作って騒いで、大家が怒鳴りに来ているようだが、そこは耳栓をして無視することを決め込んた。
「ユウジサン、サイキン、イソガシイ、デス?」
度々、ミコが夜食にと、うどんを運んできて、そう問いかけてくる。気のない返事を返していたが、その時は余りに勉強がはかどらなくてイライラしていたのだろうか。語気を荒くしてしまった。
「そう! 忙しい! お前のおかげで忙しい!」
「ワタシノ……?」
「あっ……」
すすったうどんのマズさに引きずられ、本音まで顔を出してしまった。空気が凍り付くが、裕二は溶かす言葉は思い浮かばない。せめてもの罪滅ぼしにか、弾力がありすぎて噛み切れないうどんを一ミリも残さず平らげた。
入試当日――
受験会場へと向かおうと靴を履いた祐二に、パラパラと小麦粉が降りかかる。
「ガンバレ♥ ガンバレ♥」
ペラペラのチアガールのコスプレ衣装と――よく見るとうどんの麺でできている――白いポンポンを振り回しながら、謎のダンスをするミコが、祐二を見送りに来たのだ。
「……何やってんの?」
「キョウ、ダイジナヒダカラ、オウエンデス」
「普通さ、こういう時はさ、静かに送り出すものなんだが?」
「オオ! デハ、『イッテラッサイッマセ、トノ。ゴブウンヲ』デスネ」
どこから仕入れた知識かはわからないが、火打ち石代わりにポンポンをすりあわせる。麺に付着した小麦粉がパラパラと落ちる。
裕二は震えた。これから入試に出陣するという武者震いではないことだけは確かだった。
(ああ~! このクソアマから逃げてやる! 俺の戦いはこれからだ!)
そう駆け出した裕二は、長い戦いを終えて、家に帰ってきた。
同じ家なのに居心地が悪い。その違和感の正体を、受験勉強のために封印していたゲーム機に降り積もっていたホコリと小麦粉を払うまで、裕二は気がつかなかった。
(今日は小麦粉が落ちていない……? こんな日もあるのか……)
さして気に留めることなく、ゲームに夢中になっていると、のそのそと母親が目をこすりながら部屋から出てきた。
「ふぁあぁぁ、よく寝たよく寝た……あ、おかえり、裕二」
「ただいまー……って、あれ? オカン、今日は仕事じゃないの?」
「ミコちゃんがクニに帰る日だったから、休んで見送りに行ったの」
「ふーん……って。帰っ……た……?」
コントローラーを持つ裕二の手が止まった。
「? アンタ、聞いてないの?」
今日も今日とて、ミコがうどんを作ってドンチャン騒ぎをしていると思っていただけに、肩すかしの回答で、どう答えればいいか分からない。帰るのならひと言ぐらい……と、異義を唱えようにも、言葉が出てこなかった。
「試験を頑張ったご褒美に、今日の晩ご飯はミコちゃんの作ったうどんを……」
「いや、ハンバーグがいい。そうだ、ハンバーグにしよう」
何とも言えないモヤモヤが祐二の胸を支配しそうになったが、『うどん』の一言が侵食を食い止めた。
当然のことながら、寝て起きてもミコの姿は見当たらなかった。家の中も小麦粉まみれにならない。ドタドタと足踏みをして大家が怒鳴り込んでくることもない。うどんを食わされて悶絶することのない、取り戻した平和は、何か物足りなかった。マズいラーメン屋でも三回ほど通えばクセになってしまうように、家の中に小麦粉が落ちていないことに寂しく……なることだけはなかった。やはり、綺麗なのが一番だ。
荷物を寮へ送った後のガランとした部屋には、もう夢見ることを諦めたテニスラケットが置き去りにされていた。
(ま、こいつは持って行かなくていいだろ……)
入試には合格したものの、特待生は逃した。わざわざ遠くの山奥の厳しい学校に行く理由も、ミコが帰ってしまえば無い。しかしながら、仕事で世界を飛び回っている父親から、「手続きは済ませた」と連絡があり、有無も言う暇も無く、入学する羽目になってしまったのだ。
(ミコ《アイツ》がいなくなるなら、あんな学校、行こうなんて思わなかったのに……ああぁ……)
後悔は先に立てられない。だが、考え方を変えると、何故、こうなったのか。思い当たる節は一つしかない。もう小麦粉まみれではないゲーム機を片手に裕二は思った。
(でも、ミコ《アイツ》がいたから、外に出られたのか……)
どん底に沈んでいく自分を救い上げたのは、救助隊でも何でも無く、さらに底へ引きずり込もうとする小麦粉(脅威)だったことに皮肉を感じてしまう。負の力で切り開いた道は、もう必要ではないが、今から別の道を作るのも面倒だ。進むしかない。
(まあ、感謝だけはしといてやるか……)
どこにあるのかわからない『うどん谷』に向かって心の中で敬礼をしつつ、裕二はゲーム機の電源を切った。
「オカン、そろそろ出ないと間に合わないぞ」
「乙女は時間がかかるのよ。先に靴履いといて」
「そんなに塗ったって、誰も見てねーよ」
顔に小麦粉ではない白い粉を塗りたくる母親を置いて、裕二は靴を履き、先に玄関のドアを開けた。朝日が白くキラキラと輝いており、あまりのまぶしさにすぐさまドアを閉めてしまった。
(……勉強のしすぎで目が悪くなったのかな)
眉間のしわに手を置いた裕二に、母親が先を促す。
「ん? どうしたの? 早く行くわよ」
「い、いや、お、俺、ハラが痛くて出発できな……」
「なーに寝ぼけたこと言ってんの。エビフライぶつけるわよ」
裕二を押しのけ、母親がドアノブに手を掛けた。
「ちょっとまっ……」
勢いよく開け放たれた扉の向こうにいたものは――
「『タイ王国のウドンタニー県から来ました、ラッパサラン・チラウェートスントンクンです! ワタシのことは『ミコ』って呼んでください!』」
白い魔女だった。
「あら~、ミコちゃん、駅で待ち合わせなのに、わざわざ来てくれたの?」
「はい! 待ちきれなくて! どうでス? ワタシ、日本語、上手になりましタ?!」
「上出来上出来! じゃあ、出発しましょうか!」
目を丸くしたまま固まってしまった裕二を、母親はトンカチで叩く。
「ほら、アンタも行くよ!」
「ど、どこに?」
「入学式に決まってんじゃない!」
ミコの羽織っている白ローブの隙間からチラりと見える服は、裕二が今日、初めて袖を通した制服に限りなく似ていた。目を丸くした裕二の視線に、顔を赤らめたミコは人差し指をクルクルとさせながら、今更、衝撃でもない告白をする。
「ユウジサン、ワタシのタメに忙しいっテ……つまり、ワタシのタメは、うどんのタメ……。だからワタシも、ガンバリましタ!」
「うんうん。オバチャンもねえ~、裕二が寮生活なんて、心配だったんだよぉ。ありがとね、ミコちゃん。裕二のこと、頼んだわよ!」
「サー、イェッサー!」
二人は前世から意気投合しているかのように、鼻歌をフンフン鳴らしながら歩いて行く。
「……うそだ……うそだ……これは悪夢だ……夢だ……そう、夢なんだよ……本当の俺はまだ病院のベッドの上で寝ていて……ブツブツブツ」
頭をかきむしっても髪の毛がパサパサと抜けるだけで、夢から覚める気配はない。
「モ~! ユウジサン! 遅れますヨ!」
その日、裕二はこの世の真実に気がついてしまった。
運命は糸ではなく、うどんにより操られていることを――。
(了)
白い魔女と運命の糸 西 悠貴 @nishi_yuki
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