第19話 父親
国王交代日となるジェラルト=ヘリヴラムの二十歳を迎える日は、あと二日へと迫っていた。
つい先日、癇癪を引き起こし、手が付けられない状態となったと王宮内での噂は広まっていた。
それをジェラルトの付き人となったルチアーノ=ガーネットの下っ端が止めるために、ジェラルトを気絶させるという横暴な手段に出たことも、瞬く間に大きな出来事となっていた。
「どういうことだ! ガーネット! 下民を王宮内に引き入れるなんて! しかもその一人がジェラルトに手をあげたそうじゃないか!」
交代日を前に、その話はヴァルゼル=ヘリヴラムの耳にも届いた。しかも気絶させられたジェラルトの後頭部の下から首にかけて痛々しい痣も残っているとの話であった。
「国王交代は民衆の前で行われるんだぞ! ジェラルト本人の不在なんて有り得ないだろう! 民に知られれば、何を言われるか……」
国の大きな式典を執り行う場は決まって、王宮内にある広々とした敷地である。しかし国王交代の儀は、通例として一般国民も目にすることが出来る。
銀色の煌々たる柵を構え、その外に民衆は群がる。
四十、五十年に一度しかない見世物だ。集まる数は相当なものである。ヴァルゼルも自身がそれを経験しているので、広がる光景はすぐに想像が出来た。
「お、王っ、しかし、今回はジェラルト様の症状がかなり酷く、死人が出てもおかしくなかったとの報告を受けております……。それにその場には、私の娘もおりまして……」
「だから何だ! 国の宝とも言える次期王の座に座る男がそんな下民相手に……! ヘリヴラムの名が汚れるじゃないか!」
「ですがっ」
「お前の娘のことなど、どうでもよい いいか? 異国に虐げられる前に自国に馬鹿にされたらどうしてくれる!」
ヴァルゼルの言葉に、セルラルドは喉を詰まらせたように「ぅぐ」と呻きらしい声を出した。
自分の娘を気遣われないことに言い返したいが、国の王にそんな対抗することを出来る心は彼にはなかった。彼だけではない。他の国上層部の連中も、ヘリヴラム家に仕える者も、全員がそれの対象であった。
「民に知られる前に、その下民の口を塞ぐ。明後日、処分を言い渡す。私のもとにそれを連れてこい」
「……はい、承知いたしました」
ヴァルゼルは腕を組んで、鼻を鳴らしながら腰を低くするセルラルドに命じれば、自身の柔らかい椅子に腰を深くかける。
「ヘリヴラムの血を持ちながら……しかも、下民だと? 話にならん。……やはり、血が分かれていたせいか。……あの女のせいだ」
両肘を机につけ、両手を組む。そこに額をつけてブツブツと唱えるように小言を呟く。セルラルドはそんなヴァルゼルを気付かれない程度に睨んでいた。
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