忘却の海

「そうしてどこかへ流れ去ってしまって」

 君の声は滔々としていて、安らかだった。

「二度と出会わないことが幸せなんじゃないかな」

 お互いの為に。君はそう結んだ。

 僕はただ困惑している。だって僕はまだ子供で、君だってほんの少しお兄さんなだけで。こうして楽しい、戯れるような日々を過ごしているのに、どうして、さよならの話をするの?

「さあ。でもきっと、いつかはそうなるだろうから」

 いつかの話は今じゃない。僕がそう怒ると、君は笑った。

「その通りだ。ごめんね」


 そのいつかは、今なのか。

 そう、君を思い出しながら、考える。とっくに過去の人になった君を。

 ……忘却の海に流れ着く前に、伝えたかった、さよならだったの?


 終【お題:流れる(2022/09/04)】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る