「おいしいね」
「おいしいね」
と、彼女が咀嚼の後、小さな匙を指先で弄びながら頷く様を見ていた。
「左様ですか」
私は頷き、しかし眉間に皺を寄せる。これは、単に安易な感情の表現として。私自身には何の感情もないけれど。
「お嬢様。食べながら喋ることは推奨されません」
「そう?」
気にしない態度で、彼女は再び菓子に匙を突き刺す。艶やかに整えられた指先と、銀色に翻る匙。
「歓談も食事の楽しみでしょう」
「……私はただのメイドですので」
対等に言葉を交わすなんて、と胸の内で思ったのに。目の前に差し出された匙に、息が止まる。
彼女の笑顔。それは無垢なのか、悪意なのか。
口を開くべきではないのに。彼女の指先は、私の唇を誘っている。
終【お題:手(2022/6/4)】
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