尽きるまで

 買って、買って、買い尽くした。先祖代々、一族が懸命に貯えた遺産を食い潰し、ひたすらに買い漁った。

 色鮮やかな油絵。繊細な硝子美術。今にも動き出しそうな彫刻。技術の粋を集めた時計。希少な宝石。煌びやかな貴金属。美しいものなら何もかも……。

 「狂人めが」と臆面もなく私を貶す連中。むしろそんな奴らにこそ見せつけている。

 一族の歴史ごと終わらせなければならない。悪魔に魂を売るような所業で集めて貯えた金を、せめて美の為に解き放つ。

 私の老いと共に朽ち行く屋敷。去りゆく使用人。

「お前も行っていいんだよ」

 そう老執事に告げたが、彼だけは黙って首を振った。

 この美しい棺桶を、見送る者がいることだけは、身に余る幸福だ。


 終【お題:買う(2022/05/07)】

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