捨てられた子犬のような

「君はいつも、捨てられた子犬のような目をしているね」

 そう言って先輩は私に笑いかけた。そんなに見すぼらしく見えますか、と問うと、彼は不思議そうに首を傾げながら、「そこがかわいいと思ったんだけどな」とまた笑った。よく笑う人だった。

 ほんの少しだけ、変わろうと思った。髪型を変えてみたり、服を新調したり。それだけで気分が浮ついて、なんて単純な私、と苦笑してみたり。

 だから、捨てられた子犬のよう、と喩えるならば、ちゃんと拾い上げてから言って。

 そんな目をしていた日々を、昔話にしてから言って。

 先輩の隣には、とっくにお似合いの人がいた。よく笑う二人だった。

 私は今でも、捨てられた子犬のような目をしていますか?


 終【お題:捨てる/棄てる(2022/3/5)】

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