　女は最後に箱を置いていった。僕はそれをじっと眺める。用心深く、注意深く。

　パンドラの箱だとか玉手箱だとか。戒めの為の箱の話は枚挙に遑がない。僕の手の中にコレも見た目は小さなアクセサリー・ケースだが、実際は鬼や蛇が飛び出してくるのかも。

（どうせ僕を憎んでいるんだろう）

　振ってみるが音はしない。何も入っていないのか、それとも何かが詰まっているのか。

（きっと、罠に決まってる）

　笑いが込み上げるが、少しも楽しくない。むしろどうしてこんなに心が急くのだろう？　ただ不気味なだけなのに。

　……ああ、そうか。

　中身なんて、どうでもいいんだ。

　あいつ僕がコレを開けられないことを、知っていたんだ。

　終【お題：箱（2021/12/04）】

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