まるで夢のような

「この時をずっと待っていました」

 悪しき龍を倒した。その龍は私の村を襲った仇敵だった。奴を探して五十年走り続けた。老体が繰り出せる最後の一撃によって倒れ臥した龍の腹から、声が聞こえた。

「龍は己の過剰な生命力を補完する為に、人の心臓を呑んで生かすのです。もう何十年ぶりでしょう、貴方のお声を聞いたのは」

 腹の中から現れたのは妻の顔だった。若き日に龍に喰われ、死んだものと思っていた。そこにあるのは、あの日のままの美貌の微笑み。まるで夢のような。

「長い捕囚の年月が、やっと終わる――私を救って下さったのが、貴方でよかった」

 そして彼女は龍の骸と共に、灰になって消えた。

 私の両掌から、再び消え去った。


 終【お題:救う(2021/11/06)】

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