竜は砦に舞い戻る。そこには彼の宝物がひしめいている。人間であれば誰もが夢見る金銀財宝、そのメルヘンなイメージそのままの宝の山が、月明かりの下で艶々とした輝きを放つ。古めかしい意匠の金貨、聖堂から奪った宝剣、一粒一粒が虹のカケラのように冷たく光る、数多の宝石……。

 竜はその輝きを、大事そうに抱え込む。まるで親鳥が卵を温めるかのような懸命さと、愛おしさを込めて。

 彼には分かっていたのだ。これらの宝は、いずれ奪われる為にあることを。己は、その上に血を注ぐ為に存在していることを。

 長い首をもたげて月を見る。ここは物語の一頁。


 終【お題:宝(2021/10/02)】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る