問い掛け

「答えは出た?」

 僕には小さい頃から、他人には見えない、奇妙な女が見えていた。

「答えは出た?」

 彼女は繰り返し問い掛けた。電柱の影から、窓の外から、木の上から。そして今も。

 だけど、僕は何も答えられない。転がった体は逆さになったタイヤを見ている。肺は潰れ、喉に血が詰まっている。辛うじて泡混じりの咳をすると、彼女は僕の傍らに静かに跪き、僕の顔を覗き込んだ。

 その瞬間思い出した。僕は今まで何度となく、この質問をされてきた。剣を持って地に倒れながら、崖から落ちながら、病室で泣きながら。だけど、一度だって答えられた事はなかった。そして今も。

 次の僕なら、彼女に望む答えを与えられるだろうか。


 終【お題:答える(2021/07/03)】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る