暗く霞む

「先輩、あなたつかれているのよ」

「……それ、ドラマか何かのセリフ?」

 雨が窓を叩いている。人気のない喫茶店の中は、ひどく薄暗い。やる気のない店員、奥に引っ込んだ店長、ザァザァと降り注ぐ雨の音――膨れ上がる、不安。

「何か、大事な話があるんじゃなかったのか?」

 そう尋ねても、彼女はただ薄ら笑いを浮かべるだけで……やがて静かに、窓を指差した。

 つられて窓を見る。疲れ切った僕の顔が映っている。

「……?」

 からかわないでくれよ、と笑い返そうとした。その視界に、何かがよぎった。

 影のようなものが。

「先輩、あなた憑かれているのよ」

「え?」

 ザァザァ。雨の音が僕の背中を冷やしていく。


 終【お題:影(2021/06/05) 】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る