夕暮れに燃える

「もう、日が暮れちゃうね」

 そうして彼女はスカートの埃を払いながら、立ち上がった。

「さようなら」

 見上げた彼女の表情は、陰っていてよく見えない。けれどその唇は、笑っていたような気がする。

 最後の逢瀬は、そのようにして幕を下ろした。

 とうに終わっていた関係の、最後に許された猶予、スタッフロールのような時間。それまでの諍いも衝突も不安も、まるで無かったかのように楽しく過ごした今日という日が、夕暮れに燃えて、燃え尽きて。

 僕はベンチの上で、ただ呆然とするばかりだ。

 だけど、どこか安心していた。颯爽と、ただ背を向けて歩き去って行く彼女の姿。

 それが最も美しい姿だと、僕には分かっていたから。


 終【お題:夕(2020/09/05)】

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