選び取る

 選ぶ、ということが、私にとっては難しかった。

 三つあるものの内、どれか一つしか選べない時。それが物であったなら、誰かに既に取られた後の、残り物で十分だった。

 私の中には喜びも期待も無く、だから何かを選んだ後、その結果に後悔することすら無かった。だからきっと私は、本当の意味での選択を、したことすら無かったのだろう。

「君を選んで良かった」

 それなのに、貴方はそう言った。私の手を握りながら、何度も、何度も。優しい眼差しで、私を真っ直ぐに射貫きながら。

 私には分からない。それが本当に、彼にとっての最善だったのか。ただ、私の胸は温かい。涙が出るほどに……。


 貴方に選ばれて、良かった。


 終【お題:選(2020/10/03) 】

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