絶句

アマノヤワラ

絶句

 



 祖母から“戦争”の話を聞いたのは、令和5年の夏のことである。


 それまでの人生で祖母は“戦争”について、孫の私に語ったことは一度もなかった。

 思い出したくもなさそうだった。

 テレビでウクライナのニュースを見ていた時、祖母は突然『自分の原爆体験』について訥々と語り始めた。



 祖母が居た場所は、爆心地から山々と海とを隔てて百キロ近く離れたところ。

 祖母は建物の中にいた。


 まず、“ピカッ”と一瞬のひかり

──そして、もの凄く大きな“ドーーーンッ!”という雷のような大きな音が一つの方向から響いてきて、直後に建物の窓ガラスや屋根のトタンが“ビリビリビリッ……”っと音の方角から順に小さく震えていったそうだ。

 初めて経験する“音の伝わり方”だったらしい。


 祖母は最初は地震か何かだと思った。

 でも、明らかに地震ではない。


(なに!? 爆弾!?)


 戦時下なので祖母はとっさにそう連想した。

 最初の衝撃が収まり、その後の衝撃は来なかった。祖母は思わず窓際に駆け寄り、その音の聞こえた方角を見た。

 遠くの山の向こうに『原爆の火』が見えた。



「……どんなやったと?」


「どんなやったって。あれたい教科書に載っとる。『原子雲げんしぐも』。それに真っ赤な……」


「“”?」


「最初は山火事かなって思ったとけど、違うとよ。原子雲がほんなこつ真っ白かキノコんごとモクモクして。その根本の山が真っやった」


「なんで離れたとこの山が真っ赤やったとやろ? 爆心地は街中まちなかとに?」


おっきか雲の柱の真ん中にあっか火があってさ。その火が焼き付いて他のもんも真っ赤に見えたとかもしれん。山も雲も空も真っ赤っ赤……」


「雲も空も、って……。範囲どれくらい?」


「そがんたわかるもんね。今までに見たことも聞いたこともないような…… そうね…… あれは…… なんていうか…… おそろしい………」





 祖母は絶句した。











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絶句 アマノヤワラ @sisaku-0gou

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