東京金魚鉢

佐藤凛

東京金魚鉢

息の詰まる酸素濃度が薄い東京の喧騒の中で、誰にも気づかれずに僕は生きる。


東京の朝は早すぎて太陽の神様も追いついていない。


人込みは賃金という餌を求めて一斉に動き始める。


それに合わせて、電灯は眠り、静かに夜を待つ。


自動車はどんどんと増えていって、やがて列になり、糸になり、地面を這う。


電車の発車ベルと共に改札は目覚めだす。


キャッチーな踊りたくなるメロディーと、何も聞いていない乗客。


信号機は三色しか表現できなくて、その下で多様性のデモが行われている。


道端の花は人の影を縫いながら咲くものだから歪な形をしている。


いつの間にか雲の速さも分からなくなって、空を見なくなって、


目の前の寂しさと焦りを喉元に


押し付けてよろよろと生きる僕たちは、まるで飼われている金魚のようだ。


東京という狭い金魚鉢に押し込まれて命を削るのだね。

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東京金魚鉢 佐藤凛 @satou_rin

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