本編予告・その2 マネージャーになってみない?

<はじめに>

 この話は、お試し版第8話(連載版では第9話予定)の後の話を書いています。本編収録時には若干修正して掲載する予定です。予めご了承ください。

 この話とお試し版のリライトをするにあたって助言をくださったノベルスキーの創作全般雑談チャンネルの方々、相談に乗って追加設定を幾つか思いついてリライト版を送って下さった九戸政景さんに多大なる感謝を捧げます。


 ◇◇◇


 小泉さんが悪戯心でキスした模様を知り合い限定で拡散し、逃げる場所を小泉さんの手によって完全に絶たれた後のことだった。

 小泉さんは僕の右隣りに座り、スマホを自分の傍に置くと僕の顔を眺めて口を開いた。

 小泉さんの体からはフルーティーなデオドラントの香りと汗の臭いが、そして口元からは甘いスポドリの香りが放たれ、僕の鼻腔をくすぐった。


「さて、ユータ。アンタは正直吹奏楽部には行きづらいわよね?」

「それは、まぁ……」

「カノンから少し事情は聞いたけど、そんな事情があるなら行きづらいと感じちゃうのは仕方ないかな」


 熱いキスを交わしたばかりの高橋さんが僕のすぐ左隣で軽く頷いた。


「それに、ナツは男子からの人気は高いし、そんなナツと普通に居たらアンタは嫉妬の視線とか色々なものに晒されて、妬んだ男子から何か危害を加えられるかもしれない。だから、アタシから提案があるの。乗る気、ある?」


 小泉さんは真剣な表情で話した。そこにはいつものような悪戯心みたいなのは一切感じられず、真剣そのものだった。これは僕のことをしっかりと考えているのだろう。


「うん、乗るよ」


 僕が頷きながらそう答えると、小泉さんはさらに僕に近寄って驚きの提案を持ち掛けた。


「オッケー。それじゃあ話すけど……。ユータ、チア部のマネージャーになってみない?」

「えっ!?」


 小泉さんの提案を聞いた瞬間、僕は驚きが隠せなかった。

 チア部といえば女子生徒ばかりで、男子である僕に入る余地などない。それなのにマネージャーで入れというのは、一体どういうことなのだろうか。


「どうしてチア部のマネージャーになれと?」

「クラスメイトのよしみだからよ。表向きはアタシたちチア部の部員全員のボディガードとしてだけど、本当の理由は別にあるの。チア部のみんなはユータのことに興味津々よ」

「ホント?」

「そうよ。アタシはユータの実績を買ってナツを紹介した。そしてユータはアタシの期待通り、いや、それ以上の働きを見せた。男の子に興味がなかったナツを振り向かせたのはユータ自身の力よ」

「僕自身の力?」

「そう。あの時、ナツは凄く緊張していたのよ。見ていたアタシたちまでも緊張するくらいにね」


 確かに、あの時の高橋さんの表情は硬かった。見ている僕でさえも緊張して、何度も敬語で話したことか。

 あのセリフを口にしたおかげで、危なっかしい場面がありつつも高橋さんは自らを奮い立たせてセンターの大役を成し遂げることが出来た。あの時の熱い拍手は、僕の心に残り続けるだろう。

 さらに小泉さんは話す。


「演技の後で、引退した三年生をはじめチア部の部員全員がアタシに訊ねてきたのよ。極度の緊張状態だったナツにあそこまで素晴らしい演技をさせたのは誰だって、ね。それでアンタのことを話したら、皆ユータのことが気になったの。だから、ユータをマネージャーとして招き入れたいってわけ。悪い話じゃないでしょ?」

「……」

「チア部にはアタシとナツ以外にも可愛い子がいるし、アタシたちどころじゃなくなっちゃうかもしれないけど、男たちからの目を逃れるための魅力的な選択肢だと思うわ。日野先生だってアンタのことを高く評価しているから、問題はないわ。後はアンタの考え次第よ」


 小泉さんの話を聞いて、僕は腕を組みながら少しだけ考えた。

 本当のところ、僕は応援団に入りたかった。不良漫画の主人公に憧れていた僕にとって、応援団はその理想にかなっていた。しかし、高橋さんとキスした以上、応援団に入ったとしてもそこが安寧の場所になるとは限らない。

 ならば、小泉さんの厚意に甘えよう。


「小泉さんの言っていたことは正しいし、高橋さんのことをもっと近くで応援できるのは嬉しい。だから……」

「だから?」

「やるよ」


 僕がそう答えると、二人の顔がパッと明るくなるのを感じた。二人とも一段と高い声を出して、僕に感謝の言葉を述べた。


「ありがとう、優汰君」

「ありがと、ユータ」


 それから二人は大胆にも互いに僕の腕を絡めてきた。左の腕には高橋さんのたわわに実った胸の感触と体温が、右の腕には小泉さんの柔らかい胸の感触と体温を感じている。

 他の人が見たら恥ずかしいとは思うけど、僕たち以外誰も居ない部室でこのような大胆な行動をとるとは思わなかった。誰にも見られていないから良かったけど、もし練習が終わった後の部員たちが見ていたらと思うと顔が真っ赤になる。


「ちょ、何しているんだ、二人とも!」

「だって嬉しいんだもん。これから優汰君と一緒に居られるんだから。ね、カノン」

「そうね。これからはアタシたちと一緒よ、ユータ」

「そ、そりゃ嬉しいけどさ。今日の練習はどうするんだよ?」

「アタシだったら先生にちゃんと伝えてきたわ。二人きりで何するかわからないから、様子を見に行ってもいいですかってね。ホント、まさかあれほどまで情熱的なキスまでするとはね~」

「ちょっと! 恥ずかしいから、そのことは言わないでくれる?」

「もうキッズチアの皆にはバラしたからね。次は誰にバラそうかしら?」

「これ以上はよしてよ! それこそ洒落にならなくなるよ?」

「クスッ、それもそうね」


 小泉さんと高橋さんは僕の腕にしがみつきながら、笑顔を浮かべていた。

 性悪な幼なじみだった柚希からサヨナラされたばかりの僕だったけど、悲観することはないだろう。

 これから僕の日常はラブコメじみたものになっていく。しかも、よくありがちなハーレムラブコメになりそうだ。でも、悪くはない。

 他人は他人、自分は自分。人生すべての答えは己の中にあるんだ。


 ◇◇◇


<あとがき>


 拙いながらもショートストーリーを読んでいただき、ありがとうございました!

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 お試し版トップページ:https://kakuyomu.jp/works/16818093072983555137

 本編トップページ:(準備中)

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