第6話初めてのクエスト達成
全ての目的を達成してダンジョンを出た時に、ヴァレリアから声をかけられた。
「エミリオ、あたいらと一緒に来ないか? あたいらは優秀なシーフを探しているんだ。今回で大量のお宝を手に入れたけど、まだまだ辞める気はないよ。弟の薬代は余裕で賄えるが、知ってしまったんだよ、お宝を見つける楽しみを。あんたほどの実力なら文句なしだよ。もちろん、あんたの目的は知ってるけど、宝探しも楽しいもんだよ」
「俺も歓迎するぜ」
「……エミリオさん、一緒にいたいです。エミリオさんがシーフだからとか、そうじゃないとか関係なく」
ヴァレリアだけでなく、ゴリアスとマリエルも俺を認めてくれているようだ。
でも……。
「俺の実力を認めてくれるのは嬉しい。でも、俺には目的がある。すまない。短い間だったけど、楽しかったよ。俺がシーフだって実感した。血が騒いだ」
「ちっ……ダメもとで誘ったけど、やっぱりダメだったか。あんたとだったら楽しい旅ができそうだったんだけどな」
「魔王を倒したら、土産話を聞かせてやるよ」
「どうやら本気みたいだね、その顔は」
名残惜しいがしょうがない。
楽しかったが、三人と俺の目的は違う。
ダンジョンに向かう時とは違い、帰り道はまるで長年一緒に冒険したかのように盛り上がった。
グランデシティアの冒険者ギルドに戻り、レナーシャさんにダンジョンであったことを話した。
虚偽の報告をすることは重罪だから、実際会ったことを包み隠さず話している。
手数料で冒険者ギルドにいくらかは持っていかれるが、隠し部屋の財宝の所有権は黄金の掌握のものとなり、俺としては安堵した。
俺には報酬として金貨100枚が支払われる。
実績も積み上がり、パーティーランクがEになった。
隠し部屋にあった財宝全てからすると、微々たるものだが、暫くの宿代と食事代に困ることはない。
ダンジョンから財宝全てを運び出せてはいないので、ギルドの職員に手伝ってもらい、全てを運び出している。
もちろん、俺も手伝った。
財宝を運び終わったところで今回のクエストは終了となる。
黄金の掌握ともここでお別れだ。
「本当に行ってしまうのかい? あんたのことは認めてたんだがね。残念だよ」
「ああ、ヴァレリア、弟さん良くなるといいな」
ヴァレリアとは緊張感が漂う場面もあったが、本当はいいやつだと思う。
弟のために頑張っているしな。
「エミリオ、俺はいつでも歓迎だぜ。今のパーティーに飽きたら来いよ」
ゴリアスは別れのハグをしてきた。
「ゴリアス、そうならないように頑張るよ。弟さん、解放できるといいな」
ゴリアスも豪快でいい奴だった。
短い期間でそこまで話せなかったが、仲間や家族思いだと伝わってくる。
奴隷になった弟が解放されてくれれば俺も嬉しい。
「……エミリオさん、本当に行ってしまいますか?」
「マリエル、ありがとう、楽しかったよ」
俺が踵を返すと、マリエルは俺の服の裾を掴んだ。
「エミリオさん。エミリオさんなら魔王討伐も成し遂げられると信じています。頑張ってください」
マリエルの瞳は潤んでいる。
「ああ、ありがとう、マリエル」
今度こそ本当にお別れだ。
お互い冒険者をやっていれば、また会えるだろう。
宿に帰るころには完全に日が暮れていた。
そこでは女将が困惑していた。
「まったく、なんだい。この人は」
そこでは困った事態というか、相変わらずの光景だった。
「バニラちゃ~ん、もう、飲めまへ~ん」
モーガンが酔いつぶれていた。
もう慣れっこだけど、困ったことには変わりない。
「ったく、モーガンまた飲みに行ってたのかよ……」
「何とかしとくれよ……」
女将は呆れ返っている。
「すみません、すぐ連れていきます」
俺はモーガンを背負って2階の部屋に向かうことにした。
「ったく、何が悲しくてこんな太ったおっさんおんぶしないといけないんだよ。少しは瘦せろよな」
「バニラちゃ~ん、もう食べれまへ~ん」
「だから食うなって言ってるだろ……」
こんな奴でも見捨てられない。
いつか最強パーティーになることを信じて。
部屋についたら、モーガンをどさっと乱暴にベッドに投げた。
迷惑かけられたんだ、このくらいいいだろう。
「う~ん。バニラちゃ~ん」
「これでも起きないのかよ……」
「ただいま」
1階に戻るとラヴェラが帰ってきた。
踊り子の仕事は夜遅くまでだ。
ラヴェラの帰りはいつも遅い。
「お疲れ、ラヴェラ」
「ああ、エミリオ。あんたもクエスト受けてきたんでしょ?」
「ああ」
俺は今日起こったことをラヴェラに話した。
「な! 金銀宝石ですって! あたしも行けばよかった。そんだけあって金貨100枚ぽっちしかもらわなかったの? いや、金貨100枚って言ったら、普通に一生遊んで暮らせるレベルだけどさ……」
そうなのか。
こちらの貨幣価値にあまり興味がなかったもんだから、それほどだったとは。
それだったら、あの隠し部屋の財宝の価値は途轍もないことになるのか。
だが、俺にはそれよりも、ラヴェラと話したいことがあった。
ゴブリンのことだ。
「そう。そんなこと。まあ、でかいとは思ってたけど、上位種だったのね。でも、あたしはそんなことどうでもいいのよ! お宝よ、お宝!」
ラヴェラにはゴブリンのことなどどうでもいいようだ。
俺にとってはどうでもいいことではないのだが。
「そんなに宝が欲しいのか。ほら」
ラヴェラに指輪を手渡した。
ゴリアスから貰ったものだ。
『女に指輪を渡すと喜ばれるぞ』なんて言われた。
そういうものなのか……?
「な……どういうつもりよ、これ!」
「どういうつもりも、お前が宝が欲しいって言ったんだろ?」
「言ったけど、特別な意味があるって考えちゃうじゃない。ぶつぶつ」
ラヴェラは指輪を見つめてぶつぶつ言っている。
「話は変わるけど、さっきモーガンが酔いつぶれてさ、部屋まで負ぶっていった」
「ぷっ……災難だったわね」
ラヴェラが笑顔を見せた。
そういやラヴェラの笑顔見たのいつ以来だろ。
本人に言うとキレそうだから言わないけど。
俺とラヴェラは女将に宿代を渡すとそのまま部屋に戻った。
そういやマルセリーヌはどうしてたのかな。
女将に聞いても部屋から出てこなかったっていうし。
一日中部屋に籠りっきりだったのかな。
部屋にこもりっきりは良くない。
今度あったらどこかに遊びに連れて行こうかな。
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