file10「ヒビ」
車内が重い空気に包まれていると、部長が口を開いた。
結城「なあ、佐伯。」
佐伯「はい?」
結城「この爆破事件が起きてしまった事によって何が警察にとって不都合だと思う?」
佐伯「不都合?…分かりません。」
結城「じゃあ聞き方を変えよう。この後郡組の奴らは何をすると思う?」
私は少し考えた後、こう答えた。
佐伯「祝賀会でもするんじゃないですか?」
結城「まあするかもしれないが、少し違うな。」
佐伯「というと?」
結城「わざわざ別の場所の予告を出してきたってことは、奴らはこっちを弄んでるつもりだ。」
佐伯「なんでですか?」
結城「もし事件を安全に起こしたい場合、佐伯ならどうする?」
佐伯「どうするって…まあバレないようにこっそりやりますね。……あっ。」
結城「気付いたみたいだな。そう、予告なんて出さないんだよ。予告をしてしまうと、警察が動く。それがたとえ違う場所で事件を起こすときでも、警察が動いていると、こっそりやるときより、犯人は動き辛くなる。」
佐伯「確かに…」
結城「では何故予告を出したのか、俺はまだこの事件は終わっていないと思っている。」
佐伯「続きがあるってことですか?」
結城「そうだ。ここからは俺の考察なんだが、反社の敵は大体、別の反社か警察なんだ。警察を倒すと、その別の反社はどうなると思う?」
佐伯「手を出しづらくなりますね。」
結城「そうだ。警察を倒してしまうと、厄介な敵が両方いなくなるって訳だ。俺は、郡組の奴らはそれを狙っていると思う。今、郡組は井戸田町の飯田組とバチバチにやり合ってるからな。」
佐伯「確かに、説明がつきますね」
結城「あくまでも俺の妄想だから、本気にしないでくれ。……もうすぐ着くからな。覚悟できてるか?」
佐伯「はい、でも少し怖いです。」
結城「…俺もだ。」
水森駅に着くと、これまでに見てきた水森駅とはかけ離れた風貌だった。多くの人で賑わっていた駅が今は女性や子供の悲鳴があちこちで聴こえる。
結城「まだ事件が起きたばっかりだから、信じられない光景が広がっていると思う。弱気にはなるな。だが無理はするなよ。」
原田「早く被害者を助けましょう。1秒で、何かが変わってしまうかもしれない。」
結城「そうだな。みんな行け。」
この惨状に吐き気がする。瓦礫の下から出てくる赤い液体。手だけが瓦礫の山からはみ出て見える。重いコンクリートを退けると、何故か見覚えのある顔が見えた。
佐伯「え、海斗…?」
鑑識課であるはずの弟が埋もれていた。鑑識課は事件の後に到着したはずだ。頭が混乱している。これは夢なのだろうか。急いで瓦礫を退ける。が、海斗が着ている服は鑑識課のものではなかった。人違いか。少し安堵したが、そんな場合では無い。早く救急隊を呼ばなければ。幸い、まだ息はあるようだ。近くに手の空いている隊員がいた。その隊員に声をかけ、搬送してもらった。2時間くらいたっただろうか。一通り救出作業が終わり、解散となった。どうしても気になり、鑑識課の課長の桑田さんに声を掛けた。
佐伯「桑田さん、お久しぶりです。」
桑田「ん?あぁ、海斗の姉ちゃんか、どうした?」
佐伯「今日、海斗って出勤してますよね?」
桑田「いや、今日は有給の日だった気がする。ちょっと待ってね。」
桑田さんはスマホを手に取り、表を確認しているようだった。
桑田「ほら。有給取ってる。」
佐伯「!?ありがとうございました。」
それを聞いた途端、走り出した。あれは多分人違いではなかったのであろう。
桑田「どうしたんだろう?」
まだ撤収しきっていない救急隊員に声をかける。
佐伯「あの!今日の被害者の搬送先って分かりますか!?」
隊員「いや、身元わかんないとなんとも言えないですよ?」
佐伯「身元確認はいつですか!?」
隊員「今日の夜ですね。危篤状態だとこのあとすぐに電話かかってくる可能性はありますがね。」
佐伯「……」
急いで車に向かう。
隊員「あ!ちょっと… 名前だけでも聞いておこうと思ったのに…」
海斗に電話をかけるが、繋がらない。
私は絶望した。このままここにいてもどうしようもないので、家に戻った。
小一時間すると、知らない番号から電話がかかってきた。出てみると、病院だった。
病院「佐伯さんの携帯で間違いないでしょうか?」
佐伯「…はい。」
病院「弟さんのことで、明日、病院に来ることは可能でしょうか?」
佐伯「はい、何時ですか?」
病院「何時でも大丈夫です。幸運なことに、今意識は無いですが、命に別状はありません。」
佐伯「そうですか、ありがとうございました。」
電話が切れた。疲れ切っていたのか、そこから朝までの記憶は無い。
私はもうおかしくなってしまいそうだった。ここまでやられていてはたまらない。組に遊ばれているようだった。
「殺してやる」
そんな感情が考えてもいないのに湧き出てくる。体が勝手に動いた。
向かう場所は一択しかない。勿論、組の事務所だ。この前呼び出された時はもう行きたくないと思っていたが、今は行きたくて仕方がない。
1時間弱、車を走らせた。自分でも薄々勘づいてはいたが、そこはもう既にもぬけの殻だった。よく良く考えれば、郡は自分の目でやったことを見届けて楽しむタイプだ。色々なことを考えたら、自分がここに来たことは無駄足だと分かっていた。仕方ない、家に戻り、計画を立て直すとしよう。
家に戻ると、手紙が届いていた。郡からだった。正直見るのが怖かったが、本能には抗えなかった。
『やあ、小野くん。今俺らを必死で探していると思うんだ。そんな君に、いいニュースをあげよう。君の所属している捜査一課に内通者、つまり裏切り者がいるってことを教えてあげるよ。これは嘘じゃない、証拠もあるよ。同封してある写真が証拠だ。ちなみに、その内通者はこの手紙を知らない。この手紙のことをばらしたら、小野くんならどうなるか分かるよね。』
写真?封筒には手紙しかなかった気がしたが、よく探してみると、下の方に写真があった。仕事をしている時の自分の写真が5枚入っていた。どうやらこればかりはハッタリじゃなさそうだ。
次の日、内通者を見つけるために情報を集めることにした。まず結城部長だが、そんなことをするような人に見えない。後回しでいいだろう。佐伯さんも何故か落ち込んでいたから、違うでしょう。残りは、原田さん、加藤さん、藤川さん、河田さん。正直、誰も内通者に見えない。
いちばん怪しいと思っているのは、原田さんだ。昔から少し違和感を感じていた。どこか、他の人と違う感じがするのだ。かと言って、決めつける程では無い。悩んでいると、彼女から貰った資料が目に付いた。この裏の殴り書きはなんなのか全く分からない。届を出した人が書いたなら、わざわざ分かりやすくこんな大きく書かないはずだ。かと言って、原田さんがこう書く理由もない。完全に行き詰まっている。
森「大丈夫ですかー?」
小野「!?びっくりしましたよ。驚かすのはやめてください。」
森「あら。申し訳ないです。あまりにも顔が強ばっていたので心配になっちゃって。」
小野「お構いなく。」
森「そうですか。わかりました。」
ダメ元で誰かを付けるしかないか。何か得られる確率はほぼないと思うが、僅かな確率に賭けて原田さんを付けることにした。
仕事が終わった。彼女は今日は残業しないみたいだ。怪しまれないように駐車場に向かう。
…よし、見失ってない。彼女は車を発進させた。続いて私も発進させる。少し距離を起きながら気付かれないように後ろに着いていく。
気付かれていないと思っていたが、何かがおかしい。同じところをぐるぐる回っている。バレたか、今日はもう駄目だ。そう思い、帰宅した。
誰かにつけられていた。その辺をグルグルしてたら勝手に帰ってったけど、誰だったんだろう。暗くてナンバーは見えなかったが、仕方がない。恐らく明日もついてくるだろう。敢えて明日はあれをやろう。
倉庫のファイルからリストアップした7人。
どれにしようかな。
そうだ。ダーツで決めよう。
「てい。」
ええっと…大槻宗吉?誰だっけ…
ああ、そうだ、大学の教授で愛人を殺したけど不起訴になった人だ。これも前の日野と同じように金動いてんなー。
そうと決まれば、早速準備しよっと。
File10 終
JOKER 札幌5R @Sapporo_5R
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