file8 「前兆」

5月18日

少しの間、休暇をとっていた小野さんが今日から復帰するらしい。

小野「迷惑をかけて申し訳ありません。」

小野さんはそう言ったが、大して大きな事件があるわけでもなかったのでこれといった迷惑はかかっていない。

そう思った時だった。

無線「……捜査一課、応答せよ。」

佐伯「あ、私がでるわ。……はい、捜査一課、佐伯です。」

無線「警察署入口にて20代女性が捜査一課に用事がある、との事ですが。」

原田「私行ってきます」

佐伯「ありがと、莉々ちゃん。……はい。原田を向かわせます。少しお待ちください。」

無線「接待室に通しておきます。」

加藤「用事なんてあるんですね。この部署に。」

結城「ああ。俺もあんまり見たことないな。」

原田「なんなんでしょうね。早く行かなきゃ。」

私は警察署の接待室に向かった。接待室に着くと、大学生くらいの女の人が俯いて待っていた。

原田「捜査一課の原田といいます。本日はどんな用件で?」

明那「…こんにちは、原田さん。私の名前は日野明那といいます。今日は兄のことを捜査してもらいたく、伺いました。」

原田(日野、か。)

明那「5ヶ月くらい前から、連絡が取れなくなっていたんです。でも、そういうことはしょっちゅうあったので、あまり気にしていなかったんです。」

原田「はいはい。なるほど。行方不明者捜索願、出しますか?」

明那「そうやって手続きするんですね。でも、それだと捜査して貰えないんでは無いですか?」

原田「まあ。そうですね。」

明那「調べると、事件性があれば、取り扱ってもらえると書いていました。」

原田「そうなると、うちの管轄になりますね。」

明那「これを見てください。」

そう言って彼女は写真を差し出した。家の中の写真だった。私はその家に見覚えがあった。この人、日野明那さんはやはり予想していた通り、日野祐介の妹だった。彼女が差し出した写真は微かに血が着いたフローリングが写し出されていた。おかしいな。ちゃんと掃除したつもりだったのに。まあいいか。

明那「こんな写真があれば、捜査して貰えますよね!?」

原田「これだけでは、厳しいと…」

明那「そんな。祐介は。」

原田「できるだけ、取り扱ってもらうように言っておきますね。ただ、期待はしないでください。」

明那「わかりました…」

原田「一応、行方不明者捜索願は出しておいた方がいいかと。」

明那「じゃあ、書きます。」

行方不明者捜索願を書き終わると、彼女は去っていった。

部署に戻ると、捜査一課は忙しそうにしていた。

原田「何事ですか?」

河田「郡組が動き始めたんだとさ」

原田「?」

河田「ピンと来てなさそうだね。取り敢えず、郡組が事件を起こしたってこと。」

原田「なんで郡組って分かるんですか?」

河田「現場に残ってた紋章?みたいなやつを小野さんが郡組のマークだって言い始めたんだ。その直後に郡組から殺害予告や爆破予告が届いた。」

原田「ふぅん。なるほどね。」

河田「俺も仕事戻るよ。久々の大仕事だしね。」

原田「あー。はい。」

佐伯先輩の方に目をやるが、やはり忙しそうで、今はとても話せる状況では無さそうだ。それは結城部長も同じだった。

ふと後ろを見ると、小野さんがすごい汗で震えていた。

原田「え?大丈夫ですか?小野さん。」

小野「え、ええ。何か用ですか?」

原田「あ、そうだ。さっきの呼び出しでこんな女の人と話してきました。何でも、行方不明者を捜索して欲しいそうで。」

小野「今はそんなことしてる場合じゃない!」

原田「!」

珍しい小野さんの大声に驚いた。なんなら初めて聞いたかもしれない。

小野「と、取り乱しました。申し訳ありません。なんせ事件が忙しいもんですから。」

夏でもないのに、小野さんは汗でびっしょりだ。

原田「大丈夫ですか?やっぱりなんかおかしいですよ?」

小野「大丈夫ですから。そこに資料置いといてください。やっときます。」

原田「あ、ありがとうございます。」

小野「佐伯さんの所に行って手伝ってあげてください。彼女、少し不器用なので上手く作業が進んでいないみたいです。」

原田「…わかりました。」

小野さんの言う通りに、私は佐伯先輩の方へ向かった。

原田「なにかする事ありますか?」

佐伯「あーじゃあ司令部に掛け合って警備員派遣してもらうように言ってきて!」

原田「わかりましたー」

それから2時間が経ち、長い間に渡った作業を終えた。

佐伯「ふぅー終わったあ!」

原田「つかれました」

佐伯「そういえば、小野さんどうしたの?なんか大声出してたよね。」

原田「ストレスじゃないですか?久々だったし。」

佐伯「なるほどね。早く前の小野さんに戻らないかな。」

原田「今日もどこか変でしたもんね。」

佐伯「まあ、思い詰めることがあったんじゃない?……遅くなったからもう帰るわ。またね。」

原田「はーい」

佐伯先輩と別れたあと、車に乗り込んだ。

ダッシュボードの収納から、手帳を取り出す。

原田「5ヶ月か。案外早かったな。まさか、捜索願を出す身内がいたとは」

「今の日常にも飽き飽きしてきた頃だし、またやりたいな。」

……プルルルル ガチャ

小野「あの!どういうことですか!」

郡『悪い、ちょっと電話出来る状況ではない。』

小野「あ!おい!切るんじゃねぇ!」

プツッ ツーツーツー

小野「はぁ。全くどういうことか分かりません。」

「あ、そうだ、原田さんから貰った資料、確認しなければ。」

ええっと?これはどういう…

貰った資料の裏に殴り書きで書いた文字があった。

「はんにん は はらだ」

小野「どういうことでしょうか。原さんって人が犯人?これを含め明日原田さんに聞いてみましょうか。」

加藤「ボス、適当な資料に「犯人は原田」としっかり書き置きしておきました。」

郡「ご苦労さま。捜査一課の内部崩壊も近いかもな。」

横山「あの原田って奴さえ片付けることが出来たら、あとは無能ばっかだ。」

西本「私が内部捜査をしたから分かったんでしょう?自分の手柄にしようとしないでくれないかしら?」

加藤「いやまさか署長秘書が西本さんとは思いませんよ」

西本「どう?私の変装のレベル高いでしょ?」

加藤「小野さんで気付かないなら、大して面識のない奴らに気付かれるはずがありませんね。」

郡「でも、油断は大敵だ。我々の目標を達成するためには、誰一人欠けてはならない。夜明けは近いぞ。しまっていこう。」

File8 終

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