file7「苦悩」

水森警察署

結城「加藤。ちょっとこい」

加藤「お、訓練ですか!がんばるぞ!」

結城「そんな気合い入れなくてもいいぞ」

加藤「いやでも、楽しみの一つで…」

結城「みんなはそうか。ごめん。」

加藤「ええ!?謝んなくても大丈夫ですよ!?」

結城「そうか。訓練場に向かうから着いてきてくれ。」

加藤「はーい」


原田「ついて行ってみましょうよ!先輩!」

佐伯「えぇ?なんで?」

原田「いや、面白そうじゃないですか?」

佐伯「幸い大きな仕事は無いけど…」

原田「じゃあ行きましょうよ〜」

佐伯「ん〜いいよ。」

原田「ひとりだと心細くて…」

佐伯「なんか可愛い。」

原田「え?」

佐伯「なんでもない。」

射撃訓練場について行くと、結城部長による射撃訓練が始まった。

結城「ピストルはな、なるべく上を持つんだ。」

加藤「こうですか?」

結城「そうだ。撃つ時まではトリガーに指を掛けるなよ。」

加藤「そうなんですか。じゃあどこに?」

結城「フレームの上だ。そして目を片目瞑って、よく狙う。そしてバーンだ」

加藤「やってみます。」

放った弾は的の真ん中に近いところに当たった。

結城「なかなかやるじゃないか」

加藤「えへへ、光栄です」

結城「なんかやってたの?射撃とか」

加藤「クレー射撃を少し。」

結城「クレー射撃!?すげぇな今度見せてくれよ」

加藤「もちろんですよ」

佐伯「なんか新人ちゃん凄いね」

原田「はい、私より上手いんじゃないですかね」

佐伯「私この訓練で褒められたことないよ」

原田「はは、センスですよ」

佐伯「私はセンスないのかぁ。」

原田「元気だしてください、事件のまとめ上手いじゃないですか」

佐伯「でも…」

原田「射撃クラブじゃないんだから銃の扱い上手くなくても、そのほかで役に立てればいいじゃないですか。助け合いですよ」

佐伯「あ、ありがとう…」

少しすると、訓練を終えた2人がでてきた。

結城「やべーぞこいつ。筆記大して良くなかったのに射撃満点って…」

加藤「実技しか出来ないんですよ。」

結城「小野に教えてあげてくれ笑」

佐伯「そういえば、小野さん最近来てないけど、なんかあったんです?」

結城「俺が休めって言ったんだよ。何にも身が入っていなかったからな。旅行でも行ってんじゃない?」

同時刻、小野は車に乗っていた。

小野「嫌な予感がしますね…あちらから呼び出しなんて…」

私は横山さんに呼び出されていた。呼び出しの場所の井戸田町までは1時間程。

小野「何かあった時のためになにか書き記しておきましょうか。──いや、だめです。組にバレたらどうしようも無い。新人も来たみたいなので私が居なくても大丈夫でしょう。」

結局何も書かずに目的地に向かう。

───断れればよかった。行きたくない。そんな気持ちが頭を駆け巡る。

そんな思いも意味がなく、直ぐに目的地の井戸田町についた。

小野「製菓店pop…ここですかね、見た感じカフェですか。横山さんはカフェ好きですね」

店内に入ると、既に横山さんはいた。

横山「よう、遅かったじゃないか。ここで話さないから、車で着いてこい。」

小野「は、はぁ。」

どこかに誘い込まれている気がする。かと言って断る勇気もない。

私は死を覚悟した。

横山さんの車について行くと、昔懐かしい景色が見えてきた。そうだ、この道は事務所に向かう時に使った道だ。ということは、事務所に向かっている?ますます嫌な予感がする。

そしてその予感は当たっていた。もう見ないと思ってた郡組の事務所。

横山「久しぶりだな、懐かしいだろ?この景色」

小野「私をどうするつもりですか?」

横山「いや、何もする気はないぞ?ただ、ボスが会いたがってるんだ。」

小野「私は足洗ったんですが…」

横山「今日だけ!お願い!」

小野「そんなに言うなら…」

横山「おし、じゃあ入るぞ。」

扉を開けるとそこには昔とは少し違うがほぼそのままの景色が広がっていた。

正直、みたくない。

小野「早く終わりますか?」

横山「俺は知らんよ?なんも」

小野「…」

横山「組長室に案内するぞ。」

少し移動すると、あからさまに豪華な扉、厳重な警備。

いかにも、ここが組長室だ。戻ってくることはないと思っていた。

でも、なぜかこうして戻って来てしまっている。

横山「着いてこい。」

横山「失礼します。組長。小野を連れてきました。」

郡「ご苦労。もう行って良いぞ。」

横山「失礼します。」

郡「よし、久しぶりだな。小野。警察には慣れたか?」

小野「ええ、5年もすれば慣れますよ。」

郡「取り敢えずそこに座れ。」

小野「失礼します。」

郡「そうか。提案があるんだが、聞いてくれるか?」

小野「聞くだけならいいですけど…」

郡「単刀直入に言う。小野。俺と手を組まないか?」

小野「なんで貴方と組まなきゃ行けないんですか」

郡「いやいや、最後まで聞いてくれ。小野、俺のここでの立場はなんだ?」

小野「ええ?組長ってことですか?」

郡「そうだ。“便宜上”はな。」

小野「どういうことですか?」

郡「お前、盗聴器俺らに仕掛けたろ?」

小野「バレてましたか。」

郡「それはどうでもいい。皆に気付かれないように処理した。その音声俺の声がしなかったか?」

小野「してましたね。怖い声だなと思ってました。」

郡「信じてくれるか分からないんだが、その声は俺の弟なんだ。」

小野「!?」

郡「今俺は、組長ではあるがこの組の長ではないんだ。紛らわしいけどな、弟が全てを司ってる。」

小野「なるほど。その弟さんは今どこに?」

郡「今は外出中だ。この部屋も防音だし俺しか入れない。」

小野「具体的に私は何を?」

郡「もうすぐに大きな“コト”を起こすみたいなんだ。俺は殺人なんか望んでないし、鷹山の件も俺は関与していない。むしろ否定派だ。だからこちらから全てを連絡する。」

小野「分かりました。信じてみます。」

郡「ありがとう。また連絡するな。」

小野「では失礼します。」

私は組長室から退出し、車に乗り込んで家に戻る。

そういえば、確かに組長が暴力を推奨したことは無かった…気がする。

そのおかげで前科が付かなかったのも理解出来る。

ただなんせ5年以上前のことだから全く覚えていない…

自分の記憶力に腹が立つ。

ここのところずっとこの調子だ。自分のことを嫌になり、腹を立てる。

こんなこと続けてたら、みんなにも嫌われていくんだろうな。

実際、結城部長に心配かけているし。自分ってなんなんだろう。

ろくな生き方していない。警察に入りたかった理由も思い出せない。

ああ、まただ、また自分のことを悪く思っている。

この癖は、そろそろ辞めないとな。

まだ休暇は1週間弱ある。結城部長にリフレッシュしてこいって言われたっけ。

どこか遠いところにでも旅行しようかな。

そういえば、郡道さんと入院中にあったことがなかった。

この際、暇だし会ってみようかな。もうそろそろ、仕事にも復帰するみたいだし。

郡道さんは私と同じ時期に警察に入ってきた。だから研修とかも一緒だった。

大して仲良くはなかったけど、顔見知りだし連絡先も持っている。

結局、私は郡道さんの入院している病院に向かった。

小野「失礼します。」

郡道「お、来たか。久しぶり。」

小野「ご無沙汰しています」

郡道「捜査一課に配属されたんだって?」

小野「そうなんです。なので郡道さんが復帰したら一緒に仕事ですよ。」

郡道「良かったよ。お見舞い来てくんないから嫌われたのかと思ったよ。」

小野「いえ、そんなことはありません。行く暇がなかっただけです。」

郡道「ということは、今暇なのか。」

小野「え、まあ。」

郡道「そろそろ外に出てもいいみたいだから、少し風に当たらないか?」

小野「もちろん。」

私たちは病院のすぐそばにある公園にきた。

郡道「小野。お前悩みあるんじゃないか?」

小野「なぜです?」

郡道「いや。なんとなく。」

小野「ハハ。なんとなくですか…」

郡道「その様子だと何かあるみたいだな。」

小野「ええ。実は。」

郡道「話してみろよ。」

小野「詳しくは言えませんが…」

郡道「それでもいいから。」

小野「郡道さん。あなたは、昔の仲間と、今の仲間。どっちかしか選べないなら、どっち選びますか?」

郡道「え?…そうだな。俺のパターンだと、今の方が幸せだから後者かな。俺は幸せを選ぶ。」

小野「そうですか。なるほど。参考になりました。」

郡道「こんなんでいいのか?」

小野「ええ、十分ですよ。」

郡道「やべ!もうすぐ1時間すぎちゃう。ナースさんに怒られる〜」

小野「では私は帰りますね。本当にありがとうございます。」

郡道「おう。なんかよくわからんけどがんばれよ!」

郡道さんと話すと、なぜか心が軽くなる。昔もそうだった。新人の頃、怒られてばかりの私に手を差し伸べてくれたのも郡道さんだ。雰囲気は怖いんだけど、どこかに安心感がある。

小野「私は恵まれていますね。」

車を発進させる。明日からはちゃんと捜査一課に戻ろう。そう決めた。

File7終

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