file5「過ち」

水森警察署

結城「もうすぐ新しい奴らが入ってくる時期だが、いいのはいるのか?」

森「私もあまり知らないんですけど。今年は出来があんまりなそうです」

結城「さすがに原田みたいなやつは来ないか」

森「あんな人が毎年入ってくるわけないですよ。」

結城「捜査一課に入る奴はいんのか?」

森「今の所1人入る感じですね」

結城「いつ来るんだ?」

森「いつもより早く来れるみたいですね。明後日だったかな」

結城「そんな早く来れるのか」

森「やる気だけは十分にあるって言ってましたからね、彼女」

結城「なんだ、また女かよ」

森「それ差別発言ですか」

結城「いやいや。そんなピリピリすんなって。でも三年連続って…」

森「冗談ですよ。なんか捜査一課に入りたがる子が多いんですって。」

結城「男はいないのか?」

森「それが1人も。みんな他の部署希望ですよ」

結城「捜査一課半分くらい女でまわるのかよ」

森「みんな優秀だからいいじゃないですか」

結城「まあ中途半端な男が来るよりマシだが…距離感をどうすればいいのか…」

森「今そういうのにうるさいですもんね。」

結城「変なこと言って訴えられたらどうしようっておもうんだよ」

森「そんな事しないと思いますよ。あの子たちは」

結城「大して会ったことないだろ。…おっといけないもうすぐパトロールの時間だからまたな」

森「あ。はい。お気を付けて。」


森「…」

パトロール中

結城「なあ小野、明後日新人来るんだってよ!」

小野「そうですか」

結城「でもまた女なんだってよ。ってこの前来たばっかだからわかんないか」

小野「はい」

結城「(最近小野の元気が全然ない気がするな。)」

小野「結城部長、」

結城「ん?」

小野「…前、私のことを相棒と言いましたよね。」

結城「言ったけど。それがどうした?」

小野「もし私が隠し事をしていたら…どうしますか?」

結城「まあ良くは思わないけども、言いたくないならそれでもいいんじゃないか?」

小野「優しいんですね。」

結城「(何か様子がおかしい。けど突くポイントがねぇ。)」

小野「もうすぐしたら署に帰りますね。」

結城「お、おう…わかった…」

───ほんとに俺はダメな上司だ



19xx年4月10日

×〇警察署

結城「今日からお世話になります!結城です!」

櫻井「おーいいね。元気そうなやつが入ってきた」

結城「期待に応えられるように頑張ります!」

櫻井「いいね。期待してるよ」

初めての職場で、櫻井さんと出会った。


結城「これはなんですか?」

櫻井「あーそれ?この前署長から貰ったんだ。」

結城「こんな賞状貰えるんですね。」

櫻井「人助けしてたらなんか貰った。」

結城「すごいですね。」


櫻井さんはほんとに理想の人だ

裏表がない。誰にでも優しい。実績もある。欠点がない。

勿論、署内の女性にモテモテだった。でも既に奥さんがいた。

それでも櫻井さんは揺らぐことは無かった。

浮気なんてしない、家族思いの人だ。

家族にも、同僚にも慕われていた。

5月23日

櫻井「今日は結城の指導をしようとおもーう」

結城「指導ってなんですか?」

櫻井「まあ落ち着いて。ただ事件現場に行くだけだよ。」

結城「なんだ、びっくりしました。」

現場

櫻井「現場の鉄則。まずはなるべく現場のものを動かさない」

結城「勿論、学校で教わりましたよ。」

櫻井「お、そうかい。なら安心だな。なら、1人でできるか?」

結城「いやいやいや、手伝ってくださいよ。さすがに」

櫻井「ハハハ、分かってるよ」


櫻井さんは上司なのに、フレンドリー。教えてくれる事も分かりやすい。おまけに理不尽じゃない。

俺はひねくれていたが、尊敬しないわけがなかった。

櫻井さんと話している時は同級生のような感覚で、接しやすいし。

俺の警察官としての実力もメキメキと上がっていった。

7月10日

俺は学生時代から付き合っていた女の子に振られた。

しかし、そんな事情、仕事には持ち込めない。

なるべく、勘づかれないようにしていた。

自慢じゃないが、俺は感情のコントロールは本当に上手いんだ。

心理戦なんて得意分野だ。

その日は櫻井さんと出勤時間が違い、俺が早い時間で櫻井さんは比較的遅めだったんだが、

櫻井「おはようございまーす」

結城「櫻井さん、おはようございます。櫻井さんがいないと寂しかったですよ」

櫻井「なあ、結城、何かあったのか?相談したかったら遠慮なく言えよ。」

結城「!?」

会った一言目がそれだった。

ほかの同僚に一日の俺の様子を聞いたんだが、何もおかしいことは感じなかったと皆口を揃えて言う。

流石にその時は恐怖を感じたよ。俺の思考が読まれてるのかと思った。

それと同時に、俺は櫻井さんのような人になりたいと思うようになった。

警察署に入ってまだ3ヶ月。俺の人生の目標が決まったと言っても過言じゃない。

その思いは日々加速していった。

ただ、俺は過ちを犯してしまう。

…あれはすごく暑い日だった。

8月25日

俺は犯人と対峙していた

結城「おい、手を上げろ」

犯人「俺は知ってるぞ。お前は新米だ」

結城「だからなんだって言うんだ」

犯人「銃なんて撃てるのか?上手く扱えんのか?」

結城「うるさいぞ。極悪人」

犯人「お?図星か?」

結城「黙れ。」

暑さのせいか緊張のせいか、汗が吹き出る。

犯人の言う通り、銃の扱い方なんて警察に入って半年の俺がマスターしているわけが無い。

ただ、セーフティ“だけ”は漫画やらアニメやらで覚えていた。…それが全ての始まりだった。

犯人「雑魚が。」

俺は、犯人に向かい発砲した。

新米な俺はセーフティにしか意識が行かなかった。

手が震えていた俺には標準が定められなかった。勿論、威嚇射撃なんて知ってるわけが無い。

“現実”というものは残酷だ。

無情にも俺が放った鉛の弾は犯人には当たらなかった。

…それだけなら良かった。

運が悪いことに、外れた銃弾は通行人を貫通した。

結城「なっ…」

悲鳴が響く。

犯人はいつの間にかその場から消えていた。

どうしよう。俺は最悪な考えをしていた。犯人に殺しを押し付けようとしていた。

その時。櫻井さん含む同僚がようやく到着した。

一同「!?」

そりゃそうだ。俺の前で人が倒れているんだ。

結城「えっと、その。」

櫻井「黙れ。」

結城「!」

櫻井「何も言うな。俺がこの女の人を撃った。いいな?」

同僚a「え?櫻井!?何を言ってるんだ!」

櫻井「お前も撃つぞ?」

同僚a「…わかったよ」

結城「…」

俺の罪を肩代わりしてくれた。その時は驚きと焦りで何も言えなかった。

今思えばそんな考えは甘かったのかもしれない。

8月26日

結城「…」

櫻井「大丈夫だって。安心しろよ。俺に全て話してくれよ。」

結城「でも、説明まで櫻井さんにさせるなんて…」

櫻井「お前の方が若いんだから、当たり前だろ?若いやつの方が未来あるんだ。」

何から何まで申し訳ないと思った。

会見でも櫻井さんが全て話してくれた。本当にしたのは俺なのに。

その会見は瞬く間にテレビ、ラジオで拡散され、櫻井さんは人殺しの警官の烙印を押された。

…その時に今のようなSNSがあれば俺は自分の罪を全て話していただろう。


櫻井さんは何とか解雇は免れたが捜査では完全な裏方に回ってしまった。

上司からは代わりにお前が頑張らないと行けないと言われた。何度も。

そんなことは自分がいちばんわかっている。

9月4日

この日は近くの場所のヘルプに回っていた。

爆発物の犯行予告が届いたので、近くの警察署総動員で警備に当たっていた。

勿論、真実を知っているのはうちの署の人間のみなので、櫻井さんに対する他の署の人間の態度は酷いものだった。

警官A「うわ、あいつが櫻井だってよ」

警官B「近寄らんとこうぜ」

警官A「殺されちまうー」

警察のくせにこんな小学生みたいなことするんだなと腹が立った。

警官C「爆弾があったぞ!」

警官ら「え?ザワザワ」

ほぼ全員がイタズラだと思っていたのでざわめいた。

警官A「ど、どうせ偽モンだろ」

警官B「死にたくないよ」

結城(小学生かよ…)

櫻井「俺が爆弾を解除する。」

警官ら「!?」

警官C「ほ、ほんとか?ありがとう。爆弾はビルの8階にある。着いたら絶対わかる位置にあるよ」

櫻井「そうか。わかった。」

結城「櫻井さん!本当だったらどうするんですか!?」

櫻井「大丈夫だって!何とかなるよ」

これが櫻井さんの本心だったかは分からない。

櫻井「一応皆さん離れといてくださいね。」

「あと、火事が起きたら困るのでエレベーターが着いたら電気を遮断してください。」

警官ら「ザワザワ」

警官A「罪滅ぼしでもするつもりか?(コソコソ」

警官B「さあな?でも俺らには関係ないよ(コソコソ」

この2人には本当に腹が立った。今でも許さない。


しばらくすると電話がかかってきた。現場に着いたようだ。

櫻井「8階に着いたけど…これ俺が想像してたのと違うな。」

警官C「悪いな。怖くて開けれなかった。」

櫻井「まずいことになった。」

警官ら「??」

櫻井「この爆弾は、紙袋から開けたらタイマーが作動する。」

警官C「!」

櫻井「エレベーターで来たんだが、もう動かなくなっちまった。」

警官C「…」

櫻井「おい?なんで階段が使えないことを言わなかったんだ?」

警官C「すまなかった。忘れていた。」

そいつが本当に忘れていたのかはわからない。

櫻井「はぁ…まさかな。ここで何もせずに爆発するのを待つとはな…」

結城「どういうことですか!?」

櫻井「もう無理だ。よくある線を切るタイプじゃなくて、タイマーが作動してから起爆するまで何も出来ないタイプの爆弾だ。殺意高いな。ハハハ」

結城「ハハハじゃないですよ!早く飛び降りてください!きっと助かりますよ!」

櫻井「…8階から飛び降りれるほど俺は勇気ないよ。」

同僚「櫻井は昔、高所から落ちて大怪我をおったんだ…そのせいで高所恐怖症まで残った。」

結城「でも、そんな…ただ待つだけなんて…」

櫻井「皆さん。俺の署の人間以外は少し席を外して貰えませんか。」

警官C「わかった。」

櫻井さんは、電話越しに一人一人に感謝の言葉を述べた。

櫻井「最後、結城。」

結城「…」

櫻井「返事は?」

結城「…はい」

櫻井「お前は、今年入ってきたよな。久々の後輩だったから、可愛くて仕方なかったよ。」

結城「もっと一緒に捜査したいです」

櫻井「それはな、多分無理だ。これがはったりだったら良かったけどな」

結城「そんな…」

櫻井「1個謝りたい。銃のことだ。」

結城「あれは僕のせいですよ!」

櫻井「いや、本当は俺が教えるべきだったんだ。もうちょっとしたら、教えようと思ってた。」

結城「?」

櫻井「本当は、9月までに銃の訓練を終えなければいけなかったんだ。俺が後回しにしていたから、こんな事件まで起こさせてしまった。心も癒えてないだろうしこれからも暫くはしないと思う。」

結城「なんで…なんでですか?」

櫻井「本当にごめんな。」

爆発音が響いた。電話もそれと同時に切れた。

それはビルの8階からだった。

櫻井さんの遺体は見つからなかったが、殉職として処理された。

その日から、いや、ずっと前から俺は櫻井さんのような人になろうとしていたのに。

優しさ、洞察力、同僚からの評価、寛容さ、実績。何も持っていない。

現に、この目の前の小野の悩みさえ俺には解決できない。

櫻井さんなら、どうしていただろうか。

所詮、俺は“人殺しの警官”だったのか?そろそろ警察官もやめ時かもな。

この1年で何も進歩しなかったら引退して静かに郊外で暮らそうかな。

優秀な後輩ばっかりだし、任せても大丈夫だろう。

File5 終

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