第4話
〜ルバーヌ樹海 南部〜
集落を出てからどれほどの時間が経っただろうか。体感では3、4ヶ月は経ったような気がする。返り血を浴びてもそのままにしていたせいか、緑色の皮膚がドス黒い赤に染まってしまった。体つきも大分変化した。身長は大体150センチ程。全身の筋肉が発達し、前世で言うところの細マッチョ寄りのマッチョという感じに。個人的に腹筋がしっかり割れているのはお気に入りだ。前世では学生時代は部活で鍛えていたためうっすら割れていたが、社会人になってからは運動する時間がめっきり減り、お腹を着飾っていた線は消えてしまった。悲しきかな。まぁお腹がぽっこり出なかったのは幸いだったのだろう。
それはそうと、ここ最近の狩りで1つ大きな発見があった。なんと!なんと!魔・法・☆があったのだ!うんうん、一体どうゆうことかと思うだろう?
というわけで、あ、ありのまま起こった事を話すぜ!!!俺はたぶん1週間ぐらい前によぉ、森で狩りをしていたんだ。そしたらよぉ、どこから拾ってきたのか杖を持った豚野郎がいてよぉ、いきなりそいつが杖から火の玉をぶっ放してきやがったんだ!
いやぁ、あの時はびびったなー。杖持ったオークを見て年寄りなのかなぁとか思ってたら、目の前に火の玉があるんだもん。血を大量に吸った棍棒でガードしてなかったら確実に焼け死んでたな。初めて見る魔法にちょっと興奮したけど、遠距離攻撃の対処法なんて簡単だ。相手の視線や体の向きで攻撃を予測し、自分の動きで誘導してやれば避けるのは余裕。あとは距離を一気に詰めて殴り殺せば終わりだ。
あの後、俺も魔法使えないかなーって思ったけど、やり方わからんし、前世のラノベ知識を参考に色々試してみたけどさっぱりだった。俺の予想では、魔力なり何なりの発動に必要なエネルギーが必要で、それを知覚して操作、そこから何らかの過程を得て事象を起こすって感じだと思う。たぶんね。
そんで、何ならかの過程を担ってたのが、オークの持ってた杖だと予想している。オークの放った魔法は全て火の玉だけだし、起点が全部杖だった。まぁ、戦いの途中でへし折ったけどね☆
うん、若干後悔してます。倒すだけなら方法はいくらでもあるのに、なんで杖までぶっ壊しちまうかなー。俺のおもちゃ……じゃなかった、武器になってたかもなのに。まぁ、壊しちまったもんはしょうがない。次があったらちゃんと壊さないようにしよう!うむ。
それにしても転生して魔法を使ってる奴はあのオーク以外見たことがない。もしかしたら魔法はそこまでメジャーではないのかもしれない。いつかは使ってみたいとは思うけど、そこまで期待しないでおこう。もし使えないとかだったらショックがデカすぎるからなぁ。
色々思考しながら、本日も獲物の血と肉を求めて歩き回っているのだが、さっきからちょっと森が妙な感じがするのだ。太陽の方向、南側がなんだか騒がしい…………気がする。数日前はなんか見張られてるような感じがして気味が悪かったし、もしかしたら南の方で何か異変が起こっているのかも知らない。これまでの経験からこういう時は自分の勘に従ったほうがいい。
”森の奥の方に避難しとくか?”
と思ったその時、南の方から俺の足目掛けて1本の矢が飛んできた。寸前で気づいた俺は矢を上から叩き落とすようにして棍棒を振り、足に怪我をするのを防いだ。そして、矢を放った人物を睨めつけ、すぐさまその場から逃走した。
〜アルマト王国騎士団 トルメイン領第3分隊〜
「…………まさか、私の矢が防がれるとは。」
甲冑を着た騎士たちに囲まれ弓を構えていた、普通の人と比べて長い耳が特徴のエルフの男がそうつぶやいた。
「ルイフェルの矢を防ぐとは………たかがゴブリンと侮れないな。」
「隊長………えぇ、反応が速い上に対応も的確。パッと見ただけでもかなりの知性を感じられました。」
エルフの男、ルイフェルに隊長と呼ばれた男はルイフェルの言葉に顔を顰めた。
「知恵を持ったゴブリンとなるとかなり厄介だな。冒険者ギルドが言っていたように変異種の可能性が高い。」
「えぇ………追跡隊は?」
「すでに動かしている。後は隊を動かして包囲するだけだな。出来ればあの一矢で動きを封じたかったのだが…………」
「ですね。まぁ、仕方ないですよ。あのゴブリンの実力が高かった。それだけです。」
「そうか……………皆の者!移動するぞ!」
淡々としたルイフェルと対照的に苦々しい表情を隠せない隊長は周囲にいる自身の部隊の騎士たちに指示を出した。
彼らは騎士たちを率いて追跡隊が残した目印を追い始めるのだった。
彼らアルマト王国騎士団トルメイン領第3分隊がトルメイン領領主イグナス・トルメインによって課せられた任務は、近頃確認されるようになった赤いゴブリンを、魔物の生態調査のために生け捕りにせよというものだった。
まず最初に行ったことは冒険者ギルドを介して情報を収集し、精査することであった。それによって得られた情報の中には件のゴブリンが変異種もしくは新種である可能性が高いということ、非常に獰猛でありながら理知的でゴブリン単体で狩れるはずのないオークすらも獲物にすることなどが含まれていた。
そのため捕獲部隊の編成にトルメイン領随一の弓の使い手であるルイフェルが組み込まれていた。ルイフェルの弓の腕ならばそれほどのゴブリンであっても無力化し、生け捕ることも容易いと考えられてのことだ。さらに、危険な魔物が数多く生息する樹海が現場のため、生存能力に長けた者が多く所属している第3分隊がルイフェルの護衛兼仕留め損ねた際の保険として同行している。
彼らを送り出した領主の頭には万が一という言葉はなかった。それほどの信頼を寄せている騎士団に失敗はありえない。そして、それは今回の任務に関わっているほとんどの騎士団員も同じ考えだった。
”オークを倒す程と言ってもたかがゴブリン”
だからこそ、彼らは目の前の光景を直視出来ないでいた。ゴブリンの背を追っていた追跡隊の者の首を左手に持ち、右手に持っている騎士団員から奪ったであろう剣で、応戦している騎士団員の首を飛ばしている赤いゴブリンの姿を。
追跡隊の残した痕跡を辿っていった隊長率いる部隊の視線の先には完全に士気を無くした騎士団員の姿があった。
「クッ……!何事だ!」
「あっ………た、隊長……す、すみません」
「謝るのは後にしろ!そんなことより状況を説明しろ。」
「は、はい!……追跡隊の印を追ってここまで来たんですけど、剣戟の音が聞こえてきたんです。なので急いで駆けつけるとすでに赤いゴブリンと追跡隊が戦闘を開始していました。恐らくですけど、ゴブリンの方から仕掛けてきたのだと思います。」
「ふむ………それからの対応は?」
「はい。すぐさま周囲の部隊に応援を呼んで隊列を組んで包囲して戦ったんですが………」
「戦ったが……?」
「た、単純な力技で包囲を破り、近くの者から棍棒で叩き潰され、盾を構えてもその上から捻じ伏せられました。魔法杖も使用しましたが避けられ、即座に破壊されました。」
「何だと!?………ん?チッ!」
”ギャリッッッ!!!”
部下の騎士団員から報告を聞いている間に周囲に群がっていた騎士団員を殺し尽くしてしまった赤いゴブリンは隊長に斬り掛かっていた。話していても即座に反応して対応できたのは流石というべきだろう。
だが、不意をつく強力な一撃は隊長のバランスを崩すのには十分だった。
「クッ!まず……!」
”ヒュン!”
『ゲギャ!?』
「隊長!!こちらに!!」
隊長に振り下ろされそうになった死神の鎌を間一髪のところで防いだのは、隊長のすぐ後に来ていたルイフェルの矢だった。
赤いゴブリンはルイフェルの渾身の一矢を左手を盾にして防いでいた。強烈な一撃は赤いゴブリンの腕を貫き、騎士団員たち相手に猛威を振るっていたゴブリンに初めて傷を負わせることができた。
ルイフェルの呼びかけに隊長は即座に動き、ルイフェルを中心に円陣を組んでいる騎士団員らに加わった。
その間に赤いゴブリンは腕に刺さっている矢を力任せに引き抜いていた。普通ならば痛みや片腕が使えないことから戦意を失ってもおかしくない。だが、このゴブリンは違った。むしろ目を爛々を光らせ、凶悪な笑みを浮かべていた。あまりにも異常すぎる。これでまだ”王”に至っていないというのだから驚きだ。
そして、それを目の当たりにした騎士団は皆覚悟を決めた。
彼らは赤いゴブリンを追うために樹海のかなり奥深くまで侵入していた。方向感覚を失いやすい樹海において重要なコンパスの役割を担っていたのは、斥候の役割でもある追跡隊である。だが、騎士団はその追跡隊を真っ先に殺されてしまった。彼らは1番最初に樹海で生存するのに最も必要な人材を失ってしまったのである。斥候が居なければこの樹海で生きて帰ることは出来ない。魔物を倒すことが出来ても遭難するのが関の山だろう。
つまり彼らはゴブリンに樹海の奥深くまで誘われた挙句、地の利を奪われ、退路を実質的に失ってしまったのだ。
そして、それは赤いゴブリンが彼ら騎士団を逃がす気がないと言っているのも同然である。
「…………ここまで追い詰められた感じは久しぶりだな。」
「………隊長。」
「フッ、皆………やるぞ…!」
「「「おぅ!!」」」
「ルイフェル!俺が前衛をやる!援護を頼むぞ!」
「わかりました!必ず撃ち抜きます!」
騎士団員の士気を上げ、剣を構えた隊長は騎士団の様子を伺っていた赤いゴブリンに向かってゆっくりと歩き出した。
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