第2話
〜ルバーヌ樹海 南部〜
気づいたら大人ゴブリンになっていた。
いや、早くね??まだ生まれて1ヶ月くらいよ??たしかに1週間くらいで虫生活を脱したけども。2週間目くらいには走り回っていたけども。3週間目くらいには言葉をある程度理解できるようになっていたけども。
”狩りに出るの早くないかね??”
はい。ゴブリンの成長の速さ舐めてました。ある程度成長して動けると判断されたら即狩りに連れ出される模様。そして今日、俺は初めての狩りに出る。
不安と緊張。初めての狩りを前にこの2つが俺の頭を占領…………していなかった。会社員時代に培われた無茶振り耐性は、無事機能しているようだな。うん。悲しい耐性だ………おかしいなぁ、涙が出てくるぞ。
とはいえ、まったく緊張も不安もないかと言われるとそう言うわけでもない。これから行われるのは命のやり取りだ。俺は今いる場所についてもろくに知らない。もしかしたらとんでもなく危険で、ゴブリンなんぞ最底辺ってことだってあり得るわけだ。つまり、狩りをしている側のつもりでも、いつ狩られる側になるか分からないということ。
俺は2度目の死を覚悟しなければならない。まぁ、俺はまだ死ぬつもりはまったくないし、いざという時は周りのゴブリンを囮にしてでも生き残る。それぐらいの気持ちで望むつもりだ。
さて、気持ちの方は整理できたが、俺の身を守る装備はと言うと…………
”木の棍棒”
”薄汚れた腰布”
以上。はい、解散お疲れ様でしたー。
うん、ぶっちゃけね、終わってるわー。こんなんで生き残れるかって声を大にして言いたいね。
俺が自身の装備の貧弱さに嘆いていると、長ゴブリンが狩りに出るゴブリンを呼んでいた。とりあえず俺は先輩ゴブリンたちの狩りを真似て狩ろうと決め、長ゴブリンの下に向かった。
長ゴブリンに率いられ、森の中を突き進んでいく俺達だが、狩りの方法はどうやら俺達下っ端は単独で兎などの小動物、長とその取り巻きは鹿だったりの大きめの動物を狩るというなんとも言えないものだった。
相変わらずニュアンスで理解するしかないゴブリンの言葉に苦戦しつつ、説明を理解した俺はバラけた先輩たちの後を追っていった。
頼りない棍棒を片手に1人になった俺だが、狩りを始めた最初の1時間程は先輩ゴブリンのストーカーをしていた。って言っても俺に変な気はないぞ?当然だがな。
で、なんでストーカーしていたのかと言うと、もちろん先輩がどんな風にして獲物を狩るのか興味があるからだ。
そんな俺にストーカーされている先輩だが、ちょっと遠目に兎を見つけると、気配を殺し静かに兎の背後に詰め寄った。そして、手に持っていた棍棒を振り上げると
『ゲギャ!』
思い切り振り下ろした。が、寸前で気づかれ兎には逃げられてしまっていた。
空振った棍棒を見て、先輩ゴブリンは特に気にした様子もなく、また獲物を探して歩き始めるのだった。
その様子を遠目から見ていた俺なのだが、思ったことが1つ。
”ゴブリンって思ってた以上に馬鹿??”
うん。絶対馬鹿だ。いくら獲物が目の前だからって普通声上げるか?………上げないだろ!?そして、逃げられたことに何の疑問も持っていない!何故失敗したのか、そこを考える知能がないのだろうか?
…………だとしたら、ちょっと前から考えてたことを実行しても問題なさそうだな。
前世では考えられないようなあくどい笑みを浮かべた俺は、先輩ゴブリンの後を追うように森の中へ消えていった。
俺はゴブリンに転生してから、ずっと考えてたことがある。
それは人間社会という束縛から解放された今ならば、俺の自由に生きられるのではないか?ということだ。前世では会社だったり、家族関係だったり、様々な縛りがあった。常々息苦しさを感じていた俺だったが、周囲からの圧力を前にどうすることも出来なかったのだ。
だが、今はどうだ?この森では強い奴が生き残り、弱い奴が死んでいく弱肉強食の世界。つまり、俺に圧倒的な力があれば、俺は前世では考えられないような”自由”を手にすることが出来るのだ。
そして、自由を手にするために必要な”力”だが、実はアテがある。ゴブリン集落で過ごしていて気づいたことなのだが、集落で狩りが上手い、もしくは強いゴブリンというのは全員大柄なのだ。当然ながら、長は一番デカくて一番強い。次にデカいゴブリンは集落で二番目に強い。そして、三番目、四番目と続いている。ここから予測できるのは、強さとガタイは比例するということだ。要するに俺が強くなるためにはガタイをデカくすることが重要だ。
では、どうやって大きくするのか?それは獲物を狩り、余さず喰らい続けることだ。集落の老ゴブリンも強くなるには獲物をたくさん狩って食べろ的な事を言っていたし。たぶん俺の推測は合っているだろう。
さて、ここまで整理して俺がこれから何をしようとしているか分かるだろうか?
それは………
『ギャギャッブゲギャ!(油断してる同族を狩ること!)』
返り血を浴び真っ赤になった棍棒の先には、頭の潰れた先輩ゴブリンがいた。
色々とトチ狂っている行動に感じるだろうが、俺の考えではこれが1番効率がいい。動物をちまちま狩るよりも動物を狩って生きてきたゴブリンを殺して食らえば、より早く成長できるだろう。
俺は、強烈な血の匂いと元々良いとは言えないゴブリンの体臭が混ざった匂いに顔を顰めながら、先輩ゴブリンの腕に噛みついた。
同族を食らっているという背徳感、罪悪感に加え、ゴブリンの糞みたいな味に吐き気を我慢しながら、生きるために食らった。
結局この日、俺は10体程のゴブリンを殺して食らった。
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