血染めの小鬼〜ゴブリンに転生して異世界奮闘中〜

烏鷺瓏

第1話

 暗い暗い闇の中、俺は全身を押さえつけられているかのような状態だった。妙に心地よい、誰かに包まれているかのような温もりを感じていた。


 一体ここはどこなのだろうか。

 俺の最後の記憶は、日本の東京でサラリーマンをしていたが、その日は残業で夜の8時まで会社に残っていた。ようやく仕事が終わったと一息つき、眠気覚ましに缶コーヒーを一気に飲み干して会社を出た。


「ふぅ…………今日も疲れたな」


 夜になっても賑わいを失わない雑踏をかき分け、最寄り駅に向かう。駅が見えてきたところで交差点の信号が赤になってしまった。そこでスマホを眺めながら、信号が青に変わるのを待っていた俺の耳に鈍重な轟音が響いてきた。


”何事!?”


と驚く俺が視線をスマホから、音の発生源に移すと俺の視界には巨大な鉄の塊が広がっていた。

 そこで俺の意識は途絶えてしまった。


………うーん、となると俺は事故に巻き込まれて大怪我でも負ったのか?にしてはこの状況がよく分からん。あれ程の規模の事故なのだ。怪我人はすぐさま病院に搬送されているはず。だが今の俺は何と言うか、例えるならばに包まれているような感触なのだ。どう考えても病院ではない。

 となれば、俺は死んでいて噂の転生でも果たしたか………そう考えれば色々説明がつく。今の俺は胎児であり、俺を包んでいる温かい肉は母体………なのだろう。自信はないが。

 というのも生まれる前の赤子という存在なのに、なぜここまでの思考力あるのだろうかという疑問があるからだ。まぁ、そこら辺は深く考えるだけ無駄というやつだろう。俺は会社員であって、研究者ではないのだ。

 いずれにせよ自分の目で見て現実を知る以外、現状を理解する方法がない。俺はその時が来るまでジッと色々妄想を膨らませながら、のんびり過ごそう。そう心に決めたのだった。



〜ルバーヌ樹海 南部〜


 あの時心に決めてから数時間で俺、爆誕。うん。俺の決意(笑)を返せ。

 

 母親の体から無事生まれた俺であるが、非常に困っていた。一応言っておくが、長時間の暇と格闘する決意が無駄になったことは一切関係ないぞ。

 と、茶番は置いておくとして、俺が困惑している理由は俺の目の前には子供くらいの背丈に緑色の肌、薄汚れた腰布を巻いたファンタジーの定番、ゴブリンの群れがいたからだ。

 状況を素直に受け取れない俺は当然思考停止したとも。足りない頭であれこれ考えたが、行き着く先は………


”異世界転生したらゴブリンだった件”


だろうか。もうちょい捻りが欲しいが、想像してほしい。

 意識を失って目を覚ましたら、人じゃなくてゴブリンがうじゃうじゃいて、生まれたばっかの俺によく分からん鳴き声で話しかけてくるわ、母親らしきゴブリンが気持ち悪い見た目の芋虫を食わせてくるんだぜ??

 発狂しないで冷静?でいる俺を褒めてほしいぐらいだ。ん?それと語彙力のなさは関係ないだろって?そこは考えちゃいけないよ?分かったね?

 

 ともかく、俺は推定異世界にたぶんゴブリンに転生してしまった。………ゴブリンだよね??



〜3日後〜


 あー、どうか夢なら早く覚めてくれ。ゴブリン生3日目にして心が折れそう。赤ちゃんゴブリンの俺だが出来ることが少ない上に、食事は虫、そして不衛生な環境が、現代社会を生きてきた俺のメンタルを破壊してきていた。


”早いとこ慣れないとなぁ”


 ゴブリンになってからずっとそう思っている。自然と出る溜息の大きさが生まれて3日目の俺の精神状態を表している。


『ゲギャギャッ!ギャギャ!!』


 俺の溜息を掻き消すように、群れで見張りをしているゴブリンが叫び声を上げた。この鳴き声なら、たぶん狩りに出てた長たちが帰ってきたのだろう。

 俺の予想通り、早朝から狩りに出てた長率いる雄ゴブリン約20体がそれぞれ手に獲物を持って帰ってきた。多くは兎?たぶん兎。角生えてるけど。とにかく兎を手に持っていたが、長だけは大きな鹿を引きづっていた。

 この長なのだが、ゴブリン集落の中でずば抜けてガタイがデカい。人間で例えるなら普通のゴブリンは小学校低学年、中学年くらいだが、長は中学生くらいの大きさなのだ。

 その上、怪力。岩を握りつぶすし、役に立たないゴブリンを平気で殴り殺すし。怖い怖い。たぶん大人になったら俺も狩りに出るだろうし、今のうちに鍛えておくか、さっさと逃げたいのだが…………赤ちゃんのうちは無理だな。


 しかし、そんな俺の気持ちを余所にすくすく成長していく体はわずか1ヶ月程で大人ゴブリンになってしまったのだった。

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