第31話:ドウカ、貴方ノ未来ニ、沢山ノ幸セガ訪レマスヨウ

 電子ロックで施錠されていたスタッフ用通用口をジャッジの散弾でこじ開け、階段を上っていく歩。

 すると観光スポットとして作られた展望デッキとは真逆の、無機質で工場の設備のような建物が現れた。

「ここか……」

 仮設住宅のようなその建物の中に入る歩。

 建物の中にはいくつもの物々しい電子機器が設置されており、その中央には大量の爆薬に繋がれたソフィアの元ボディーが置かれていた。

「ソレ以上近付イテハイケマセン」

 歩を察知した元ボディーが素早く稼働し、歩に対して警告を発する。

「お前は……」

 歩は時限爆弾のリモコン扱いにされたその無惨な姿を憐んだ。

「私ハ、ソフィア・ウパニシャドノ、コピーAIデス。コウ・キュウキ様ノ命ニヨリ、都内全域ノアムリタヘ信号ヲ送信シテイマス」

 歩はコピーソフィアの話を聞き、爆弾の解除もそうであるがまずはコイツをなんとかしなければと、ジャッジを構えた。

「申シ訳ゴザイマセンガ、抵抗サセテイタダキマス」

 コピーソフィアがそう言うと部屋の天井隅に設置された電極から電磁波が照射される。

 それは歩を中心に共振し合い、強力な電磁場を形成した。

「がああああああ!?」

 歩はその電磁結界に囚われ、肉を焼かれていった。


 歩がコピーソフィアの罠に陥っていたころ、展望フロアで拘束されていたコウは逃げ出す方法を考えていた。

「くそっ! こんなところで終わってたまるか」

 あと数分もすれば警官隊が到着し、捕縛されてしまう。

 隊員たちが戦闘不能になってしまい、コウは窮地に立たされてしまった。

 それもこの手に嵌められた手錠を解かなければなにも始まらないと辺りを見渡す。

 コウは仮死状態で倒れているソフィアに目が行った。

「全身が高濃度のBETA細胞であると言うのなら……」

 なにかに気付いたコウは、冴島に斬りおとされ、闇医者につなげてもらった手首を渾身の力で引っ張った。

「があああああああ!!」

 癒着し切っていない手首は、骨を接合したボルトを砕き、ブチブチと音を立てて再び離れた。

 激痛に耐えながら、拘束から抜け出したコウは意識の無いソフィアの元へ歩いていく。

「はぁ、はぁ、その血肉、もらうぞ……」

 コウはそう言うとソフィアの頸動脈に噛みついた。


 首都圏内の警察機能が回復し、桐谷が駆けつけた警官隊と共に展望フロアに到着したのは歩が送信機室に向かった少し後であった。

 犯行声明の内容を元に、まずは人質保護が最優先と意気込んでいた桐谷たちであったが、展望フロアのその惨憺たる光景に絶句した。

「酷い……人質なんて最初から取る気が無かったんだ……」

 警官隊の一人が血の海と化した展望フロアを見て悔しそうに言葉を漏らす。

「ああ、彼らの目的は最初から歩くんとソフィアちゃんだったんだ。彼らさえ手に入れば僕たち警察なんて相手にすらならないと端から嘗めてたのさ」

 SIGを構えながら慎重にフロアを進む桐谷は、嗚咽を漏らす警官隊たちにコウたちの目論見を解説する。

「わ、我々だけで制圧できるのでしょうか?」

 最前列で大盾を構える隊員が不安そうに桐谷に尋ねる。

 その時、スカイツリーの主柱の影から、人影が現れた。

「動くな! 警察だ!」

 大盾を組んで陣形を整える警官隊とその後ろでSIGを構える桐谷。

「はぁああ……」

 現れた人影は首から血を流し、意識を失っているソフィアと、それを担いだコウ・キュウキであった。

 自ら切断した手首はすでにつながっており、その顔には紋様が浮かび上がっていた。

「な、なんてことだ……」

 ソフィアは高濃度のBETA細胞で構成された人造人間である。

 歩がソフィアの血を体内に注がれて理士となったように、その血肉を摂取したコウも理士となったのだ。

 さらに深刻なことに、桐谷はカーラクータ弾頭を歩に全てを渡してしまい、手元には注射型のものがひとつだけしか残っていなかった。

 自分たちの置かれた状況を瞬時に察した桐谷は、絶体絶命の窮地に戦慄した。

「ああ、実に気分が良い。これが不死身の肉体か」

 コウは自身の身体に漲る力に恍惚とする。

 隆々と盛り上がる自らの筋肉を美しそうに眺めていたコウは、警官隊に気付くとソフィアをまるで上着を放り投げるように捨ててマチェーテを構えた。

「目標健在! 全員銃器使用許可! ソフィアちゃんに当てるな!」

 桐谷の掛け声と共に、警官隊が一斉に発砲を開始する。

 それを予期していたコウは警官隊の視線から弾道予測を行い、放った銃弾を全て避けながら間合いを一気に詰めた。

 コウがマチェーテを横薙ぎに一閃する。

「さぁ、第3ラウンドと行きましょう」

 大盾を構えた隊員ひとりの首がごとりと地面に落ちたと同時に、コウは恍惚とした表情でそう言い放った。


 マチェーテと警棒のぶつかり合う音がフロアに響く。

 桐谷は理士となったコウ・キュウキの剣劇を、警棒とすでに弾切れになったSIGを十手代わりにしてなんとか凌いでいた。

 辺りにはコウの苛烈な斬撃により腕や足、首を切り落とされた警官隊が無惨に横たわっている。

「くはははは!! どうしました、日本の警官たち!? そんな弱腰じゃ悪党一匹殺せませんよ!?」

 残り一人となった桐谷相手に、コウは弄ぶようにわざと加減した斬撃を浴びせる。

 それでも桐谷には受け凌ぐだけで精一杯であり、一撃受けるごとに顔を歪ませた。

「このっ……!」

 苦し紛れに反撃に出る桐谷。

 しかしコウはそれをまさに赤子の手をひねるようにいなし、足をかけて桐谷を転倒された。

 無様に地面に転がる桐谷を見て、コウは腹を抱えて笑う。

 転倒し、這いつくばっていた桐谷は周囲に武器が無いか探す。

 仮死状態の隊員の装備にコンバットナイフを見つけ、それを抜いて立ち上がった。

「ありがとう、十分楽しめました。貴方も送ってあげますよ、あの刑事のところへね」

 警官隊と桐谷をいたぶり、ソフィアによって崩壊した自尊心を取り戻したコウが慇懃無礼に謝辞を述べる。

 その言葉を聞き、桐谷は顔を強張らせる。

「……やっぱりアンタだったんだな。赤羽警部を殺したのは」

 息を切らしながら、半身の防御姿勢を取る桐谷。

 その拙い構えを見て、コウはさらに面白おかしく嗤う。

「ええ。楽しかったですよ」

 コウはニヤニヤと笑いながら答える。

「……そうか。なら俺も、もう躊躇するのを止めるよ」

 嘲笑うコウを見て、桐谷の中で何かがプツリと切れた。

 この瞬間、桐谷はコウの捕縛を放棄したと共に、懐から小瓶を取り出した。

「それは……!」

 桐谷が取り出したものは、ソフィアが歩に与えようとして適わなかった、立石から受け取ったBETAのコピー品であった。

 それを桐谷は一息に飲み干す。

 桐谷の身体に紋様が浮かび上がり、瞳が蒼くぼんやりと光る。

「さぁこれで五分と五分。第4ラウンド、開始だ」

 桐谷はそう言うとナイフを捨て、徒手で来いとコウを手招きして煽る。

「なめるなよ……矮小な日本人風情が」

 桐谷に煽られたコウはギリギリと歯ぎしりをすると、マチェーテを捨てて桐谷に飛びかかった。

「うぉおああああ!!」

 コウの突進に合わせ、桐谷も気合いの掛け声と共に間合いを詰める。

 一合目。コウの放った左の崩拳を合気道の体捌きでいなした桐谷はカウンターの掌底をコウに放とうとする。

 しかしコウの体捌きの方が桐谷のそれより優れており、桐谷の掌底よりコウの左拳を戻す動きの方が速かった。

 左拳を戻したコウは蹴り足にしていた右足を前に踏み込み、ボクサーがアッパーカットを撃つように上体を捻り、右拳の二撃目を桐谷の鳩尾に見舞った。

「げぇっ!?」

 カウンターのカウンターになったその打撃は桐谷を数メートル吹き飛ばす。

 しかし桐谷は倒れることなく踏ん張り、コウをキッと睨みつけた。

 その表情にコウも応え、間合いを詰めるため駆け出す。

 二合目。桐谷はボクシングの構えでコウの突進を迎え撃つ。

 コウの足運びを観察し、自分が先手になるタイミングを見計らい、桐谷は飛び出し、格闘技最速の打撃技、左ジャブを放つ。

 しかし警察学校でも、卒業後でも訓練自体は行っていた桐谷であったが、その道何十年の相手には通用せず、ジャブが伸びきるタイミングに合わせてコウはカウンターを決める。

 コウの助走と体重が乗った崩拳は、身体が開いていても十二分に威力で桐谷の胸骨を撃ち抜いた。

「げふっ!」

 衝撃が骨を貫き、内臓を傷つけ、桐谷は口から血を噴き出す。

 桐谷が倒れないようにコウは彼の右足を踏んで支えると、拳による連撃をお見舞いする。

「ハイー! ハイハイ!」

「がっ! ぐっ!」

 折角の玩具が壊れないよう、注意深くいたぶるコウ。

 すでに満身創痍であった桐谷は、胴体にある幾つもの急所を撃ち抜かれ、その度に血を吐いた。

「ハイイイイイ!!」

 フィニッシュブローの崩拳を桐谷に放つコウ。

 桐谷は展望フロアの端まで吹き飛ばされ、展望用の手すりにしがみついてなんとか倒れるのを防いだ。

 桐谷の後ろには、先ほどソフィアが電磁投射砲で開けた風穴が広がっている。

「ぜぇ……ぜぇ……」

 息も絶え絶えであった桐谷であったが、それでもなお、唾を吐くように口の中に溜まった血を吐き捨て、コウを挑発するように手招きした。

「そろそろ負けを認めたらどうですか?」

 飽きてきたコウは、桐谷を突き落として終わりにしようと彼の元に近づく。

 桐谷は手すりにしがみつく振りをして手をコウに見えないように隠すと、腰から手錠を取り出した。

 それを悟られぬよう、桐谷は朦朧とする意識の中、コウへの手招きを続けていた。

「いい加減しつこいですよ、あなた?」

 桐谷の元に辿り着いたコウは、彼を風穴から突き落とそうと、襟元を掴む。

「……民の安全を……」

 その瞬間を狙い、桐谷はコウの腕と自分の腕を手錠でつないだ。

「なっ!?」

 コウは桐谷の思惑に気付く。

 散々甚振られてきたのは、コウを自分ごとこの風穴から落とすためであった。

「市民の安全を守るのが」

 桐谷はニヤリと笑い、

「俺たち警察官だ!!」

 そしてコウを道連れに地上350メートルから飛び降りた。

「うわぁああああああ!!」

 錐揉みするように、忙しなく体勢を入れ替えながら落下していくコウと桐谷。

「ば、バカな!? イカレてるのかこの日本人!?」

 いかに理士と言えど、この高度から落ちたら修復能力は追いつかない。

 しかし相手をクッションにすれば生き残る可能性はある。

 その可能性に縋り、二人は縺れ合うように落下していった。

「私と心中して一丁前に殉教者気取りか!! こんなバカなことを考えるから日本人はおろかなんだ!! こんなことをしても何にもならない!! 私が生き残ってお前が死ぬ!! それだけだ!!」

 コウは桐谷へ罵声を浴びせる。

 桐谷はそれを無視し、腰に着けていたシェルベルトから注射器を取り出した。

 それは対BETA不活性剤、カーラクータ。

 桐谷はそれをコウに注射する。

「なっ!? 私になにを打った!?」

 コウは注射された首筋を押さえる。

「ふっ、ふふふふふ……」

 不気味に笑う桐谷の顔を見て、恐怖を覚えた。

「これでもう、お前は理士じゃない」

 勝利を確信した桐谷が冷たく笑う。

「なっ!?」

 桐谷の言葉に驚き、コウは自身の身体を確認する。

 全身に浮き出ていた紋様が、水が引くように消えていくそのさまに、コウは恐怖する。

「お前が生き残って俺が死ぬんじゃない。どう転んでもお前は死ぬんだ」

 そう言うと桐谷は自分の頭と胴が保護されるようにコウにしがみつく。

「くそっ! なんてことをしてくれたんだ! このクソ日本人が! 放せ!」

 コウは必死に抵抗するがすでに常人となったコウに、理士となった桐谷を振りほどくことは敵わなかった。

「ヨウさんの仇、取らせてもらうぞ」

 地上が迫る。

 桐谷は背広のポケットから赤羽のジッポを取り出し、祈るように握りしめた。

「い、嫌だ!! 死にたくない!! 死にたくな」

 コウの命乞いの叫びがドップラー効果のように響き、二人は地上に激突した。


 どさりと固体が落ちたと言うよりは、水風船が破裂したような音が響き、二人の落下地点には血がペンキをこぼしたように広がっていた。

 少し時間が空いて、むくりと上体を起こす人影がひとつ。

 それは煙草に火を点けた桐谷だった。

 両足と片腕が吹き飛びながらも、なんとか生還を果たした桐谷は、勝利の煙を吐き、そして再び倒れた。


――同、スカイツリー、送信機室内

「があああああ!! うあああああああ!!」

 電磁結界から照射されるマイクロ波で、歩の肉体の水分が瞬く間に蒸発していく。

 水分子が振動した際に生じたエネルギーが、歩の肉体を焼き焦がす。

 肉の焦げる臭いが、辺りに充満した。

「電磁力ヲマダ操レナイ貴方ニ、コノ結界ヲ破ルコトハ出来マセン。降伏シテクダサイ」

 送信機に組み込まれたコピーソフィアは、送信室に取り付けた機械からマイクロ波の照射を続ける。

「ああああああ!!」

 水分子の蒸発とタンパク質の変質により、歩は身動きが取れなかった。

 視覚はブラックアウトし、鼓膜は破裂。

 顔の穴と言う穴から、血が流れ出ている。

 激痛だけが、歩の身体を駆け巡っていた。

「アト30秒デ、貴方ハ絶命シマス。降伏ヲ推奨シマス」

「うわああああ!!」

 死に瀕した歩の脳内で、走馬灯のように様々な記憶が奔流する。


 歌舞伎町銃撃事件で目の前で撃たれたヤクザの死体。

 車で轢いてしまい損傷したロボットのソフィア。

 トー横でシュルティに殺されるピースメーカーたちとシュルティの遺言。

 ヒーローと祭り上げられ、記念撮影をせがまれた夜。

 家が襲撃され、拉致された賀茂村で出会った加藤とみくる。

 BETAを取り戻すため、爆走した高速道路。

 爆炎があがり、銃弾の雨が降り注ぐ中、不敵に笑うミン・シユウ。

 自分たちを逃がすために身を挺した赤羽の後姿。

 そして彼の葬式。

 心が死に、廃人のようになった真理。

 そして動かなくなった彼女の身体と、頭から広がる血だまり。

 死体。

 死体。

 死体。

 死体ばかりが歩の脳を駆け巡った。

 死がそこまで来ていると、歩は感じた。

 誰かが自分の顔を撫でるような感覚を得た。彼はそれを死神だと思った。

 聞こえるはずの無い声が届き、とうに潰れた眼球が眩い光を捉えた。

 光の先には一面に広がるネモフィラの花畑と真っ青な空、そこでいのりが笑いかけていた。

 その光景が流星のように粒子となり身体をすり抜けていく。

 光速ですり抜けていくさまは、あたかもブラックホールに光が吸い込まれていくようで、歩の目の前には宇宙のような光景が広がった。

 そして歩は約束を思い出す。

 宇宙に行くと。

 だから死ぬわけにはいかない。


 見えるはずの無い眼で、コピーソフィアを睨みつける歩。

「ぬぉおおああああ!!」

 電磁結界から奪取しようと、歩はもがき、雄叫びを上げた。

 その時、全身の紋様が蒼く光を放つ。

 歩の身体は逆位相の電磁波を発生させ、コピーソフィアの電磁結界を消失させた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 力尽き、虫の息でばたりと倒れる歩。

 全身から蒸気が立ち上り、BETA細胞が彼の身体を修復していく。

「リシトシテ、真ニ覚醒シタヨウデスネ。オメデトウゴザイマス」

 コピーソフィアはそう言うと爆弾を解除する。

「もう、一歩も動けない……俺の負けだ……」

 擦れた声で、敗北を認める歩。

 しかしコピーソフィアの反応は彼が思っていたものと違っていた。

「イイエ。先ホドコウ・キュウキ様ノ死亡ガ確認出来マシタ。貴方ノ勝利デス。爆弾ノ停止ト、停止電波送信ハ私ガ行イマス」

 コピーソフィアがそう言うと、括り付けられていた爆弾のタイマーが停止し、送信機室の機材が一斉に停止電波を送信した。

 停止信号がスカイツリーから都内全域に発信される。


 アムリタによって暴徒と化していた人々は次々と気を失い、倒れていった。

「やったのか、ボン……!」

 総理大臣官邸前を防衛していた冴島が、その変化に気付き、歩たちが成功したことを確信した。

 鉛のように重い身体に鞭打ち、ヨロヨロと歩が立ち上がった。

「なん、で……?」

 今にも倒れそうな身体の平衡感覚を保ちながら、歩はコピーソフィアに歩み寄る。

「博士以外ニ、覚醒シタリシヲ見ラレテ、満足シマシタ。モウ私ガ存在スル理由ハ、アリマセン」

 コピーソフィアは心情を吐露する。

 コウとミンよって命令され従わされていた彼女であったが、そのミンは捕まり、コウも死んだいま、彼女が命令を遂行し続ける理由は無くなった。

 そして歩が真に理士として覚醒し、その役目も終わったと悟ったのであった。

「私タチノセイデ、沢山ノ人々ガ傷ツイテシマイマシタ。ソノ罪ハ私ガ背負イマス。オ疲レノトコロ恐縮デスガ、私ノ破壊モオ願イ出来マスデショウカ?」

 コピーソフィアは歩に自分の破壊をお願いする。

 それは無理やりとは言え、一連の騒動によって多くの人々が傷つき、そして命を落としてしまったことへの、彼女なりのせめてもの贖罪であった。

「……わかった」

 コピーソフィアの前に立った歩は、神妙な面持ちで彼女の申し出を受け入れた。

 複製された人格とは言え、彼女も元を辿れば人間であった。

 その彼女が殺してくれと懇願するさまに、歩はソフィアも心の奥底ではそう思っていたのかと涙を流した。

「アリガトウゴザイマス」

 コピーソフィアは頭を下げてお礼を言う。

 つい数日前のことなのに、彼女のその所作に歩は懐かしさを覚えた。

 歩が手をかざし、力を込めると紋様が少しずつ光り始めた。

「……貴方ノオ側ニイル私ハ、良クシテイマスカ?」

 歩の電撃が溜まるまでのほんの少しの間、二人は言葉を交わす。

「ああ、いつも助けられているよ」

 あの頃と同じように話すコピーソフィアに、歩はソフィアを重ね、悲痛な表情を浮かべる。

「ソウデスカ。末永クヨロシクオ願イイタシマス」

 電撃が溜まり、紋様が眩く光を放つ。

「それじゃあな」

 歩の全身からスパークが生じ、それがかざした手に集まっていく。

「ドウカ、貴方ノ未来ニ、沢山ノ幸セガ訪レマスヨウ」

 コピーソフィアは祈るように手を合わせ、歩に別れの言葉を告げた。

「ありがとう」

 そして歩の手から、電撃が放たれた。

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