第3話 幻想

二人はSNSで出会った。


毎夜、自作の詩を連投している彼女に、彼がメッセージを送ったのが始まりだった。


純粋で、やるせなく美しい言葉の数々。彼女の紡ぐその世界観に、彼は何故だか、胸をえぐられた。


子供の頃見た情景や、感じたこと、誰にも言えない孤独など。彼女は、彼の言いたかった事を自由自在に表現していて、いつの間にか彼は、彼女に強く共感するようになったのだ。


彼女と会ってみたい。


彼は思い切って、美術館に誘ってみた。すると、何度かメッセージをやり取りしていた彼女は、二つ返事でOKしてくれた。


二人は、互いの事はほぼ何も知らずに出会った。ただ、瑞々しい感性のみを手掛かりにして。


直ぐに、お互い似たもの同士だ、と直感し、意気投合した二人は、二度目のデートで正式にお付き合いをすることになった。


二人の交際は順調に進み、段々と相手の事が分かってきた。二人は、それぞれの生い立ちにとても魅力を感じた。

もっとも、彼女は自分の過去をあまり悪くは言わなかった。


彼女は、彼より六つも歳上だったが、童顔もあってか、さほど見た目も違和感は無く、二人で居ると本当に心地が良かった。


彼は大学を卒業後、無事に内定通りに証券会社へ就職し、彼女と一緒に住む為の小さなマンションを借りた。


会社では、最近ブラック就業が見直され、週末の休みは何とか取り易くなっていた。


二人は何時も寄り添っていた。


夏はきらめく海へ旅行に行った。

素晴らしい日々だった。


秋の初めに、彼女の思わぬ妊娠が分かった。二人は最初は動揺したが、新しい命を大切にしたい、と意見が一致して、入籍する運びとなった。


当初、双方の親が難色を示したが、二人は誠意を持って説得した。

佳き日に結婚届を区役所に提出して、晴れて夫婦となった。


二人の価値観は、生い立ちにそぐわず何時も一致していた。


彼は、幸せだった。


(子が産まれたら、競争社会に参加させず、純粋な彼女のように、のびのびと育てよう。


男でも女でも、幼少期は絶対に本人の自由にさせて、感性豊かな人に育って欲しい。)


彼女も、幸せだった。


(子が産まれたら、格差社会に負けずに、純粋な彼のように、のびのびと育てよう。


幼少期から良質な教育を山ほどして、博学で優しい人に育って欲しい。)


「「ねぇ、子供が産まれたら、のびのびと育てようね!」」


またもや意見の一致した二人は、未だ見ぬ、我が子を抱く日を夢見て、希望に胸を膨らませるのだった。


fin






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二人の幻想 つきたん @tsuki1207

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