アル君とライラ 修行の終わり

「見違えるほど痩せたな。ライラ」


「何が言いたいのアル」


「いや褒めてるんだよ」


 俺と一緒に走るライラに俺は素直な感想を言う。


 ライラがモア様の屋敷に来て一年···俺とライラは切磋琢磨しながら互いを高め合った。


 俺はライラの鍛錬相手を努めながら、筋トレ等の肉体的なメニューを組み、ライラは俺に礼法を教えた。


 互いの足りない部分を補う関係で、ステム王国の政情なども彼女の分かる範囲で教えてもらった。


 傲慢なお嬢様という印象は一ヶ月も経過すると無くなり、努力を怠らない人物だと俺は彼女を評価した。


 自身の過ちをしっかりと認めるし、最初はギクシャクしていた魔族や他種族の人達へも次第に打ち解けていったし、料理の手伝いを始めるという驚くべき成長もしていた。


 彼女曰く料理は本人が作るのは珍しいが、貴族の趣味としても成り立つのだとか。


「貴族の趣味ってなんだ?」


 気になったのでライラに聞いてみる。


「一番はコレクションね。希少な物をこれだけ集められるという財力の顕示にもなるし、社交界でも噂されるわ。次に食道楽。食事はどれだけ腕の良いシェフを用意できるか、領内に住まわせるか、懇意にできるかが大切ね」


「他に定番は魔法、テーブルゲーム、音楽等の芸術なんかも人気ね」


「魔法以外は戦闘系の趣味を磨くことはしないんだね」


「そうね」


 ここでの生活だと、俺含めた子供達の楽しみは、食事と魔法を使った遊び、それに書庫の物語くらいだろうか? 


 勿論狩りとかも楽しいけど娯楽と呼べるのか? 


「そう言えばアル。魔糸を使った変則機動は習得できたの?」


「だいぶ形にはなってきたな」


 ライラが言う魔糸を使った機動とは魔糸を地面や木々等に刺して足場を作り、そこでジャンプしたり、糸を握って宙ぶらりんになったりと曲芸師みたいなことを思いついて試していた。


 もっとわかりやすく言うと蜘蛛の巣だ。


 手から魔糸を伸ばし、それを引き寄せることで移動したり、蜘蛛の巣の様な足場を作ることで空中に浮いているように見せたりと色々な事ができる。


「身体強化の魔法を同時に使わないと今は危ないけどね」


「そんなに機動力って大切なの? 魔法使いの戦いって魔法使いは極力動かないで魔力操作に集中するのが普通じゃない?」


「それは『バリア』の魔法が連発できる奴がする戦い方だろ? 俺みたいな平均値やや上くらいの魔力総量しか持たない奴はいかに魔力を節約するかが勝負の分かれ目になるんだよ」


「まぁ事実私はあなたに一度も勝ててないからその理論は正しいわね」


「だろ? まぁ俺の戦い方は冒険者になるための戦い方だ。貴族の決闘とか戦争で活躍するための戦い方じゃねぇからな」


「でもそれだけ魔糸の扱い方が上手ければ活躍できるんじゃない? モアさんにも魔糸の扱いは上手いって褒められていたじゃない」


「まぁ魔糸を戦術の中心に組み立てているからな」


 魔糸の性質は前にも言ったが、属性を加えることで更に進化する。


 火魔法を組み合わせれば燃える糸や糸を突き刺した対象に熱を伝えて内部から燃やすということもできる。


 水の魔法は糸の色を変えたり、魔糸の中に水を入れることで魔糸の太さを調節することもできる。


 太い魔糸は切れ味は落ちるが足場の安定性を向上させたり、弾力があるのと燃えないのでその性質を使って色々な事ができないか試している段階だ。


「本来魔糸って傀儡を動かす魔法じゃないの?」


「まぁそうだが、傀儡を俺はこだわりたいからな。素材をね」


「ふ~んそういうもんか」


 とはいうものの俺は傀儡の勉強もしているが、そこまで熱意があるかと言うと違う。


 モア様の傀儡を見せてもらった事があったが、それは芸術品とも言えるもので、まるで生きているかのようであった。


 モア様は彷徨う甲冑という魔物の更に上位種から奪い取った魔法の甲冑を傀儡に着せて戦わせていたらしいのだが、傀儡を操るのはそこそこの魔力を消費してしまう。


 今の俺が操れる量は多くても十体。


 滑らかに動かすとなれば三体が限界だろう。


 俺からしたらコストが悪い様に見えてしまう。


 勿論傀儡が居たほうが便利な場合もある。


 ダンジョンでの荷物持ちとかは傀儡を使えば多くの荷物を運搬することができるからだ。


「ライラはどうなんだい? 土魔法でゴーレムが創れるんじゃないかい?」


 ライラの得意な魔法属性は土と水···故に土魔法のゴーレム錬成や土と水を掛け合わした泥や彼女の才能がなせるのか植物を生み出すという魔法も得意としている。


 モア様曰く植物を生み出す魔法を扱えるのは並大抵の素質ではなく、大陸にいる全魔法使いでも百人に満たないらしい。


 彼女が天才なのはモア様の教育を受けたとはいえ、一年で習得した学習能力の高さもあるだろう。


「ゴーレム私が作ると硬度が足りないのよね」


 まぁその足りない硬度を植物で関節を補強することでゴーレムらしからぬ靭やかな動きを実現していたが···


「私だとゴーレムに焼入れができないのよね」


 焼入れ···ゴーレムの表面を火魔法で硬度を上げる技法であり、その為ゴーレム使いは火魔法と土魔法の二属性の適性が高いほど強いゴーレムを創りやすいと言われている。


 土魔法単体で強いゴーレムを創り出す変態もいるらしいので一概には言えないが···ライラはその域には達していない。


「まぁ私的にはゴーレムよりも植物魔法を極めた方が良いと思うのよね」


「そこは人それぞれだろ」


 こんな感じで魔法についての雑談をするのも日課になっていた。








 モア様は時折子供を拾ってくる。


 数年前までは俺が最年少だったのに、今では真ん中くらいで下の子供もだいぶ増えた。


 流石に俺みたいな赤ん坊を拾ってくるのは稀だが、五歳くらいの子供をよく拾ってきては、俺や年長者にメイドや執事達が彼ら、彼女らの世話をする。


 ライラはそういった子供に最初はどう接してよいかわかっていなかったが、次第に年下の子供達に人間の貴族のお話を聞かせたり、書庫に無い物語を教えたりしていた。


 もう少しで俺とライラはステム王国に戻る事になるが、ライラは二年間にも満たない時間でだいぶ性格が丸くなったと思う。


 我儘は鳴りを潜め、思慮深くなり、淑女に相応しい人物に成長したと俺は思う。


 痩せた事で顔や体がスリムになり、元々素材は良かったのが、最大限生かされているように感じる。


 引き締まったお腹、同年代と比べると少し大きめの胸、大きなお尻や太ももにはハリがあるように感じる。


 ここでの生活では動きやすいようにズボンを着用していたが、部屋着の女子らしい服装を見た時には少しドキッとしてしまった。


「私が気になるのかなアル?」


「ま、まぁ最初の頃より綺麗になったなって思ってな」


「最初は不細工ってこと!?」


「そうは言ってないだろ!」


 このやり取りもお約束である。


 そんなやり取りをしているうちに時間は過ぎてモア様に呼ばれ、俺達はこの屋敷から出発することとなる。











「モア様、お世話になりました」


「アル、大きくなったね。少し前までオムツを変えていたのが懐かしく感じるよ」


 俺はモア様と別れの挨拶をする。


 一生の別れでは無いと思うが、ステム王国の学園に通えば六年間はそこで教育を受けるし、手紙も魔族の国のマギマ王国には人間の国であるステム王国からでは出すこともままならない。


 学園では手紙の内容の検閲もしているので多分無理だ。


「ライラも修行によく耐えたね。あなたの魔法の能力ならば学園でも上位に食い込めると思うわ」


「ありがとうございました。魔王モア」


「ふふ、そんな二人にプレゼントよ」


 モア様は俺達に小さな箱を渡した。


「これは?」


「開けてみなさい」


 モア様に言われて開けてみると、中には指輪が入っていた。


「魔法使いは杖等の媒体を使うことでより強力な魔法を使うことができるわ。この指輪もそうよ。アルは表向き貴族では無いし、学園ではライラの付き人として生活することになるから杖を持つことが許されないと思うの。だからこの指輪を渡しておくわ」


「「ありがとうございます」」


 俺とライラはモア様にお礼を言う。


「あとアルにはこれを」


「これは?」


「髪染めと色の入った眼鏡ね。アルは第二王子と双子で瓜二つなのだから顔が似ているだけでトラブルに巻き込まれるかもしれないわ。従者が眼鏡を付けていても気にする人は皆無だし、髪色も変えていればバレることは早々無いと思うわ」


「ありがとうございます」


 俺は眼鏡を付ける。


 色の入っているので少し視界に違和感を感じるが不快ではない。


「じゃあ行くわよ」


 俺達はモア様に連れられてトロン子爵の屋敷に転移するのだった。

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