アル君 先輩達の旅立ちを見送る

 魔法とは発想力であるという言葉があるように、便利な魔法は数多くある。


 地図の作成を更に楽にする『マッピング』という魔法や、敵や味方の位置を把握できる『サーチ』という魔法を覚えることができた。


 これを最初から覚えておけば、地図作りを3ヶ月かけて覚えなくても···なんて思うかもしれないが、無魔法は持っている技能を更に便利にする魔法が多いため、まずはしっかりと基礎を覚え、それから便利な魔法を覚えるほうが無魔法の習得は楽なのだとか。


「魔法もまた技能だ。基礎ができないで上位の魔法を覚えようとすると威力が違ったり、制御に失敗して痛い目を見ますよ」


 そう言うのはエドガー様で、エドガー様は肩に大きな切り傷の跡があり、幼い頃魔法の制御に失敗して大怪我をしたらしい。


 魔法は便利であるが、一方で簡単に人を殺せる凶器でもある。


 使い方次第···だから教育をしっかり受けられる貴族しか魔法は覚えないのかもしれない。


 そういう見方もできるのも事実だ。









 今年は多くの子供達が旅立つ。


 フーロ姉さんを含め六人の子供達がこの屋敷から出ていく選択をした。


「姉さん、兄さん···」


「アル、そんな一生の別れじゃないんだから泣かないの」


「そうだぜアルも冒険者になるんだろ? 俺達が先輩冒険者として鍛えてやるからよ」


 そう言うのはバゼルの兄貴で、モア様から貰った大剣を担いでいる。


 フーロ姉さんやバゼルの兄貴含めた六人はそのままパーティーを組み、近くの街で同じ境遇の先輩達のクランに合流するらしい。


「モア様、お世話になりました。必ず恩返しできるように頑張ります!」


 フーロ姉さんがモア様に別れの挨拶をする。


「程々で良いよ。余裕ができてからね。絶対に無理をしてはいけないよ。君達が無理をして死んでしまった方が悲しいからね」


「はい!」


 モア様らしい優しい言葉で彼女らを見送った。


 行商人の親父が彼らを荷馬車に乗せて、旅立つ。


 それから屋敷に行商人が来る事にマメなフーロ姉さんが近状を事細かく書いてくれた。


 モア様が俺達にもその手紙を見せてくれる。


『寒春の月、私達は行商人のおじさんの馬車に揺られること3日で近くの街のエープルに到着しました』


『エープルではハーフエルフの私も歓迎されて、冒険者ギルドで冒険者の試験を受ける手続きをしました。冒険者になるには年に四回ある冒険者の試験を受けなければなりません』


『私達は冒険者の試験開始日までまだ時間があるので先にクランの方に顔を出しました。私達の知っているお兄さんやお姉さん達もクランに居ました。皆、屋敷に居た時よりも大きくなっていてびっくり』


『クランのリーダーは今年で四十八歳になるガトーさんで、奥さんのヒルダさんとクランを運営されています。クランは【パラフル】という名前で、力強いとか強力なを意味するそうです。最初はピースフルという平和を意味する名前で活動していたそうですが、悪い冒険者に弱そうな名前だとターゲットにされて流血沙汰になったことから今の名前になったそうです』


『クランですが冒険者だけが所属している訳ではなく、パン屋や鍛冶屋、防具屋等の他の職業に就かれている人も参加しています。共通点はモア様を慕う者達の集まりで、モア様の子供達もしくはエープルで育った者で構成されています』


『ガトーさんの息子さん達みたいにモア様の子供ではない人もクランに参加していますし、二世代目や三世代目の方もいます』


『話が逸れましたね。冒険者になるための試験は一生で一度しか受けられません。落ちればそれで終わりですし、試験期間中受験者は宿や宿の食事は無料になります』


『なので街に出てきて働く為に受験だけ受けて宿と食事を浮かし、その間に職業を決めるという事をする人も居るんだとか』


『クランに参加できたので先輩達から試験の内容を聞きましたが、冒険者ギルドの仕事を受けるか小規模のダンジョンに潜り、魔物を殺したりして銀貨二十枚を集める事が合格の基準だそうです』


『クランに所属しているので先に自分達の能力を先輩達に見せて適切な仕事を引っ張ってきてサポートしてくれるそうです。あとは効率の良いダンジョンやその地図、出てくる魔物の情報も教えてくれました。手紙が届く頃には試験を受けていると思うので合格できるようにがんばります!』


 と書かれていた。


 貨幣は鉄貨、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、白金貨がある。


 銀貨十枚が商人見習いの賃金とされ、銀貨百枚で金貨と交換され、金貨数枚で荷車と馬が買えるとされている。


 一食がだいたい銅貨一枚から五枚で、銅貨十枚で大銅貨となり、大銅貨一枚が食事付きの宿で一泊できる金額だ。


 基本十枚で次の貨幣に切り替わるが金貨と白金貨だけは百枚単位での切り替わりとなる。


 まぁ場所によって貨幣の名前は変わるし、価値も変わるが基本はこれらしい。


 一人当たり銀貨二十枚を集める事が合格の基準だとすると厳しい様に思える。


 その事をモア様に聞くと


「魔石が一つだいたい銅貨五枚と交換だから銀貨にする為には二十個の魔石を集めなければならないね。それを二十枚だから魔石だけなら四百体魔物を狩らなければならないねぇ」


「期間って確か一ヶ月だよね? 無理じゃないの?」


「魔石だけなら無理かもしれないけど、それに追加で依頼を受けると話が変わってくるよ。例えばゴブリンの精巣は薬の材料になるし、ダンジョン内部からは鉱石も採掘できる。そういった依頼を複数個絡めると銀貨二十枚くらいなら実力が有れば案外届くものだよ」


「ゴブリンの精巣の依頼とかって一つ幾らとかなの?」


「ゴブリンの素材なら相場は一つ当たり銅貨五枚だから需要がある時ならゴブリンは精巣、心臓、脊髄が薬とか珍味として食べられたり、魔道具の素材にされるから、魔石と合わせて大銅貨二枚くらいにはなるね」


「四倍の効率って考えればさっきよりは無理じゃなさそうだね」


「あとスライムって魔物が時々希少なヒヒイロカネという鉱石の塊を吐き出す事があるんだけど、それが出たら金貨一枚分になるからそれを狙うって手もあるね。まぁスライムは魔法が使えないと倒すのに凄い苦労するって欠点もあるけど」


「やっぱり魔法なんだ」


「魔法が使えなくてもなんとかなるけどね~」


 モア様はそう言うが、魔法が使えるか使えないかで稼ぎが全然違いそうである。


「ちなみに冒険者で魔法が使える人の割合ってどれくらいなの?」


「十人に一人」


「あれ? 以外に多い」


「貴族が魔法の技術を独占しているって言うけど、没落して平民になった元貴族とか、貴族から魔法の技術を買った商人の子供とか、突出して才能があった子供とか、冒険者の仲間で技術を教え合ったりとかで冒険者の中だと以外に魔法を使える人は多いよ。勿論実戦で使える技量の人は少ないけど」


「魔法が使えなくても強い人はいるの?」


「居る」


 モア様は断言する。


「魔道具を使っている人がそれに該当するかな。魔剣だったり魔槍だったり···そういう魔法が付与されている武器もダンジョンから偶に出るから、それを使いこなせれば魔法が使えなくても強くなれるよ」


「そうなんだ」


 とりあえず聞きたいことは聞き終わり、俺は鍛錬の続きをするのだった。





 二ヶ月後に再びフーロ姉さんから手紙が届いた。


 全員銀貨二十枚以上稼いで試験を余裕で突破したらしい。


 試験をクリアしたら最低の鉄級という冒険者ランクになるらしく、冒険者ランクはギルドからの信頼でのみ上昇するので、どうやってランクが上がるかは機密らしいのだが、数回依頼をクリアすると少し難しい依頼が回されるので、それを突破するとランクが上がることが多いとのこと。


 フーロ姉さんだけでなく、他のメンバーからも手紙が一緒に入っていた。


 街の旨い店とか鍛冶屋はここに行けとか失敗談やアドバイスが書き込まれていた。


 俺含めた子供達は手紙を回し読みしてエープルという街がどんな場所か想像を膨らませるのだった。

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