アル君 魔法について研究する 狩りのやり方を教わる

 魔法について更に詳しく学べるようになった。


 今までは使えるから魔法を使うという感覚が強かったし、出力の強化と魔法の出力の出し方を考えていたが、もっと根本的に魔法について学ぶ機会があり、印象に残っていた。


「魔法を出す時は血管に魔力を流すように」


 魔素から魔力に変換させて魔法にするサイクルは変わらないが、僕はそのサイクルを更に噛み砕いた。


 魔力の総量は一定値以上は才能によって決まる。


 魔力総量の才能限界にいち早く到達することで他の魔法の練習に移るほうが効率的だ。


 その為には魔力の流れを掴み取る必要がある。


 身体強化の魔法はそれに最適だ。


 無魔法で誰でも使えるし、体全体に魔力を流す必要がある。


 それで感覚を強化すれば魔力の流れを掴めるし、なんとなくどこに魔力が溜まるのかわかる。


 体の絵を描き、そこに魔力の溜まる場所を印していく。


「まず魔素は呼吸によって吸収しているからか肺に溜まる」


 モア様の書庫の中にあった人体解剖図を広げ、肺の絵を描いていく。


 肺から血管を流れ、心臓で魔力変換しているように思える。


 心臓が最初に魔力が溜まる場所なのは間違いない。


 作られた魔力が他に溜まるか···脾臓と脊髄に溜まっているように思える。


 最初は胃袋かと思ったけど、その裏にある脾臓の方が魔力の流れからして自然だ。


 魔獣や魔物と呼ばれる生物の骨に魔力が宿っているのと同じように人類も骨に魔力が宿るのであろう。


 魔力が血管を流れて体を循環していることがわかれば代謝を良くすれば自然と魔力の循環効率も上がるのではないかと考えるようになる。


「アルまた難しい顔して考え事? 本当に魔法が大好きなんだねアルは」


「あ、お姉ちゃん! えへへ」


 ワシャワシャとハーフエルフのフーロ姉さんに撫でられる。


 エルフは人より多く長い耳と青色の瞳が共通する種族だ。


 人よりも魔法の才能に長けているし、見た目も美しく、長寿であるため昔は奴隷として人気が高かったらしいが、反乱を起こして、今では独立国家を運営できる規模まで数を増やしたらしい。


 ただその国は、エルフ以外限られた人しか入ることを許さず、特に混血を極端に嫌うのだとか。


 フーロお姉ちゃんも人とエルフのハーフなのだが、両親のどちらかがエルフの国に帰るために捨てられてしまったらしい。


 それをモア様が拾って育てたという経緯がある。


「魔力の流れについて勉強していたの?」


「うん。血液の流れによって魔力の流れや効率が変わることはわかったんだけど、血液の流れを魔法で早くするのは違うと思うんだよね。何か方法があるのかな?」


「そういう時こそモア様でしょ」


 フーロ姉さんと一緒にモア様の執務室に入り、モア様に質問した。


「アルは本当に魔法が好きだね。血液に着目したのは立派だね」


「じゃあやっぱり」


「そう。血液も関係しているけど、魔力を蓄える場所は臓器だけじゃないんだ」


 僕は首を傾けながら


「え? でも身体強化で魔力の流れを確認したけど溜まっている様に感じた場所は心臓、脾臓、脊髄だと思ったけど?」


「それはまだアルは他の部位に上手く魔力が流れてない。魔力総量が少なくてその部位まで魔力が溜まってないんだ」


 モア様がそう言う。


「じゃあどこなのモア様」


「それはここだよ」


 とモア様は腕と太腿を指差す。


「腕と太もも?」


「正確には筋肉だ。筋肉にも血液が流れているし、筋肉の中に魔力を蓄える粒が点在しているんだ。魔力総量に差があると言ったけど、筋肉の中に魔力を蓄える粒がどれだけあるかが魔力総量の差に直結するんだ。心臓も筋肉だから鍛えられるけど、脾臓や脊髄は鍛えられないだろ? だから皆一定値までは魔力を持っているんだ」


「なるほど」


 僕は納得した。


 前にモア様が大人になってからも微量に成長するというのは筋肉の増減によるものもあるのからだろうか。


「女性の場合は乳房にも魔力が溜まる人もいるんだけどね。女の魔法使いで有名な人物は大抵乳房がデカいのはそのせいなんだけどね」


 とモア様が付け足す。


「ところでアルは何でそんなに魔法について勉強するの?」


 とフーロ姉さんが聞いてきた。


 モア様も知りたいようだが、物語に出てくる英雄達が皆魔法で怪物を倒すのを読み聞かせてもらったからだと思う。


 その事を二人に話すと


「アルは英雄になりたいんだね」


 と言われた。


 確かに英雄になりたいのかもしれない。


 冒険譚の主人公達の様なカッコいい主人公に···


「なれるかな?」


「なれるさ。きっとね!」


 モア様は優しく頭を撫でてくれた。











 モア様曰く魔力総量を上げるにはとにかく魔法を使うのが一番の近道らしい。


 だから魔法を魔力不足で意識が朦朧とするまで使って使って使いまくる。


 身体強化の魔法を扱えるようになったからか畑仕事も色々できるようになったし、大馬鹿カエルの餌やりだってへっちゃらだ。


 魔法を鍛えているつもりなのだが、どう見てもやってることが戦士の鍛錬に近い。


 ライトという小さな光を出す魔法を沢山浮かせながら、空いた時間に筋トレをするのは完全に魔法戦士を目指す鍛錬である。


「魔法使いだからって近接戦闘が弱いと不意打ちで簡単に死ぬ事もあるからね。筋肉を鍛える次いででも良いから鍛えた方が良いよ」


 とモア様からも言われた。


 真面目に取り組んできたからか、僕···いや、俺は七歳ながら兄貴達に混じって狩りのやり方を教わることができた。


 俺以外の年長組だともう少しで街に旅立つ為、狩りにも力が皆入っていた。


 まず下っ端の俺がやらされるのは地図作りだ。


 大人の人に教わりながら森の地図を作成していく。


 この時使う魔法は方位を知る魔法と距離を測る魔法だ。


 距離と方位を把握できればダンジョン等で迷っても生還できる確率がグッと上がるし、精密な地図を作れるだけで売れるのだとか。


 地図作りを三ヶ月かけてみっちり教われば次は兄貴達が仕留めてきた動物の解体作業を覚えていく。


 水魔法が得意なので血抜きも魔法でできるため、辛いのは臓物と肉に分ける作業だろう。


 後は肉の加工のやり方も覚えていく。


 肉は干す、焼く、凍らせることで鮮度を保ち、食あたりを防ぐ必要がある。


 燻製や塩漬け、酢漬けという手もある。


 そういうやり方を教わってから本格的な狩りのやり方を教わる。


 足音を消す方法、動物の痕跡の見つけ方、動物や魔物の性質の勉強等など···


 俺はこの時に事前勉強の大切さを学んだ。


 どんな敵も情報を知っているかいないかで狩りの難易度が段違いだった。


 例えばゴブリンの集団を見つけた時、俺はまだゴブリンの対処の仕方を教わっていなかったが、兄貴達は火の魔法を圧縮して小指サイズまで縮め、ゴブリンに高速で放った。


 ゴブリンに命中すると圧縮の魔法が解かれ、炎がゴブリンを包み込む。


「アル覚えておけ、ゴブリンとかだと痛みを無視して突撃してくる。俺の小さくしたファイヤーボールが貫通しても動物なら痛みで気絶するし、炎で血管が焼かれるから血が出にくくて鮮度を保つことができるし、毛皮のダメージも少ないが、ゴブリンみたいな魔物は殺すために圧縮を解いて内臓から焼く」


「内臓から焼いていけばどんな敵も殺せる。いかに体にダメージを与えるかが大切だ。覚えておけ」


 兄貴が言うには動物はいかに綺麗に殺すか、傷を最小限にするかが大切で、魔物はこちらが攻撃されないかを重点を置いて戦うらしい。


 なので魔物は先に潰すことが大切なのだとか。


「強くなれば自然と綺麗に殺せるようになれるからな」


 と言いながら兄貴は倒したゴブリンの亡骸から魔石を獲っていた。


 俺も大人達や兄貴、姉貴達から学びながら狩りのやり方を覚えるのだった。

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